緒鳴堂 第弐拾漆話 マス書き 前編
第弐拾漆話 マス書き 前編
「は〜い! みんな〜! 手を動かしながらでいいから聞いてぇ!」
「済みませ〜ん! 悪い方からで、お願いします!」
「はあっ! 何も言って無いでしょ……? 勝手に決め付けないでくれるかな?」
「真逆の良い方の奴ですか? 時給が爆上がりするとか!」
「ないないない……ある分けないよ!」
「勝手に、決め付けないでくれるかな?」
「えっ! マジっすか! あのどケチ社長が時給上げるのに、判押してくれたんすか? 青天の霹靂は実在したのか……!」
マジマジマジマジマジマジ……。
ざわざわざわざわざわざわざわざわ……。
「はいはいはい……落ち着いて! 耳をかっぽじってよく聞きなさい! ば〜かば〜か! 考えてもみなさいよ、時給が上がるわけ無いじゃん!」
「はいはいはい……かいさ〜ん! 作業に戻ろ……暴れん棒弐佰本、参Pから催促されてるんだから! 無駄な時間を過ごしてしまった!」
「だよねぇ! 壱瞬でも、儚くも夢見た自分を呪うしかないね!」
「呪うのはやめなよ!」
「自分だから、誰にも迷惑かからないじゃん!」
「分かって無いな! 先月もそんな事言って、何日ブッチしてくれたっけ!」
「あっ……」
ぞろぞろぞろぞろ……。
「金壱封が、出ると言ったらどうなの?」
ピタッ!
「マジっすか?」
「本当にそれは、騙し無しの金壱封何ですか?」
「騙し無しって何よ? 何時も騙くらかしてる見たいじゃないのよ!」
「騙くらかしてるじゃ無いですか?」
「……」
「そこは即、反論するっしょ! 黙ら無いで下さいよ!」
「何か心が疼くんですけど……」
「んんっ! 幾らかは……はっきりとは……してないけどね! あのどケチの社長がモロ出しなのよ! ゴンって、机の上に封筒放り投げてさ!」
「受け取ったんですか……? その封筒の重みを感じたんですか?」
「蛭川さん預かりで、今ビックサンの巨大玉型金庫に入ってるわ!」
「その手に、実際に触れたんですか?」
「いいえ……残念ながら、手には触れて無いけど……確かにこの目で見たわ! その重みを音で感じたわ!」
「あの〜お、すみませ〜ん……肝心要の、お題の方がおざなりになってませんか? 何の為に、あのどケチの社長が金壱封を出すんですか? 嫌な予感しか、みんなしてませんよ?」
「あれ? 言って無かったっけ……?」
「言ってませ〜ん!」
「言って無いで〜す!」
「言わないで、有耶無耶に事をなそうとしてませんか……?」
「金壱封が出ると言ったらどうなの? って、悪い顔して言ってただけですけど!」
「はあぁ? 何が悪い顔よ! えっ? 真逆……皺とか、顔に出来ちゃってる?」
「いつもお綺麗な留子さん? 前置き長いっす! 仕事が手につかないんですけど? 参Pへの、嫌がらせの壱貫何ですかね?」
「な……何言ってるのよ? そ……そんな事……無いわよ! さ……澤さんとは……仲良くやってるわよ! 現に参Pから、今回も発注受けてんじゃないのよ!」
「め……目が怖いんですけど……」
「怖く無いわよ! 全く! でね! これよ!」
バン!
「社長の字だ! 独特な癖字なのか、達筆なのか微妙なラインよね?」
「何て書いてあるんだろ?」
「下手くそ過ぎて、読めないんですけど……?」
「そこは嘘でも達筆過ぎてって、言っといた方が良く無い?」
「私もそう思うよ! 率直に言って、確かに読め無いわ!」
「ほ〜ら!」
「……」
「大丈夫! 直接社長から聞いたから!」
「勿体振らずに、早く言って下さいよ!」
「そうだそうだそうだ!」
「ああ! びっくりした! そんな絵に書いたような、そうだそうだを真横で聞いちゃったよ!」
「何よ……言うでしょ……?」
「そこ! 言いとこついてるよ!」
「えっ……何の事だろうか……?」
「そうだそうだとしか、言って無いけど……?」
「絵よ! 絵の募集だそうよ! 選ぶのは社長の独断と偏見らしいけど!」
「字数が合いませ〜ん!」
「ああ! これね、マス書きって書いてあるそうよ!」
「聞いても読めないね?」
「確かに……」
「うんうん!」
「あの〜質問です! マス書きのマス何ですけど……お魚さんですか?」
「特定は してないみたいなんだ? 其々の心の中のマスを書いてくれって、社長からの伝言です!」
「心の中のマスって言われてもな? そんなのある子って……いるのかな……?」
「提出期間は、壱週間後の土曜日迄ね! 多分……来月の新作に関わる、キーワード何だと思うんだけど……?」
「黙して語らずですよね! 必要最小限しか、言わないと見せかけて、出たとこ勝負何でしょうね?」
「そうだと思う! いつも行き当たりばったりで、適当だからね?」
「伝えたからね! 書けたら裏っかわに氏名をハッキリと書いて、パコパコ目安箱に放り込んどいてね! ここに! 緒鳴堂マス書き大会開催致します事を、宣言致しま〜す!」
「……」
「何よ……全然盛り上がって無いじゃん? お〜っとか、あるでしょ? 普通は……?」
「えっ……もう終わったんだと思って、作業に集中してるんですけど? それ……留子さんの分ですからね! ちゃんと済ませて下さいよ! わたしたち、これ終わらせたらさっさと帰るんで!」
「ちょっと! 多過ぎじゃ無い?」
「留子さんが無駄に駄弁ってる間も、みんな作業してましたからね!」
「分かったわよ!」
次回こそ 第弐拾捌話 饅ぴー 新後編へつづく……!




