緒鳴堂 第拾肆話 饅ぴー 新前編
第拾肆話 饅ぴー 新前編
「あの〜……先輩聞いて良いですか……? ハッキリ言って、めっさ迷ってますよね? 認めましょうよ?」
「やっぱりバレてた……御免……迷った! 何時も来てるんだけどなぁ……?」
「本当に何時も来てるんですよね……? わたし、嵌められてます……? どんどん人気の無い山道に入って行くから、大丈夫かなって……思ってたんですけど……? キャ〜って言っても、こんな山奥の行き止まりじゃ、誰も来てくれそうにないですからね?」
「違う違う! 違うよ! 本当に迷ったんだって! 可笑しいな……? こんな道知らないんだよね……?」
「わたしの我儘を、全て受け止める勇気がお有りなんですね! 先輩!」
「無い無い無い……あれ? あれ……トンネルかな……? ちょっと見てくるね! Uターン出来るかも知れないしさ!」
ガチャ……バタン!
「ちょっ……先輩! もう……あっ! ここって……圏外じゃん?」
ミシッ! ミシッ! ミシミシミシ……。
ズザザザザ……メキメキ、メキメキ……ザザン!
ドオオオォ〜ン!
「うわっ! きっ……木倒れた……何処何処何処……? 音……直ぐ近くだったんだけど……?」
ポツン……ポツン……。
ザァ〜……。
ポッタン……ポッタン……ポッタン……。
ザザ〜……ザザザザ〜……。
「えっ……雨降ってきの……? マジ……」
ピカ〜ッ!
…………………。
「あや〜〜〜……雷駄目なんだよ〜……先輩早く戻って来てよ〜……お腹お腹押さえなきゃ………臍取られるわ?」
ゴロゴロ……ゴロゴロ……ゴロォ〜……。
ザザザ……ザザザ……ザザザザザザァ〜……。
ビカビカ、ビカ〜……。
「いや〜〜〜〜……先輩先輩先輩……早く早く早く〜……帰って来てよ〜っ……」
ドドドドド……ゴロゴロゴロゴロ……ゴロォ〜……。
ピキッ! ザッ……ザッ……ザザザザザ……。
バチン! ピキピキ……ピキッ……。
「何よ?」
ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!
バキッ!
ザザザザザ……ザザザザザザ……ザッ、ザッ、ザッ……。
ブゥ〜ン!
ギッシギッシギッシ……。
のっしのっしのっし……。
「噓……(く……熊?)」
のっしのっしのっしのっし……。
ギッシギッシギッシギッシギッシ……。
「(車に体擦りつけながら歩いてるよ? 噓?)」
ピピピピピピ! ピピピピピピ!
「ちょっとちょっとちょっと! 何よ? ここって圏外じゃないの……? 熊振り向くな振り向くな振り向くな……音消さないと……」
ピッ!
のっしのっしのっしのっし……。
ギッシギッシギッシギッシ……。
ピピピピピピ! ピピピピピピ!
ポン!
「あっ……はい……あんたら! 何してんのよ! 早く! 試作用の胡瓜待ってんだからね! 道教えるからって! どんだけかかってんのよ?」
「あ……あの……今……熊が横いるんで、切りますね……」
プチッ!
……のっし……のっし……。
ふぅ〜っ……。
ザザザザザザ……。
「良かった〜……何事も無く通り過ぎたよ〜……ほっ! どうすはかな? やっぱ、かけ直した方が良いかな……あれ……やっぱ圏外だよ! 着信履歴残ってるし? かかってたよな? 微妙に電波入るとこあるのかな……? 何処何処何処……? ええ……何処も入らないよ?」
ガチャ!
「キャ〜ッ!」
「ど……どうしたんだよ? 丸ちゃん?」
バタン!
「先輩かぁ〜っ! 怖かったよ〜っ!」
「あははははは……何さ? ちょっと離れただけだよ? そんなに怖がら無くても?」
「く……く……く……熊! いましたよね!」
「熊? そんなのいないよ?」
「いたんですって! ここの横んとこのっしのっしって歩いていったんですから……あっちに!」
「ええ? トンネルの方から来たけど、見なかったけどな……?」
「それに! ドォ〜ンて、木が倒れたんですから! あそこんとこ!」
「またまたあ? 木が倒れたんなら外にいたのに気付かないわけ無いだろ? そんな音しなかったけどな……? 夢でも見てたんじゃないのかな?」
「わたし寝てませんから! 起きてましたから! 目何か、ギンギンですから!」
「はいはいはい……まあ、何事もなくて良かったじゃん!」
「そうですけど……? ぷう!」
「それでね……このトンネル越えたら、仕入先の捌尾青果の近くそうなんだよ! 近道見つけたな!」
「本当に近道何ですかね……わたしはお勧めしませんけどね!」
ブルルルルン!
「よし! この先道が細いから、あんまり崖側見ないようにね!」
「このトンネル(2.185kmもあるのに?)歩いて通り抜けたんですか?」
「そんなに長く無かったよ?」
「どんな健脚何ですか? 灯りも無いのに……?」
「本当だって……あれ? 向こう側見えてたけどな? こんな暗かったっけ……?」
「本当に抜けたんですよね?」
「ちゃんと抜けたって!」
「抜けて無いのに途中で諦めてませんか? 正直に言いましょうよ! 根性無しだって……」
「拔けました!」
「せ……先輩?」
「どうしたんだよ? 運転中だよ?」
「あの〜……狐さんが紋付き袴とか……お嫁さんの格好して、赤い傘さしてる行列歩いてるんですけど……? そこんとこ! メッチャ長?」
「へえ……そう何何だ」
バンバンバンバン!
「先輩! 先輩! 見て下さいって! 本当何ですから? メッチャ睨んでますよ?」
「痛い、痛いって? 分かった分かった……運転中だから後でね!」
「先輩アクセル全開で、お願いします! 早く抜けて下さいよ! 早く! 早く! 何か……すっごく怒ってっぽいんですけど……?」
「はいはいはい……言われなくても、もうすぐ出るからさ!」
「あの〜……先輩! お願いがあるんですけど……」
「今度は何? ほら! 出口見えたじゃん!」
「緊急時の買い出しは、先輩が専属でお願いします! わたし無理何で!」
「何弱気なこと行ってるんだよ……? 今日は丸ちゃんに行ってもらえるように、道教えてるんだよ?」
「絶対! 無理だから!」
ジッ!
ピピピピピピ! ピピピピピピ!
「はい! あっ! 先輩に変わるんで! 全部、先輩が悪いんで! はい先輩! 怒られて下さいよ! 留子さんお冠ですよ!」
「だよな〜っ……?」
「ちょっと! 何処で油揚げ売ってんのよ? 饅ぴーの試作用の胡瓜、何時になったら届くのよ!」
第拾伍話 饅ぴー 後編へつづく……。




