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緒鳴堂 【WEB】  作者: 雨澤 穀稼


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緒鳴堂 第拾捌話 饅ぴー 最後の前編


   第拾漆話 饅ぴー 最後の前編


 ぱりぽり……ぽりぽり……もぎゅもぎゅ……。

 ぱりぽり……ぱりぽり……もぎゅもぎゅ……。

 ごっくん……!


「この前の試作用胡瓜、取りに行ってから……調子わるいんだよな……?」


 ちょんと……使えただけなのに……?

 嗚呼! あの壱瞬(いっしゅん)が恨めしい……。

 ぱりぽり……ぱりぽり……もぎゅもぎゅ……。

 ぱりぽり……ぽりぽり……もぎゅもぎゅ……。

 ごっくん!


「真逆な〜……携帯がブラックアウトして操作不能、全て閉ざされて音信不通になったら……仕事が手につかないなんて……? どんだけ依存してたかって事だけどさ……」


 修理すると全て消えて仕舞いますよ! と、言われたブラックアウトした携帯。

 その隣に新しい最新ヴァージョンの、同色の同じ機種が並べられていた……。


「充電は出来るんだよな……? 使えないのに電池残量減るって……そもそもブラックアウトしてるんだよな……? この中に全て詰まってるんだよ〜っ! 戻ってこ〜い! 携帯に全部集約するのって便利だけど……あらためてこの状態になると……考えもの(なん)だよな? 全部入れ直すとのに、参日(みっか)かかったもんな? 無い無い無い無いの大行進でさ、彼方此方引っ掻き廻してしまった(後で……いつか片付けようとは思ってる)……アプリのゲーム、あっさり卒業出来てしまった……あんなに夢中になってたのにな? いっぱい課金してさ……全部消えちゃうんだよな? 入れ直すとさ……アドレスも結構、音信不通になってるのばっかだっんだよな……必要なの結局南極、拾件(じゅっけん)満たないってさ……社会人になって仕事中心の生活だとさ……気分的には真っ白なんだろうけど、心まっ黒になってるよ? 仕事になんないから、休めって言われて……壱週間(いっしゅうかん)たったけど……明日(なん)だよな、出された宿題の期限……胡瓜で試作拾個(じゅっこ)考えろ! あと(ひと)つがなあ……」


 ぽりぽり……ぽりぽり……もぎゅもぎゅ……。

 ぽりぽり……ぽりぽり……もぎゅもぎゅ……。


「はああああああああああああ〜〜……流石に壱週間(いっしゅうかん)壱日中(いちにちじゅう)胡瓜胡瓜胡瓜だと……飽きてきたな〜……な〜んにも思いつかないや〜……。」


 ぽりぽり……ぽりぽり……もぎゅもぎゅ……。

 ごっくん!


「瑞々しくて美味しい胡瓜(なん)だけどな〜……むしろこのまんまが壱番(いちばん)美味しく感じるよな」


 ぽりぽり……ぽりぽり……もぎゅもぎゅ……。

 ぽりぽり……ぽりぽり……もぎゅもぎゅ……。

 ごっくん……。


「氷水でキンキンに冷やした、棒を突き刺した胡瓜! 壱本胡瓜(いっぽんきゅうり)ってどうだろ? 塩水の方がより良いかも! おお! これだ! 冷え冷え胡瓜ぽん!」


 タンタンタン……タンタタ〜ン!

 タンタンタン……タンタタ〜ン!


「あっ! 留子ちゃんからだ……」


 タンタンタン……タンタタ〜ン!

 ピッ!


「おっそ〜い! 早く出てよね! 嫌われてるんじゃないかって、憶測が渦巻いてたわよ! 明日出て来れるの? 出て来ないんなら……栗戸さんに追加の有給申請しとくけど……? 明日、試作持ち寄る日になってるの覚えてるの? こっちから電話しなきゃかけても来ないとかありえないんだけど? 出来てる?」


「そんな壱気(いっき)に言われても……」


「えっ……? 留守番電話が答えた?」


「留守番電話じゃないから……」


「な〜んだ! 元気そうじゃん! 明日から復帰するんでしょ? そんなことよりさ! そこ今月中に出なきゃ駄目なんでしょ? 次決まったの? 決まって無いだろうからさ! 家の喫茶店の寮、使って無い押し入れ空いてるからさ! 安くしとくよ!」


「心配してかけてくれたんじゃ無いんだね?」


「何々言ってるのよ? 心配してかけてんじゃん? 出てくんでしょ?」


「どっちの話し?」


「どっちの話し?」


「どっちもだよ!」


「店の方は出るよ!」


「寮は居座る気なの……? 社長の弟さんに権利が変わるんでしょ? 店も半分になるんだよ?」


「オーナーは代わるけど……居て良いって言われたよ? 契約もしたよ!」


「何? 元祖緒鳴堂本舗(おなりどうほんぽ)に引き抜かれたわけね?」


「違うよ? 徐々に以降してく感じで、暫くは現状維持って聞いてるよ?」


「こっちだって! 残る残らないで揺れてるんだからね?」


「そうなんだ? 社員価格で今まで通りだって話しだよ? みんな慌てて出てったけど……出てかなくて、良かったんじゃないかな?」


「新しい女子寮! ピッカピカだよ!」


「女子寮って言ってるじゃん?」


「だから実家の押し入れ、お友達価格で貸して上げるって言ってるじゃん? お安くしとくよ!」


「ここで全然問題無いんで! 契約も済ませたんで! お断り致します!」


「あのさ……言い忘れてたんだけどね?」


「他に何か問題でも……?」


「そうね……問題っちゃ問題ね……? 謝っとくわ! ごめんね!」


「……? 何に対して謝られるのか? 思い当たる節無いんだけど……?」


「明日来るんだよね?」


「出社するけど……?」


「胡瓜での案ってさ? 拾個(じゅっこ)てさ……出来てたりするんだよね……?」


「出来てるけど……?」


「あっ……そっか……そうだよね! 明日が約束した日だもんね? 当然だよね!」


「何だろう……何か言葉の端々に歯切れの悪さを感じるんだけど……?」


「詳しい事は……明日話すわ! わたしはちゃんと、謝ったからね! じゃあ! また明日!」


 プツン……。


「明日絶対出社しないと、駄目な気がする……」


 第拾玖話 饅ぴー 後編へつづく……。

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