緒鳴堂 第参話 壱筋肉包
第参話 壱筋肉包
「で……でけた! でけたぞ〜っ! おお〜っ! おお〜っ! うおおおおおお〜っ……!」
パチン!
タッタッタッタッタッタ……。
ガラガラガラガラガラガラ!
「ちょっと! 五月蝿いんですけど…………今、何時だと思ってるんですか……? ぽっちプラトーン止めてもらえます? 折角のお休み何ですから、寝かせて下さいよ……」
「えっ? おお! グッドタイミング! 丁度良いとこ降りて来た! 筋煮込み肉包出来たんだ! ちょっと試食してみてよ!」
「お断りします! 済みません! 今日オフ何で! お休みなさい……」
くるり!
タッタッタッタッタッタ!
「ちょっとちょっとちょっと……待ってよ! そんな事言わないで試食してよ!」
去りゆくきなこ猫パジャマの、尻尾をギュッと掴む。
「やめて下さい! 離して下さい! わたしは寝たいんです! キャ〜っ! 誰か! 誰かぁ〜っ! であえであえ! であえおろぉ〜っ!」
「騒いだって、誰も降りて来やしないさ! 諦めて試食してよ!」
「嫌です! 今日はオフって言ったじゃないですか……? お気に入りの、きなこ猫パジャマの尻尾伸びるんですけど!」
ジッ……。
「何です……急に……黙り込まないで下さいよ……何か変な感じじゃ無いですか……?」
「壱口だけで良いから……お願いします! 留子ちゃん!」
ペコリ!
「やめて下さいよ! 頭下げないで下さいよ! 今日は駄目な日何で! 御免なさい!」
ペコリ!
「そ……そんな! 壱口……壱口だけで良いからさ……お願い! お願いだよ〜お!」
パチン!
両手を合わせて……うるうる目攻撃!
「このとおりだから! ねっ!」
「駄目です! そんな可愛いい素振りしたって、うるうる目したって! わたしの気持ちは揺るぎませんからね! 壱口壱口って言っといて、ずるずるずるずる引っ張って最後まで行っちゃう気満々何でしょ! 見え見えですからね! 試作に付き合ってたら、折角のお休みが無くなっちゃいますからね!」
「頼むよ! ここんとこ、先っちょだけでもさ……壱かじりでいいから……お願いします!」
ペコリィ……深々と頭を下げて。
「まいったなぁ〜……もう、頭上げてよ……じゃあ! ぷらぷら金時の、キングジョッキ苺パフェ練乳の滝地獄で手打つけど!」
「えっ……キングジョッキ苺パフェって……マジかぁマジかぁマジかぁ〜……ん〜仕方ない! 分かったよ! 今度の休みに約束するよ!」
「はあ? 今日よ、今日! 今日わたし休みなの? 分かってる? ずっと言ってるよね! それにキングジョッキ苺パフェ練乳の滝地獄だからね! 間違わないでよ! 明日迄の限定メニュー何だから!」
「今日は駄目だよ〜……午後から休みだけど? 結構明日の仕込みの準備、時間かかりそう何だよ……?」
「なら……お休みなさ〜い!」
「ちょ……ちょっと待ってよ!」
ギュッ!
「今日ね! 尻尾伸びるから……掴まないでくれますか?」
「マジかぁ〜……ああああああ〜……今日の夕方にぷらぷら金時ね! じゃあ! これ! 試食してみてよ!」
「何時よ?」
「夕方くらいでいいじゃんか?」
「はあ? 何ですけど……」
「そんならさ……3時以降で決めてよ?」
「じゃあ3時ね!」
「3時以降でって言ってるじゃん!」
「嗚呼、面倒くさいな? じゃあ3時1分ね! 決まりよ! 4時とか、5時以降って言うべきだったわね!」
「ぐぅぬぬぬぬぬぬ……これ……試食してよ!」
「ちょっとこれ……デカく無い? メロンパンじゃ無いんだしさ? 持った感じは、ほわほわだけど……これ齧り付いたら、中からべっしゃあとか無いよね!」
「大丈夫だと思うけど……?」
「はあ……大丈夫なの? 思うけどって? 何よ? かも知れないって言ってるよね? べっしゃあ確定だよね!」
「このとろとろの筋肉煮込みが、包んであるんだけど……」
「マジ! さっきからいい匂いしてたんだよね! 白飯あったかな?」
「あると思うけど……?」
「取り敢えず丼に、ご飯盛ってくれるかな?」
「良いけど……? 試食してくれるんだよね?」
「当たり前じゃん! 良いから! わたしの気が変わらない内にはやくして!」
「あ……うん、分かったよ!」
「デカいな? ココに切れ込み入れると良いかも! よっと!」
「ちょっと! 何してんだよ! そんなとこ切れ込み入れてさ! はい! ご飯盛って来たよ!」
チラッ……。
「はあ? 少ないよ! もっともっとだよ!」
「何が始まるんだよ?」
「早くして!」
「あ……うん……分かったけど……」
「おお! 良い感じで裂けるね! やっぱりだ! べちゃべちゃだよ! 肉汁半端ねぇ! 小籠包の大っきいバージョンじゃないよね?」
「これで良いかな!」
「有り難う!」
「ねえ? この当然の様に筋肉煮込み、お皿に山盛り盛ってあるのは何かな……?」
「美味いわ! いくらでもカッ込めるわ! とろっとろ最高! やっぱ米だよね! 蒟蒻と牛蒡の食感が良いね! 仄かに優しく香る生姜もきいてて良いんじゃ無い!」
「試食の方、切り込み入れただけで食べて無いじゃん! 筋肉煮込み丼になってるし?」
「これ! ここんとこに、壱筋入れた方がいいよ! 筋肉煮込みだしね? そうね壱筋肉包で合格だよ! 来月の目玉はこれだね! 社長には上手い事いっとくわ!」
「……ちょっと腑に落ち無いけど……有り難う! そのパジャマ? ブチだったっけ……?」
「あっ……パジャマ着てるの忘れてた……やっぱ5時でいいや……予約しといて……落ちるかな〜」
「ブチに染めてあげようか?」
ジロッ!
「これはきなこ猫なの! 塁姉、叩き起こさないと! 疫病神!」
ガラガラガラガラガラガラガラガラ……。
ダッダッダッダッダッダッダッダッ……。
塁姉! 非常事態だよ〜!
第肆話 アンアン饅につづく……。