表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦姫、ブリュンヒルデに捧ぐ  作者: 野之 乃山
四章 プラッツ
78/80

7 狂敵

 臨時中央政府の建物に戻ったあと、カサナシヴァとドラクネル、そしてプラッツ公の協力のもと、ポルトへの強制捜査許可の手続きを行った。


 許可は案外あっさりと降りた。直接の証拠がないので推測にはなるが、おそらくは、アロガン家の後押しもあったのだと思う。彼らの兵士は捧げられてしまったことを、知らないハズがなかった。


 そして、このタイミングで、アラム王国跡を調査していたネロとアリアから、情報が入った。


『覚えているか? あの地下水路』


 電話室で、おれは受話器から聞こえる懐かしい声と話していた。

 忘れるはずもない。


「覚えてるよ。アノインとか、<レッド・ホロウ>とかと初めて出会った場所だから。そこがどうかしたの?」

 

 今ではすっかり、テルミドールやらゴブリンやらと肩を並べるくらい、各地に出現報告がある、流体種のアノイン。スライムのようにぶよぶよとしているが、報告によれば、針のように鋭く伸ばされたその手によって、装甲車が大破させられた事例もある。それでいて、魔法も多少、扱えるから、テルミドールとは比べ物にならない脅威である。


 この種が生まれたのは、アラム王国の地下に張り巡らされていた、古い地下水路のなかで、<レッド・ホロウ>の集会が行われていたときである。

誰も立ち入らないような、水路の奥深く。そこで、生贄としてささげられていた、とある家の娘がいた。陣を組み、絶え間なく魔力を注がれ、ヒトとしての意識を失い、χ化した結果、アノインとして生まれ変わったのだ。


 おれは、それを見た。初めて、ヒトがχ化するその瞬間に、立ち会ったのだ。


 今は亡き戦友の助けをもらい、なんとか、死に物狂いで撃退した。この出来事は、<レッド・ホロウ>との確執の始まりでもあった。

 

 懐かしいか、と聞かれたが、おれは何も答えなかった。


『先日から、けがをしていた生き残りの何人かが喋れるようになったから、情報を貰っていたんだ』

「それはよかった」

『あそこ、襲撃レイドを受ける直前に、女神像が運び込まれていたらしい』

「女神像が?」

『ああ。そんでもってだな、女神像が運び込まれたのと同タイミングで、地下水路全体に、魔物が発生し始めていたそうだ』

「と、言うことは、つまり」


――ここでも、迷宮化か。


「<レッド・ホロウ>はずっとアラム王国の地下で、儀式アセンシオンをやっていたわけだ」

『かもしれない』

「何か痕跡とかはなかった?」

『そもそも、地下水路がなくなった』

「なくなった、とは」

『ごっそりくり抜かれていたんだ』

「……」


 なにも答えられなかった。

 いくら鈍いおれだとしても、流石にもう察していた。このことを、相棒にどう話せばいいかを、ずっと考えていた。


『おそらくだが、最初にやられている。城があったところに、でっかい大穴があった』


 アリアは淡々と、本当にただ報告をするだけだ。

 口を挟んでみた。


「どれくらいの大きさか、わかる?」

『百メートル超と聞いている』


――あれだ。

 そうか、あれだったのだ。

 アラム王国を滅ぼしたのは。


『それは、本当か?』


 電話越しの声は、さすがに驚きを隠せなかったようだ。少しだけ裏返っていた。

 おれは、今朝に見たこと体験したことを、かいつまんで話した。

 カザンの正体や、おれにだけ話してきたことは、誰にも話していないから、もちろん、アリアにも話さなかった。


 簡潔にまとめるのも、報告なのだ、という体だ。

 息を吐く音が聞こえてから、やや間が空いて、そうか、と呟いた。


『今朝がた調子が悪かったんだが、そのせいだったか』

「そこまで届いていたんだ」

『あたしも、そちら側に近いからな、シシと同じように』


 だからだ、と付け加える。


『気を付けろよ、シシ』

「え?」

『お前はかなり危ない場所にいる。なんならあたしよりも、濃い場所にいるかもしれない』


 受話器を持つ手に力が入り、喉が細くなる。

 知られている、というわけでもないだろう。しかし、それなりに深い仲であるから、分かることもある、というやつか。


「肝に銘じておくよ」

『ああ、お前なら大丈夫だと信じているからな』


 そのあと、二、三、言葉を交わして、久しぶりの会話は終わった。

 二〇分くらい話していた。顔を見られなくなって久しい友人の会話ではなかったが、とにかく、元気そうでよかった。それだけで元気づけられるものだ。

 

 受話器を置いて振り返ると、すぐ後ろのテーブルで、リンネがコーヒーをすすっていた。


「それで、どうでしたか?」


 と言うものの、どうせ大体のことは見当がついているのだろう。

 この人に隠し事をしたって無駄だ。それはおれが一番分かっている。

 対面の椅子に腰掛けた。手元には何もない。紅茶があれば、ちょっとは誤魔化せたかもしれない。

 おれは動揺を隠すように、身振り手振りを交えながら、リンネに話を始める。


9/27 

 拙作をお読みいただき誠にありがとうございます。

 前編と後編の間に1、2ヶ月の空白を開けてしまい、大変申し訳ありませんでした。

 その間に、ユニークpvが1,000を越えてしまったり、1日のpvが100に到達できたり、ブックマークをしてくださる方が増えまして、そのときは、大変嬉しく踊り出したいくらいでした。感謝の言葉が尽きません。

 次章が、ラストです。

 しかし、変わらずの遅筆の分際で恐縮ですが、このシシとリンネの話は、ブリュンヒルデだけでは終わりません。

 長い長い道のりとなりますが、書ききる所存でございます。どうか最後までお付き合い願います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ