緒鳴堂 第拾弐話 饅ぴー 前編
第拾弐話 饅ぴー 前編
「ただいま〜……」
「……」
「何よ! 戻って来たのに、無視なわけ……?」
「……」
「何すれば良いの……?」
「……」
「ちょっと! 何? みんなしで、無視してんのさ!」
「……」
「ちょっと! 何よ……はあ! ヘッドフォンしながら作業って、落ちぶれたもんね! 本店さんは……」
「戻りました! あれ……こんなとこで何してんすか……? 参Pは、どうしたんですか……?」
「あっ……先輩? 変な人が、さっきから騒いでるんですけど……怖かったんですけど……あっ! ドライブスルーのお客様来られたんで! はい! 有り難う御座います! ご注文は、何になさいますか? はい……はい……はい……」
「留子ちゃん! 邪魔になるから、こっちで話し聞くけど……?」
「ええ! ドライブスルーしてるんですか……? 何処にそんな土地が……?」
ジロッ!
「しっ! 声が大きいよ! 聴こえちゃうよ! こっちこっち!」
「えっ……あっ……御免……そっちにシケ込むの?」
「今はさ! 前の試作室件物置きだったとこが、作業場になってるんだ!」
「へえ〜……そうなんだ……全然来てなかったから、亀に乗っかっちゃってるな……わたし」
「急に何……? 聞いて無いんだけど……? 来るなら来るで、言ってくれればいいのに?」
「それよりそれよりよ! 何処にドライブスルーなんてあるのよ……?」
「ここじゃ無くてさ! 参Pの裏の共同立体駐車場、壱月くらい工事してたでしょ?」
「ああ……何かしてたよね? どうせさ! 拡張か何かでしょ? また米倉だったとこ改装して、新店舗増やすそうじゃ無いのさ? 今度は誰が、人身御供にされるんだかね?」
「そうなの? それは初耳だよ?」
「そうなんだ? だいぶ前から噂になってたよ? でさ! ドライブスルーは何処あんのよ?」
「立体駐車場から直接、注文出来るんだよ!」
「ちょっと距離あるんじゃ無いの? そんなのあったっけな?」
「従業員の駐車場地下だからさ! 直接店舗に上がるから、気付か無かったんじゃ無いのかな? 参Pの真裏なんだけどな……?」
「運ぶのは……どうすんのよ!」
「地下通路で歩いてる来てるじゃん?」
「はあ……歩いてわざわざ運んでる訳? ばっかみたい!」
「違うよ! リニア走らせてるから! あっと言う間だよ!」
「ここから彼処に運ぶのに……リニアって! そんなの、ローラースケートでも何でも履かせて走らせなさいよ! 何処に技術と金、ぶっこんでんのよ?」
「元々この辺りは軍の地下施設があったのを再利用してるからさ」
「それじゃあ、地下で受け渡ししてんの……?」
「違うよ! 駐車場に石造りの時計塔、ビックサンがあるでしょ!」
「あるね?」
「ナウシカの風車っぽい奴でしょ?」
「ビックサンが、ドライブスルーの受け渡し場所だよ!」
「はあ……本当、真裏じゃん……参Pの」
「だから言ってるじゃんか?」
「注文は何処でするのよ?」
「また、ゆっくりできる時に、説明するからさ……今日の用事は何なの……?」
「本当に聞いて無いの……? 社長に……?」
「聞いて無いって言ったと思うけど……?」
「あっ……言ってたね……負けちゃったんだよ? 真逆、飼い猫に引っかかれるとわね……まいったわ……」
「……そんな弱気な留子ちゃん……見たくないよ!」
「はあっ! そこは、ちょっとくらい優しい言葉掛けてくれても……バチあたんないでしょ! はあっ! おんだされたのよ! はい! 社長からの指令だってさ!」
「えっ……今更……帰って来るって? 新企画室長兼新運営部長兼新長帽子長って書いてあるんだけど……嘘だろ?」
パン!
「まっ! 頑張ってわたしの下で、こき使われ給えよ!」
「そ……そんな〜……」
ガクッ……しなしなしな〜……。
「ああ〜あ……ピンピンにはってた気が、しなしなに萎れちゃったね……」
「先輩! 大変です! 弐子玉稲荷の大量注文ですけど……どうしましょう……?」
「シャキッとしろ〜っ! 在庫確認! 受け入れ可能数チェックして!」
「了解です!」
「口より先に動こうか?」
「驫木さん! チェックお願い出来るかな?」
「はい! 調べて見ます!」
「先輩! あの人誰何ですか……?」
「わたしは! 緒鳴堂本店! 新企画室長兼新営業部長兼新長帽子長よ! じゃ〜ん! これが社長からの指令書よ!」
「あの? この、子供饅ぴー計画って何ですか?」
「おいおい説明するわ! 兎に角、今を乗り切らないとね……」
「短い天下だったな? で、帽子長だった僕は何になるの?」
「えっ? 帽子長じゃなかったと思うんだけど?」
「帽子長だよ?」
「長い間、帽子長不在だって聞いたよ?」
「ほら! ここに書いてあるから?」
「バイト総括リーダーって書いてあるけど……」
「ほんとだ……全然、気付か無かった? この帽子もらったから、帽子長だと思ってた……?」
「そんなことか……ば〜かば〜か! またわたしの召使いとして、こき使ってあげるから! 励みなさいよ!」
「やってやるよ〜っ! うお〜っ!」
「せ……先輩が壊れた!」
カチャカチャカチャカチャ……。
「新長帽子長、受け入れ可能数クリア出来ます……」
「そう! 壱時間待ってもらえるか! 確認して!」
「あっ……はい! 直ぐに確認とります!」
「さあ! 忙しくなるわよ〜!」
次回 第拾参話 饅ぴー 後編につづく……。




