緒鳴堂 第拾陸話 饅ぴー 前編制服
第拾陸話 饅ぴー 前編制服
バン!
「よいしょっと!」
ドン!
「はい! 手を止めて! 割烹着チェックしま〜す!」
なになになになになになに……。
ざわざわざわざわざわざわ……。
「割烹着チェックって何ですか……? 聞いてませんけど……? あれって……留子さんの差し金ですか? 参卍マークのあれ?」
「知ってるけど……知らないわよ?」
「どっちなんですか? ややこしい言い回し止めて下さいよ?」
「彼女は知ってるけど……割烹着チェックは知らないわね?」
バシン!
「シャ〜ラップ! お喋りはそこまで! 壱列に並んで! このフロアはこれで全員かしら?」
「このフロアしか無いでしょ? 平屋建て何だから!」
「全員なの? 誰か隠してたりするわけかしら?」
「そんなの事前に把握しときなさいよ! 栗戸さん!」
「チッチッチ! その呼び名は、委員長眼鏡を掛けてる。事務所にいる時だけにしてくれないかしら? 今日はコレ付けてるでしょ? 割烹A! 参卍のリリスと呼びなさい!」
「参卍のリリス? 何言ってるんてすか? 先輩は事務方の栗戸梨子さんでしょ? それに何よ? 割烹Aって……? わたし割烹Aなの……?」
「わたしだって、社長に言われて仕方無しなのよ! こんな躰のラインパッツンパッツンの、エナメル質の制服何て着たく無いわよ!」
「ですよね? 仕事選んだ方が良いですよ? 先輩!」
シュン! ビシッ!
「そこんとこよ……割烹着の右肩、赤のショルダーに光沢処理でAって入ってるでしょ?」
「その差し棒って、ゾル大佐の奴のレプリカですか?」
「なによ? ゾル大佐何て知らないわよ? 社長からコレが無いと締まらないな、とか何とか言って渡されたのよ!」
「社長の趣味何だ?」
「そうよ! 肩よ! か、た!」
「ああそっか? ゾル大佐のスティックに気を取られてた……この不自然な肩の紅色に、アルファベット入ってたのか? わたしA何だ? みんなもアルファベット入ってるの?」
ざわざわざわざわ……。
「これお胸のサイズと壱緒何ですかね……わたしGですけど!」
「そ……そんなので決まってるの……アルファベットで呼ぶ意味無いじゃん? だぶりまくりでしょ? 見渡した感じ……わたしだけじゃなくても、Aがいるでしょ? 危なくわたしだけかと思ったじゃないのよ……」
「あなたが割烹Aよ!」
「Aって……わたしだけなの……」
「……」
「あっ! わたしC何ですけど……Dです!」
「どっちがよ?」
「肩のアルファベットが、Cですけど!」
「あっ! わたしもB何ですけど……Dです!」
「どっちがB?」
「肩のアルファベットがBです!」
「そ、そうなんだ……」
「割烹A! 気が済んだかしら?」
「何の気が済むのよ?」
「割烹着A! シッ!」
「先輩! みんな同志だと思ってたのに……心のダメージが半端ないんですけど……何て恐ろしい割烹着チェックなのかしら……」
カツン! カツン! カツン!
ゴクリ……。
「ここ……解れてますね……」
「あ……新しい割烹着を……所望致します!」
書き書き……。
カツン! カツン!
「ここ! ここ! ここ! 汚れが目立ちますね!」
「油とお汁が飛び散るので、仕方無いかと思います!」
書き書き書き書き……。
カツン! カツン! カツン!
「どうして……ブラホックの背中なのでしょうか?」
「暑がりなので……ブラ割烹着が、わたしのスタイルであります!」
書き書き書き書き書き書き……。
カツン! カツン! カツン!
「よし!」
「ほっ……」
カツン! カツン! カツン!
「よし!」
「おっし!」
カツン! カツン! カツン!
「割烹A! 何故に新品同様に、ピンピン立ちなんだ!」
「良いでしょ? 問題無しでしょ? 綺麗何だから?」
書き書き書き書き書き書き書き書き書き書き……。
「何? メッチャ書いてるんですか? よしでしょ?」
「わたしは基準に従って、厳正にチェックしていますので!」
「……そうですか了解です!」
「分かれば良い! それで……チェリー君は?」
「実桜君は饅ぴー試作用の胡瓜を仕入にいってから、体調を崩して休養中です! 暫く来ないと思いますよ? 栗戸さん? 休暇願い出しましたよね?」
「今は栗戸ではありません! 参卍のリリスです! 後で確認します!」
「確認も何も……? 壱昨日談笑しながら、受理してくれたじゃありませんか? お忘れですか……?」
書き書き書き書き書き書き書き書き……。
「何を書いてるんですか? 割烹着チェックとは関係無いでしょ?」
「後で確認します!」
「面倒くさ……」
書き書き書き書き書き書き書き書き……。
「だから! 何書いてるんですか? それ?」
「内訳は極秘事項だからいえません!」
「そうですか……はあ……それで! 参時から来る残りの後発隊迄おられるんですか? リリスさん?」
「参卍です!」
「はいはい……参卍のリリスさん!」
「それならば! すでにハンガーチェック済みです! わたし月、金だから、土日は休み何で帰りますよ!」
「それなら……ハンガーチェックでいいんじゃないですか? 烏賊飯稲荷弁当伍佰セットで、やきもきしてるのに……手止めといて帰るんですか?」
「聞いてたでしょ! 帰ります! 即効で!」
「帰すと思ってるんですか?」
「お伝えしますね! 社長からの伝言です! このカタログの中に約捌佰点位制服のサンプルが有りますんで好きなのを選んで言いそうですよ! 後で其々の専属のデザイナーと打ち合わせしながら、個性を生かした制服を作って構わないそうですから……ずっと割烹着の下は私服でしたからね! やっと制服をお渡し出来る様になりますよ!」
「おお! 凄い」
「もしかして……割烹着チェックはフェイクだったとか……?」
「いえ! 割烹着チェックは、ちゃんと規定道理にさせて頂きましたよ! 今後の査定に使わせて頂きますので……よしなにね」
「なにが、よしなにねよ!」
書き書き書き書き書き書き書き書き……。
「もう終ってたんじゃ無いの?」
「じゃあねぇ! お弁当健闘をお祈りいたしますねぇ! ばあ〜い! そこに書いてある締め切りまでに纏めてね!」
「ちょっと! 手伝ってくれたってバチ当たらないでしょ? もう……」
「留子さん! 目移りして決められ無いですよ?」
「はいはいはい……それは後でね! 後発隊が来るまでに準備しとかないとね! 作業に戻るよ〜っ!」
は〜い!
ぞろぞろぞろぞろ……。
「あっ! ご飯詰めた烏賊、蒸して無かったよ!」
「はあ! 何やってんのよ?」
第拾漆話 饅ぴー 後編につづく……?




