4-2 強欲を蒐集する者
あからさまに異常な様子だった。
上層の入口から迷宮に進入したのだが、所々に中層のような、レンガの通路が混ざっていた。そして、普段なら迷宮内では見なかった、黒い霧のようなアノインと、これまた真っ黒なテルミドールが歩き回っていた。ただの色違いでも、定義上は変異種となるのだろうか、などと、観察する暇もなく、彼らはリンネの手によって霧になってしまう。
見える限りは、思考も攻撃パターンも、おそらく通常種と大差ないようだ。
ただ、彼らが迷宮内に発生するという現状は、ギルドにとっては大問題だ。それもそのはず、テルミドールなどによってクライノートの発生が妨害されてしまった場合、簡単にこの町は廃れてしまうだろう。このズーベ・ヘーアは、やはりクライノートによって生かされているのだ。
そのため、ギルドは依頼を発注した。また、迷宮内の異変であるため、ある程度は戦えるフトラクを利用した内容にしていた。幸い、現在この町にはSランクパーティがいくつか居るようだった。
負傷者の救助(という名目の異変鎮圧)において、やたらめたらに人を突っ込んで、被害を増やせば、たとえ異変が収まったとしても、ギルドは他支部からの批判を免れない。よって、被害拡大を防ぐため、それらSランクパーティを救助班のリーダとして指名し、他パーティをその補助要員としてあたらせた。
おれたち二人が、バレスのパーティとの会話を終え、フリースペースを出たとき、ちょうど三つの班が揃った具合だった。彼ら三人もSランクパーティだと知り、他数人を連れて、おれたちもそれに続いた。
一つの班につき、だいたい十人前後のパーティになった。
ただし、他の班とはやや趣が異なっていた。リーダはその三人ではなく、おれたちだった。こちらにはリンネが居る。そこにおれも含まれているのがどうにも気恥ずかしかったが、相手が相手であるので、この異変を鎮めるためには、おれたち以上の適任は居なかった。
これはこちらにとってはただただ好都合だった。しかし、件の特異種に出会えるか否かは、迷宮次第、あるいはソイツ次第である。
魔物は出会いたくないときに限って顔をみせ、出てきてほしい時に限って尻すらも引っ込める。そんな連中なのだ。その定石通り、おれたちは負傷者の一人も見つけられないまま、ただアノインとテルミドールを蹴散らすままに上層を練り歩き、そして、中層への階段に辿り着いてしまった。
今回の階段は、曲がったりもせず、直線だった。
中層に降りてすぐ、広場になっていた。天井は見えないほど高い。今まさに上層から降りてきたはずだが、この高さだと、地上よりも高い所に天井がありそうに見える。
それでも広場は明るい。それは、広場の中心にやたら大きい焚火台が置いてあるからだ。これも、迷宮内で自然発生したものなのだろうか。非常事態であるのに、換気のことが気になってくる。
それ以外には、広場は何もなかった。後ろには上層への階段、前には通路。一本道になっている。
「あ!!」
一人が広場の中央あたりで声を出した。後ろに居る人だ。
「どうかしたのか」
と、バレスが声を掛けながら振り向く。おれも後ろを見た。
中央にある炎に照らされて、おれたちの影がその壁を薄いインクのように染めていた。
壁か、と誰かが呟いた。そこでようやく気が付いた。階段が埋まってしまっていたのだ。
近くに居るのだろう。前にこれを間近に体験したとき、彼らはおれたちのすぐ近くで、組み替えを行った。そのことから、組み換え技術を適用できる範囲は、そんなに広くはないと推測できる。
「ど、どうしましょう!!」
後続の人たちが頭を抱え、騒ぎ始めた。それが、二人、三人と伝播する。
そうだ、すっかり忘れていた。
組み替えを間近で見ているのは、おれたち五人だけだ。
これが通常の反応なのだ。ついさっきまで降りていた階段が急に見えなくなったりしたら、このほの暗い迷宮の中で閉じ込められたとパニックになる。
パニックに乗せられたのか、はたまた現実から逃げたがっているのか、おれはまた急に、他の班のことが心配になった。
「慌てるな」バレスが低い声で言った。一喝で騒ぎは収まった。「元凶を倒せば、絶対に戻れる。今は負傷者を探すことに集中するんだ」
バレスのお陰で、騒ぎが徐々に安堵の声に変わり、再び緊張感が戻ってきた。
「ここを拠点としましょう」
ソノアの提案によって、負傷者の安全を確保するための場所として、この焚火台のある広場を拠点とすることにした。
組み替えのこともあるが、なによりも、負傷者を伴ったまま、移動することはできない。ましてや相手は特異種の疑いがある。強敵相手にハンデを背負う事はできない。
よって、この十人程度の班をさらに分けた。ソノアを含めた六人は、回復術に長けているメンバだった。そのため、Sランクとして戦闘も十二分にこなせるソノアを、拠点班のリーダとして三人ほど留めた。
残りは、道中で見つけた負傷者の搬送係として、おれたち捜索隊に組み込んだ。
そうして捜索してから数分後、通路内で倒れている四人パーティを発見した。すぐさまサポートメンバが駆け寄ったが、一様にして首を横に振った。
彼らの亡骸に、昔、アラム王国の地下水路で使っていたような、タグをつける。迷宮外からは検知できないが、迷宮内では検知可能なものだ。迷宮に入る際、ギルド官給品として、パーティのリーダにいくつか配られる。
今は生きている者が優先される。おれたちは祈りを捧げ、彼らの身体を踏みつけられないよう脇へと動かし、先へ進んだ。
そのとき、おれは持った人の、傷跡を見た。見たままを詳しく書くと、後で読んだときに、夕飯を食べられなくなるかもしれないので省くが、分厚い鎧をも貫いて、胸部にあったそれは、打撲や切傷の類ではなかった。丸い穴が開いていた。
この人は甲冑を着込んでいるみたいだが、甲冑そのものには傷は少なかった。
擦過傷は多少見られたが、それでも、その傷の少なさは異常というか、不自然ではあった。
――抵抗できないまま、やられてしまったのか……?
あまり死体を探るような真似はしたくないが、少しでも情報を得るために、頭部の甲冑を取り外した。とたん、白い肌が見える。エルフだった。瞼は開いているが、瞳は何も見ていない。口の端から血を流していた。
小さな穴が開いている胸当てを外してから、女性であったことに気づいた。しかし、なによりも目に入ったのが、甲冑の穴よりもさらに小さい傷だった。
「どう思います?」
おれは他のメンバに聞いてみた。
「銃創、銃で撃たれた傷にも見えるが……」ボランが言う。「この甲冑を見る限り、正面からやられたのだろう」
「いやまて。これは、魔導弓の傷じゃないか?」
メンバの一人が甲冑の傷と、遺体の傷を見ながら言った。
「魔導弓?」
「うちのソノアも使っている、弦を魔力で発現させる特殊な弓だ。魔法の矢を射てるとかなんとか。とんでもない速度で射てるみたいだ」
「この人の持っているのが、その弓ですの?」
リンネが比較的奥で倒れている人の近くに立って言う。その人も同じような傷がある。首元に小さな穴が開いていた。
力尽きても、握りしめられた不思議な棒。くの字、と言うより、「(」の字に近いそれは、イメージで浮かぶ弓の中心部に丸い機器が付けられている。
「それだ。ソノアに聞けば、どこの工房製かわかるかもな」
「今重要なのは、なぜ、味方が持つ弓の傷が、当人にも、また仲間にもあるのか、だ」
「他の人は、どうです?」
「こっちは打撲だ。がっつり頭をやられている」
「同じく。後頭部だな」
「後頭部? 後ろから殴られたの?」
「後ろを振り返ったときに、と言う可能性もありますわよ」
「じゃあ――」
ボランが何かを言おうとしたとき。
カンテラの光が明滅した。
「――先にやられたのは、この二人で……」
にもかかわらず、ボランは言葉を続けた。
あの時と同じだった。
――だれも、気づいていない。
まだ続いていたボランの言葉を、手で制した。
「どうした?」ボランは不思議そうにこちらを見た。「なんだ? 何か聞こえるのか?」
「また、ですのね」
リンネの言葉におれは頷いた。
ここではぐれるのはまずい。隊列がやや縦長になっている。とりあえず、おれを中心に集合してもらう。
明滅に気づいた人はいるか、と問うと、誰もが顔を見合わせた。
「ずっと点いたままだったような」
「今、先ほど、一瞬だけ明かりが消えました。以前の経験からすると、おそらく、そこの曲がり角の先は行き止まりになってしまったはずです」
一人がそれを確認しようと足を動かすが、それを止めた。
「離れないでください。近くに居ます」
再び明滅。バレスが低い声でうなった。
「今のが……」
おれは頷く。明らかに間隔が短くなっている。
「え、今も何かあったのか?」ボランが背中に手をやっている。「全く分からなかったぞ」
リンネが鞘から剣を抜いた。皆が武器を手にする。
さらに明滅。先ほどまでの進行方向に、曲がり角が出現した。その先に、やたら明るい部屋があるのが、そこから見える光の加減で分かった。
「あ、おい。遺体が、消えているぞ」
先ほどまで横たわっていた彼らが、すっかりおれたちの目の前から消えていた。
通路ごと切り取って組み替えていたわけではないのか。おれたちだけを動かしたのか、それとも、彼らを異物として吐き出したのか。
「覚悟しろ」
バレスの声で、皆が戦いの目になった。
一人が曲がり角に立つ。退路はないので、後ろに下がることは考えなくていい。それよりも一人だけ取り残されることが、今の状況では一番まずい。
前におれがやったように、その人が角の先を読む魔法を行使した。
壁に写されたのは、やたら煌びやかな空間だった。
白い水晶が壁一面から聳え立っている。床はレンガが敷き詰められたのに平坦な、中層のそれだった。壁と床で、正反対に思えるような異物感がある。この場合の異の方は、床だろうか。
水晶の大きさは疎らだが、一メートルを超えるものは少なそうだが、ソノアたちが待っている拠点ほど広い空間ではない。それに加えて水晶があるから、もっと狭いだろう。
初めにおれが角を曲がった。左手で槍を持ち、右手をやや前方にかざしながら防護壁を展開する。
明らかに異常な空間を渡り切るまで、ボランが殿に就いてくれた。
「まるで、<水晶の楽園>みたいだ」
誰かがそう呟く。
どこかで聞いたことがあるかもしれない言葉だった。記憶の欠片が耳をくすぐり、後ろに注意が向く。
「童話のあれか。確かにな」
「子どもの頃は、あれを聞いて目を輝かせていたんだがな。今は恐ろしくて堪らない」
「同感だ」
――ナツロスは、洞穴で水晶になった。
アイドゥンの怒りを買ったナツロスは、その身を洞穴に隠した。だが、女神の目を欺くことは叶わず、洞穴の中で石像にされてしまった。
恒久にも近い時を経て、己の罪を悔い、清らかな心を取り戻した時、女神の魔法が変化し、醜い石像は、誰の目にも触れられることのない、美しい水晶の像となったのだ。いつしか、その水晶の像は洞窟と一体化し、<水晶の楽園>を形成した。そのきらめきを、どこかの地下深くで放ち続けているのだそうだ。
勇者が現れる、遠い遠い昔の話、とされている。
「え、じゃあ、門番が居るのか?」
誰かが言った。
「門番って?」
「ほら、ナツロスは心を文字通り入れ替えて、清浄な心を手に入れたんだろ。その邪悪な心が、<水晶の楽園>に近寄るものを拒む門番となったんだ」
「どこの伝承だ、それは」
笑い声があがる。
「どこって、ズーベ・ヘーアだ」
おれは足を止め、振り向く。
話をしていた彼らが、咎められると思い、唇を結んで、首を竦めた。しかし、おれにはそのつもりは毛頭なかった。
「あの、今のお話――」
ズドォン!! と。
水晶の壁が弾ける。
後方、数メートル先の水晶が弾丸のように飛翔する。
ボランは素早く対応し、盾を背後へ回した。
「うわあああああ!!」
反射的に、みんな頭を抱えてしゃがみ込む。
足元を掠めた水晶の欠片が、ちゅーんという、間抜けな、水晶とは思えないような音を立てて飛んでくる。
「ボラン!!」
欠片と振動が収まったころ、絡繰盾によって破片を防いでくれていたボランが、膝を折った。
バレスが肩を使って彼を立ち上がらせる。
「このまま行って!!」おれは叫んだ。「おれたちが食い止める!!」
バレスが頷き、開いている片腕を前方の通路へ振った。
通路へと入っていく一団とすれ違う。残ったのは、おれとリンネの二人。
腹から血を流しているボランが、気を付けろよと言った。
それに言葉ではなく、頷きで返した。バレスたちが通路へ入り姿が見えなくなったその時、明滅が起きる。首をわずかに回して見てみると、そこは水晶で埋められてしまっていた。
咆哮。
土煙が吹き飛び、音圧が肌を突き刺す。
壁のように迫ってきたそれを、リンネの剣が音を立てて、斬った。
おれは彼女の傍に並び立つ。
奴の体躯はおおよそ三メートル。何もかもが細い。手も、足も、胴体も。
シルエットだけで言えば、とにかくスレンダーな人に見えないこともない。だが、そいつの頭には、銀色に輝く水晶が、異様な煌めきを放っていた。
青い水晶で出来た身体を、ぎしぎしと軋ませながら、ゆっくりと動き始める。
咆哮。
足元を手で叩きつける。
すると、波のように、生成された水晶が迫ってくる。
左右へと回避する。
奴が低い体勢のまま、こちらに手のひらを向ける。
ほぼ同時に、おれとリンネが駆けだす。
向けられた手のひらから、弾丸サイズの欠片が発射される。
一つ一つが、本物の弾丸のような威力を持っていると見て良いだろう。腹にあたれば、体内で横転して傷を増やす。頭にあたれば、そのまま脳をこねくり回されてしまうだろう。
だから、当たってはならない。
防護壁で防ぎつつ、リンネよりもリーチがすぐれているこちらは、少し手前で槍を振り下ろした。
水晶で固められた表皮はやたらと硬いが、火花を散らして、傷はついた。
見上げると、頭上から拳が降りかかろうとしていた。
通常のクライノートより巨大でも、その何倍も動きは俊敏だった。
その頭の上に、リンネの影が見える。
バツ字に交差した剣撃が、コアを隠している頭上の水晶を直撃する。
後頭部から前頭部にかけて、なぞるように当てたそれにより、拳は途中で消え、水晶の巨人は体勢を崩し、奥へと転んだ。
まずは、動きを封じる。
おれに近い、左足の付け根を攻撃する。
穂先に魔力を丸め込み、身体を捻じり、加える。
身体の反発力をも加えたその刺突は、彗星のように尾を引きながら、奴の身体に直撃し――。
まっすぐに、おれに向かって跳ね返ってきた。
「ッッ⁉⁉」
槍を前へ突き出したままの恰好で、身体だけを翻すように動かし、自身の刺突彗星を間近で避ける。
空気を切り裂く音が遅れて聞こえ、背後で水晶にぶつかり消滅した。
思わず距離を取る。
そのうちに奴は体勢を整え、再び足を地面につけ立ち上がろうとしている。
異変を見ていたリンネが近寄ってきた。一瞬、つま先から頭頂部まで見られ、何もないことを確認された。
「なにがありましたの」
無感情に言う。視線は奴に向いている。
「ちょっとね。リンネ、試したいことがあるんだ」
危機的状況であるのに、おれは笑って言った。余裕があるように見せたかったのか、笑うしかなかったのか、それはおれにも分からない。
それを横目で見て、彼女も微笑んだ。
「構いませんわ」
返答とほぼ同時に、拳が眼前へ迫ってきた。
それを、リンネは華奢な両腕で保持する剣で受け止め、さらにわずかな時間で勢いを押し返した。
火花がぢりぢりと音を立てて宙を舞う。
大きくのけぞり、無防備に晒されたその胴体に対して。
おれは、穂先を低く構え、溜めた一撃を、二回、放った。
一つは魔力を伴ったもの。
もう一つは、圧倒的な速度で突き出された空気が突き進んでいくもの。
それらはほぼ同時に着弾し、
魔力を伴った方が、こちらへ帰ってきた。
「ッッ!!」
左手に持った剣が、それを刀身で捉え、やや拮抗して、真上へと弾かれて消えた。
純粋な衝撃波が穿った穴は、奴の胴体の中心に残ったままだ。
大きくのけぞっているが、こんなものか、と、奴の口が笑うのが見えた。
ただし、これではっきりした。
――奴の身体は、魔法を、魔力を反射する。
剣や通常の弓では歯が立たないほどに、強固な表皮のうえ、それらを硬くしている要因であるその水晶が、魔法を反射している。
こいつは、非常に危険な存在だ。
巨躯に加え、この素早さと硬さからくる攻撃力は、半端じゃない。まずもって接近するなど無謀だ。
だから、安全に戦う、もしくは安全に撤退するためには、無意味に近寄ってはならない。遠距離武器で、攻撃するべきだ。セオリー通りの戦い方だと言える。
そこで、彼らは魔導弓で攻撃したのだろう。
跳ね返ってきた刺突を見る限り、ほぼ速度を維持した状態のまま、反射される。
とんでもない速度で放たれた矢を、避けられなかった。
こうなると、普通のパーティはともかく逃げる。逃げろ、と教えられている。情報を持ち帰ることが、何よりも優先される。そうでなくても、明らかに異常な相手だ、戦利品を置いて、少しでも速く逃げるしかない。
だが、奴には組み替え技術がある。
さすがに、すでにこうやって目の前で立っている以上、おれたちもろとも奴も動くことになるから、使う意味はないが、隠れた相手をあぶり出すにも使えるだろう。
――だから、後ろからやられたのか。
だが。
おれたちは、良くも悪くも、一般的からは逸脱している。
品行方正なパーティではなく、まともなパーティでもない。
「ならば、斬るしかありませんわね」
そう言って、リンネは身体を捻じった。
勢いよく、左の剣を、地面を削りながら振り上げる。
衝撃波が、地を這う竜のごとき様相で、奴の真下に迫る。
爆発。上方向へと逃げた衝撃波は、巨体すらも浮かせるほどの圧力を持っていた。奴の身体が、巨躯に見合わない高さまで浮く。
おれは助走をつける。自分に能力付与魔術を掛けて、足を速くする。
速度が出てから、手前の床に石突を突き立て、
身体を持ち上げた。
勢いが上へと変わり、飛ぶ。
石突を地面から抜き取る勢いを回転力へと変換する。
回転力は遠心力へ。
遠心力を穂先へ。
世界が何十回も天地を入れ替えながら、宙に浮くその巨体へとおれを導く。
最後の回転を縦へと変える。
大きく身体を反らせ、まるで大槌を振り下ろすように。
槍をぶつけた。
衝撃が奴の全身へと渡る。
余波で、周囲の水晶に亀裂が入る。
真下には、既にリンネが待ち構えていた。
地面に巨体が落着する寸前。
十字の剣撃が、奴の胴体を斬り飛ばした。
一瞬遅れて、余波が、壁を十字に切り裂く。
水晶が粉々に砕け散り、宙でぶつかってからからと音を立てる。
天井に足がついた。前のリンネみたいだ、と思う。
頭の水晶の奥に、光るものが見える。
あれが、コアだ。
考えるよりも先に、身体が動く。
霧のように舞う水晶の欠片を厭わず、おれはそこに向けて槍を突き立てた。
卵の殻を割るよりも少ない衝撃が、わずかに腕に伝わった。
瞬間。
細枝のような手足と胴体が、数百倍に膨れ上がり、青い水晶は真っ黒に濁って。
爆発した。
「うわ!!」
爆風で体勢が崩れ、あわや頭から落下、と思って、腕を前に出す。なんの意味もない、気休めだった。
「っよ」
空中で、抱きかかえられる。
そのまま、ふわりと着地する。
時間が動き始め、欠片が降ってきた。みしみし、ぴしぴしと水晶たちが音を立てている。
おれは、まるで小さな子どものように、槍を身体の中心に抱きしめるために、両手足を小さく縮こまらせていた。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
地面に足がついてから、自分の手の中にあるものに気が付いた。
指を開て見てみると、銀色の雲が中で蠢いている不思議なものを持っていた。
これが、原石だと気づくのに、時間がかかった。
身体中に纏わりついている欠片をはたき落していると、それをリンネが持った。
「綺麗ですわ」
「これなら、きっとバブーシュカさんも納得するかも」
青い水晶に侵食されず、銀色を保ち続けているそれは、大きさとしては直径十センチよりも少し大きいか、というところである。
今まで見てきた、クライノートのドロップ品と比べても、明らかに異質であった。
イバーの皮で包み、それをバッグに入れた。
明滅――




