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戦姫、ブリュンヒルデに捧ぐ  作者: 野之 乃山
三章 ズーベ・ヘーア
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7-3 楽園の門番

 先ほどまで立っていた場所の地面が、ごっそり抉られる。


 すぐさま追撃として、縦長の衝撃波が、水面を割りながらこちらに向かって飛んでくる。それを横の波撃で打消す。


 休む暇もなく、水晶の弾丸が降ってくる。その速度と量から、着弾地点の水面が泡立っている。おれはそれを後ろにステップしながら回避するが、スポットライトのようにそれを照射し続けてくる。


 耳元が熱くなるのを感じる。


「!!」


 考えず、その場に伏せる。


 左横から、青白いレーザがおれの耳あたりを通過した。


 見てみると、左奥にある、壁からせり出している水晶が、真っ青に発光していた。


 再び嫌な空気を、今度は頭上から感じる。転ぶように前へ出ると、レーザが降ってきて、その場の水が蒸発した。


 そのまま立ち上がって、前へ突っ込む。

 向かってくる真っ白な弾丸を避けながら、コアを覆う外皮を切り裂く。


 叫びとともに、巨大な腕が、おれの目の前を掠めていく。その風圧で、おれは大きく後ろに吹っ飛ばされた。

 飛んできたおれの身体を、リンネが片手で受け止めた。


「ありがとう」

「どういたしまして。なかなか良い動きでしたわよ」


 やはり水浸しになっている地面に足を付け、顔を上げた。


 おれたちの目の前に、巨人が立っている。三十メートルだか何十メートルだかと言われていたが、実際、おれたち二人は、その巨人からすれば、テーブルの上のごみ以下の大きさに見えているだろう。


 こちらからは、巨人の胸部より上しか見えない。


 その胸部に、コアが煌々と光り輝いていた。あまりにも巨大な身体を形成、維持するために魔力が必要なようで、コアを守れる余力がないみたいだ。


 なので、倒せないことはない。

 だが、言うは易く行うは難し、だ。


「なかなか、近づけないね」


 先ほどのおれの一撃が、初めてコアに当たった攻撃だ。


「水晶の弾丸もだけど、水晶レーザが――!!」


 咄嗟におれは、リンネと身体を離した。


 その直後、三方向、上、右、真後ろから放たれた青白い閃光が、空中の一地点でぶつかって爆発を起こした。


 バスバスバス!! と、連続して空気が爆ぜ、薄い煙が漂い、独特の匂いが鼻をくすぐった。


 巨人は口を開いて、水晶の弾丸を吐き出した。防護壁は、あれには役に立たない。多少は防げるが、長くはもたない。避けるしかない。


 幸い、二人いる分、追尾は緩い。スポットライトみたいに、走るおれたちを追いかけることしかできない。


 お互いの回避経路を邪魔しないよう、徐々に距離を詰めていくと、今度は巨人の大きな腕が、テーブルの上を滑ってくる。


 あれにぶち当たると、腕の赤い染みになるだろう。


 テーブルクロスのような水が、腕にまきこまれて深淵へと落ちていく。しかし、どこからともなく、水は常に湧き続けている。


 そして、巨人が黒い眼窩の奥を光らせると、ビームが飛んでくる。


 ズボボボボ!! と、ビームになぞられた水面が爆発し、水柱のカーテンが下から突き出す。打ち上げられた水が頬にあたった。生ぬるかった。


 しかも、そのビームは、天井から、左右三六〇度の壁面にびっしりと生えている水晶によって、反射される。


 真後ろからのビームに焼かれる可能性を考えながら、避けなければならない。


 それを避け終えると、再び水晶の弾丸が降ってくるのである。


 水晶レーザは、ビームの余波エネルギーによってランダムに起こるらしく、気を張り巡らせて避けるしかない。


 一連の流れになっていることから、相手はさほど知能の高い個体ではないことが分かるが、とにかくスケールが大きく、全ての行動が即死なので、慎重にならざるを得ず、今まで攻撃が出来なかった。


 先述した通り、コアへの攻撃は通る。コアを守るための外皮はかなり柔らかく、数回攻撃すれば、コアは完全に無防備になる。


 できれば、の話だが。

 リンネが水しぶきを上げながら懐に潜り込んだ。腕が動く。水晶の弾丸が止んだ。


 彼女の後ろから、左腕が動き始めた。


「こンの……ッッ!!」


 槍を逆さに持ち、石突に火球を生み出す。これまで作ったことがないくらい、巨大な火球だ。半径五十センチはあるだろう。


 頭の上に掲げているだけで、足元にある水がぶくぶくと泡立つようなそれを、奴の顔面を目掛け、放つ。


 左腕が持ち上がり、火球を振り払った。

 爆発が起きる。煙が奴の腕に纏わりつく。

 その間に、リンネがコアを守る外皮を斬った。

 その一撃はコアにもおよび、カラフルで派手な火花が飛び散った。


「!!」


 同時に攻撃されたことで、奴の手が離れ、がら空きになった胸部への守りが薄くなるのを狙った。


 小賢しい、とでも言うかのように、巨人は持ち上げた左腕をテーブルに叩きつけた。とんでもない振動が起きる。水が津波のように波及していく。


 これぐらいなら防護壁で守れる。リンネがこちらに向かって全速力で走るのを受け止め、波を打ち消した。


 波が消えると、巨人の右腕がおれたちの頭上にあった。

 彼女を抱えて、テーブルの左側に行くと、待ち構えていたかのように、水晶レーザが目の前で、連続で爆発した。


「リンネ!!」


 おれは彼女を上へ投げ、風魔法で風を起こし、勢いをつけて走らせた。

 水晶レーザを掻い潜り、付与魔術を彼女に施す。


「喰らいな、さいッッ!!」


 凄まじく強化された、X字の剣撃が、ビームを弾きながら直進し、コアへと衝突した瞬間、虹色の光を放ち、大爆発をおこした。


 あたりの水が一瞬にして吹き飛び、巨人の居る方向の壁が崩れ、大きな水晶が割れていく音が響く。


 リンネは軽やかに宙返りしつつ、近くに着地した。


 もうもうと立ち込める煙が、相手の姿を隠す。


 普通の変異種や特異種であるならば、おそらくあの一撃で沈むはずだ。コアに直撃したのならば、なおさらである。


 だが、吹き飛んだ水がもう一度テーブルの上を満たし始めると、煙の中から、ひときわ輝く光が放たれた。


 同時に、ビームが暗闇を切り裂く。

 下から上へと舐め上げ、天井の大水晶にビームが当たると、水晶は青白く発光し始め、そこからビームが乱射された。


 小規模といえど、爆発を起こすほどのエネルギー弾が、文字通り雨のように降り注ぐ。


 防護壁を張って防ぐが、別方向へ勢いを反らすだけでも、とんでもない衝撃が、身体を芯から揺るがしてくる。


 ビームの雨が終わると、今度は右腕が突っ込んできた。


 受けるわけにも行かず、ただがむしゃらに、左に避けた。


 左右に分かれたため、巨人は攻撃をやめて、またニュートラルの位置に戻った。


 何事もなかったように。


「なかなか、しぶとい相手ですわね」


 リンネが顔の水をぬぐう。もはや身体に濡れていない場所などは無く、水を吸った衣服がとても重たく感じられた。


 そうでなくとも、水の足場は、動きづらく、そのせいで体力を余分に消耗させられている。


 決定打に欠けている状態であり、いわゆるジリ貧であった。


――やるしか、ないのだろう。


 巨人のコアを見る。ギラギラに光を放つ、巨体の心臓としてふさわしいサイズのそれには、X字の損傷が見られた。


 しかし。


「傷が、治っている……」


 その傷は、徐々に小さくなっているのが、遠目からでもわかった。


「信じられない回復力だ」おれは呟く。「まるで、迷宮の魔力全てを、吸っているみたいだ」

「実際、そうなのでしょう。あれは、迷宮と言う主を蝕む、寄生虫なのでは」

「……、『ナツロスの門番』、か」

「わたくしも、それを思い出しました」


 じゃあ、ここが。


 ここが、<水晶の楽園>なのだろう。


 まるで、楽園と言う文字から想像されるような風景とは、程遠いように思えるが、身を堕としたナツロスが、正常な身を取り戻した後に迎えた最期の場所というならば、おそらくはそうなのかもしれない。


 中央に、ビームによって真っ白になるまで加熱された、天井の大水晶が落下してきた。


 熱されすぎて、水晶に触れた水がものすごい勢いで蒸発していく。


 巨人の眼窩の奥が、徐々に明るくなっていく。

 おれは、槍を握りしめた。


「ナツロスのお話は、そこで終わりでしょうか」


「潔白になった、彼女の清廉さからもたらされる美に魅入られた、愚かなヒトが、門番によって追い返されるようになった。というのが、最後の言及だったはず」


「では、わたくしたちが、その先を紡ぐのですね」

「そう、なるの、かな?」

「なればこそ」


 リンネはおれに向き合った。


「後世に語り継がれるような、そんな誇らしいものにすべきだと、わたくしは思いますの」

「同感だ」


 差し出された手を、握る。


 力が溢れるのを、()()()()()


 身体のどこからか、魔力が、間欠泉のように湧いて出てくる。

 これ以上は、あつくて、苦しくて、はじけ飛んでしまいそうだ。

 胸が痛くなると同時に、手が強く握られているのを感じる。彼女もそうなのだ。


 目の前の姿を認識した瞬間、


「!!」


 宝珠が、それら力のすべてを抑制した。


 臨界点ギリギリのところで、宝珠が歯止めとなり、ほぼ『ゼルテ』状態ではあるが、リミッタがそこで掛けられたのだ。

 そのおかげで、おれは闇の一歩手前で、リンネは光の一歩前で、留まっていた。


 手足が、真っ黒な深淵のような魔力体に変わっている。同じく、槍も魔力エネルギー体そのものになり、長さも形状も、不安定になっている。


 リンネは、おれとは変わって、天使のような姿をしていた。真っ白なエネルギーを放ち、腰あたりから翼を生やして、宝石のように赤い目が、暗い空間の中で尾を引いていた。


 だが、それも長くは持ちそうにない。感じるのだ、宝珠の限界を。

 しかし、悪くない気分だ。


「宝珠は、長くは持たないよ」

「感じますわ。ですが、問題ないでしょう」


 ビームが、おれたちに向けて放たれる。


 防護壁を展開し、それを防ぐと、衝撃波が空気を叩いた。


 水すらも即座に蒸発するようなエネルギーが、目の前の薄い膜のような、魔力の壁に阻まれている。


 これが、自分の力だとは、とても信じがたかった。


 防ぐどころか、そのまま、前へと進むことすらできた。


 そのまま、十数秒のビーム照射を、難なく防ぎきると、防護壁の周囲の地面が焼け焦げていた。


「おれが、アイツを倒す。時間稼ぎ、頼んだ」


 おれがそう言うと、リンネは珍しく、「にぃ」と、奥歯を見せるような笑みを浮かべた。


「急にカッコよくならないでください。――頼まれましたわ」


 そう言うと、片足で水面を割りながら、リンネが飛翔していった。それを迎え撃つべく、水晶レーザが放たれるが、それよりも速く動ける彼女には、ほとんど無意味であった。


 懐を飛び去ったところで、彼女を捕まえようとする両腕が動き始めた。


 しかし、リンネは軽く、双剣を振るうだけで、大木よりも太い腕を、すっぱりと、チーズのように切断してしまった。


 おれは、それを見ながら、テーブル中央にある、冷え固まった大水晶の一部を切り取り、紡錘形に仕立て直していた。


 ランダムに放たれる水晶レーザの攻撃は、おれの身体の周囲にある防護壁によって、爆発することもなく無効化されていた。


 全長二メートル、重量は百キロを優に超える大水晶の槍を削り出す。もちろん、それは手に持っていない。浮かせる魔術を使って保持しているのだ。


「リンネ!!」


 呼び声だけで、彼女は理解してくれた。巨人からすれば豆粒のような大きさの彼女が、巨人の顎を下から蹴り上げると、大きく身体を伸ばして、巨人は後ろに倒れてしまった。

 コアは、無防備に晒されていた。


「オオオ!!!」


 まずは、水晶の槍を投げる。

 ガギン!! と、硬いものと硬いものが衝突し、火花を盛大に散らした。


「もういっちょ!!」


 身体を大きく捻り、純粋に強化された身体能力で、おれの槍を魔力エネルギー体にしたものを、水晶へと撃ちこんだ。

 すると、水晶はその運動エネルギーを加味したそれを、さらに収斂させ、一点の貫通力と爆発力へと変化させ、

 巨人の巨大なコアを、粉々に打ち砕いた。

 

「!!」


 巨人は、空虚な眼孔を大きく見開き、

 体表を泡立たせ始めた。

 徐々に全身が硬直していき、

 まるで苦しみ悶える悪魔を表現した彫刻のように、灰色になって、停止した。


「シシ!!」


 しばらく、直立不動だったのかもしれない。荒い息を整えるのに必死で、酸欠になったかのような、ふわふわした状態が続いていた。

リンネの呼ぶ声を聴いてから、ようやく、終わったことを自覚した。


 すると、『ゼルテ』の力は、自然に周囲へ発散されていった。目に見える程の強力な魔力の霧が、おれの身体から抜けていく。思わず脱力し、後ろ手にしりもちをついた。彼女はすでに、いつも通りの姿に戻っていた。


「大丈夫ですか⁉」

「うん、大丈夫だ。魔力も、十分に減っている」


 しばらくして、おれの呼吸が収まってから、巨人の崩壊が始まった。灰色の巨像にひびが走り、水に溶かされるように、沈んでいく。

 最後の、頭部が、前方の地面、形容するならテーブルの縁にぶつかって、粉々に砕けた。


 スケールの大きな消滅に見とれていると、


「素晴らしい……、やはり、素晴らしい!!」


 背後から、カザンの声が聞こえた。


     *


「やはり、キミは最高だ」


 カザンは、拍手をしながら、足元を浸す水を気にせず、こちらに歩み寄ってきた。


 先ほど見たような、ボロボロの状態ではなくなっていた。欠損していた指も身体も、死者のような生気のなかった肌も、不自然に明るい。身に纏う紺のスーツも、まるで今まさにおろしたてのような、そんな不自然な綺麗さを見せていた。


 ただ、唯一、カザンの目は、狂気を隠していなかった。


 そこまで交流はない、というか、あの依頼とその悶着以外に、彼と関わったことはないが、おそらく、生前は大口を開けて喋ることは無かったのだろう。

 今のカザンの挙動一つ一つに、違和感を覚えた。


「どうだね、わたしとともに、あの人のもとに行かないか?」


 水を蹴り上げるかのような、無作法な歩行を、おれたちの数メートル前まで続けたが、そこで止まった。リンネが、おれと彼の間に割って入り、彼へ剣を向けたからだ。


 すると、カザンは露骨に嫌悪感をにじませ、口を歪ませながら、前髪をかきあげた。


「まったく、どうして邪魔をするんだい?」

「闇に染まり、思考力すら失われてしまったのですね」


 向けた剣で、居合の体勢を取る。カザンの不愉快そうな雰囲気が、さらに増す。


「わたしの思考は濁ってなどいない。彼は、あの人の目的を遂げるために、必要な力を得ているのだ」


 ゆっくりと、左手をおれに差し出す。無論、おれと彼との間には、数メートルの距離があるし、間に剣を持ったリンネが居る。だから、その手を取るつもりであったとしても、物理的にできない。


 だが、おれはその手を、()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そんな焦りがおれの胸の内でじわじわと染みになっていく。


「さあ、ともにこう。彼も、待っているぞ」


 彼?

 彼とは、誰だ?

 あの人ではないのか。


「彼って」

「そうだ、キミのよく知る、彼だ」


 瞬間、血が沸き立つのを感じた。

 初めての、

 いや、久々の感覚だった。

 いつ、どこで、似たような感情を得たか、あまり思い出したくはなかった。


 だけど、

 目の前の男は、それを掘り起こした。

 大切にそれを収めたはずの容器を、すべてひっくり返して。

 ぐちゃぐちゃに混ぜ返して、これを見ろと言うのだ。


「シシ……?」


 リンネが不安げな声を出す。

 手元に、槍が戻ってきていた。

 違う、これは槍ではない。おれの意思を貫くためのものではない。

 アイツを、アイツの意思と存在をここから刈り取るための、鎌だ。


「素晴らしい!!」


 カザンは感嘆の声を上げる。

 同時に、彼の首が宙に舞った。


 薙いだ空間が遅れて埋まり、水面に、流れに逆らう小さな波を生み出した。

 衝撃波が、空気を叩く音が響く。

 だが、彼は首のない身体だけでも、声を発した。


「素晴らしい、ああ、良いぞ」


 巨人と同じように崩壊していくカザンは、とびきり低い声で、


「待っているからな」


 と言って、消滅した。


 緊張の糸が切れる。足に入っていた力が、一瞬にして消え去ったせいで、膝を折った。槍が手から離れて、光の粒子となって浮いていく。

手を前に出すことができず、危うく顔まで水に浸かる所だったが、リンネが寸前で引っ張り上げてくれた。


「シシ、大丈夫ですか?」


 彼女の顔を見て、おれは口の端を上げて、笑うような表情を作った。多分、かなり不器用な笑い方をしていただろう。それを見て、彼女は苦笑していた。


「さて、どうしましょう」


 水が深淵へと落ちていく音だけが、周囲を包んでいた。出口なんてない、まん丸なテーブルの上におれたちは居て、どこにも道は繋がっていない。


「下に落ちれば帰れるかな」

「正気ですの?」

「元気ならやったかもね」

「もう、まじめに考えてください」


 あまり長居はできない。足元を流れる水はやけに冷たく、確実に体温を奪っていく。疲弊した身体には、良くないことはおれにもわかる。

 彼女が焦り始めた。


「落ち着いて」

「落ち着いていられますか。シシも、ちゃんと探して――」

「あるよ、そこに」


 ある、そこに。

 腕が上がり、()()を指差す。

 リンネはおれの指が示す()()を見ると、右手で口元を隠した。


「どうして……」


 女神像が、そこにあった。

 テーブルの中心は、水晶に占拠されているからか、少しずれた場所にあった。


 おれもリンネも、女神像が崩れたのを見た。それから巨人が現れた。


「触ったら、もう一回崩れて、もう一回アイツが来るとか?」

「冗談でもやめてくださいまし」

「ごめんごめん」


 でも、それが帰る手段なのは、それが放つオーラからわかっていた。

 迷宮を組み替える力。それがおれの中に備わっているかは分からない。


 組み替える力は、そもそも、誰にもないかもしれない。あれは、迷宮が示す、「スイッチ」なだけだ。


 なにせ、迷宮は巨大な魔物だし、魔物の中には知性を持つ個体がある。ゲンマ迷宮という魔物が、知性を持っているとすれば。


 なんにせよ、これ以外に、脱出できるものとして思い浮かぶものはない。


 リンネの手を引いて、女神像に触れる。

 オーラが女神像に引き込まれ、そして光へと変換されていく。水が流れ落ちる音が遠ざかり、ざわざわとした、人の喧騒が近づいてくる。


 世界が白一色に包まれたとき、


――待っているからな。


 その言葉は、延々とおれの頭の中で反射していた。

次週は火、木に投稿します

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