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戦姫、ブリュンヒルデに捧ぐ  作者: 野之 乃山
三章 ズーベ・ヘーア
45/80

4-1 事件

 ゆさり、ゆさり。


 地面が揺れている。

 光がブレている。

 太陽が分裂している。


 いや、太陽が二つあるのはなにもおかしくはない。


 おかしくない――、のか?


 ゆさり、ゆさり。


 地面が揺れている。

 規則的に。

 テンポが一定の揺れなんてあるのだろうか。


 船の上、いや、空を飛んでいるのだろう。

 空を、飛んだことなんてあっただろうか。


 ゆさり、ゆさり。


 おれは赤子だ。

 ここはゆりかごだ。


 誰かが揺らしているのだ。

 それは母親だろう。

 母の顔を、おれは知らない。


 だから、傍に立つ女性の顔が、リンネだったのだ。


「起きてくださいまし」

「いで……ッ⁉」


 額の中心に、弾丸で撃ちぬかれたような衝撃を受けて、おれの意識は地上で横たわる身体へと降りてきた。

 隣のベッドに腰掛けているリンネの指が、頬を突き刺している。


「いま、何時……?」

「八時」

「ああ、割とよく寝た……」

「この騒ぎの中、よく眠れますわね」


 とぼやくリンネの姿は、まだ寝間着のままだった。髪はぐしゃぐしゃで、背伸びをすると、どこかの関節がぽきっと鳴っていた。スリッパを履いて、洗面台へと向かっていった。

 後姿を目で追いながら、おれも身体を起こした。すぐ近くに置いてある小さな時計を見ると、八時ではなく七時半だった。彼女のように洗面台に向かう。


「騒ぎ……?」


 確かに、少々騒がしいのが分かる。人が集まっている感じだ。


 通りに面しているほうの窓を開けてみる。すると、涼しい風が室内に入り込んでくるのと同時に、人々のざわめきがより一層強まって聞こえた。


 歩道には、朝の早いフトラクか、職人かが、隊列に並ぶかのように、ギルド方面へと向かっているのが見える。数としては、そんなに多くは無い。だが、向かいの住宅の窓が開けられ、そこからおれと同じように外を見まわす住人の姿が見え始めた。


 窓を閉めて、洗面所へ入る。リンネはシャワーを浴びているようだったので、手短に済まそうと思い、蛇口をひねって水を手ですくう。


「何がありましたの?」


 水を顔にぶつけて、その冷たさをこすりつけるように洗っていると、リンネの声が聞こえた。


「どうにも、ギルドのところになにかあるみたいだ」


 タオルを手探る。


「なにか、とは?」

「分からない。ただ、人が集まっているのが見えた」


 ふわふわのタオルを顔に押し付けて、鏡を見ると、真後ろにリンネがタオルを巻いた姿で立っていた。


 極力見ないようにしながら、脇へ退く。近くにあったドライヤを洗面台に置く。


 歯ブラシに歯磨き粉をのっけて口に含んでから、洗面所を出ようとすると、服を掴まれた。こぼしたら汚れるからここでしろ、という。もっともだ。だが状況がおかしい。半裸の女性と並んで歯を磨けるわけがない。


 ほとんど目を閉じながら、歯を磨いた。途中で居なくなったので、おれは安心して歯を磨くことができた。


 その後、おれたちは普通に食堂へ降りた。テュールの方も、騒ぎが起きているのは分かるし、原因を訊かれることもあるが、ここから出てないのに分かるわけないっスよ、と笑っていた。


 騒ぎはますます大きくなり続ける。さすがに気になってきたので、おれたちも外へ出てみた。

 宿を出たすぐのところに、集団が出来ていた。割り込むほどのものでもないと思って、遠巻きにその様子を眺めていると、ボロ布が落ちているだけだった。


 ただのボロ布ならばこのような騒ぎにおいて、そこに人が引っかかるはずがない。その人たちの足元をじっと見る。


 血だ。血が、線を引いている。


 ボロ布は黒い塊のように見え、そしてしっとりと濡れていた。近づくと、所々が白くなっている、上着か何かが道路に落ちているようだった。


 逆かもしれない。もともと白い上着が、血で染まりきってしまっているのだろうか。


 じゃあ騒ぎの方向へと行くか、と思った矢先、


 二発の銃声が轟いた。

 人々が一斉に狂乱の叫びを上げながら、ギルド方面から走ってくる。地面に落ちているボロ布なんて、まさにそれらしく蹴散らされていく。


 その場から退けられてハッキリしたが、やはり布の近くには血だまりが出来ていたようだ。しかし、おれたちはすでにギルドへと走っていたから、それは見ていなかった。

歩道には、点々と、血が落ちていた。


 建物前には、また人の壁が出来上がっていた。おれたちはまたそれに阻まれてしまった。

 ざわざわとしているが、なに一つとして言葉として聞こえない。


「火薬のにおいがしますわ」


 リンネが顔をしかめた。

 同時に、子どもの泣き声が聞こえてくる。怒号も飛んでくる。後ろの方、宿の方向から、動力車も飛んできた。


 あの、紺色の動力車は見たことがある。どこで見たか。

そう、つい一昨日のことのように思い出せる。


 派手なブレーキ音とともに、道路に至るまで作られていた人の壁をくずす。あわや接触事故だが、その場の人たちはボロボロと簡単に列を崩した。再び怒号とともに、車が急発進する音が響いた。


 車の動きに目を取られているすきに、リンネが人々の間に割って入っていた。彼女は後ろ手におれの手首を握りしめ、引っ張っていく。


 ちょうど、カーブになっているところが、騒ぎの中心になっていたようだ。


 子どもの泣き声が聞こえる。なにを言っているのだろうか。


 視界が開ける。誰も寄り付かないために、丸い広場が出来ている。

 道路に、大量の血が流れている。


 中央の分離線というのだろうか、そこを縦断して、左右の排水溝にまで届くくらいの量。

 ギルドに近い方、レボ区画へと向かう側の道路。


 そこに、人が二人、倒れているのが見えた。

 おれは目を見開いた。


 一人を庇うようにして、もう一人が覆いかぶさっている。ここからは背中しか見えない。その首元に、赤黒い穴が開いていて、そこから今も血を吹き出し続けている。


 庇われているのは女性だ。おそらくエルフのようだが、その肌の色からして、すでに血の気は失せている。庇っているのは男性だ。


 ギルドスタッフがその子どもを引き剥がしたとき、庇っていた男性の顔がこちらに向いた。どよめきがあがる。


 女性の手には長刀の鞘があった。よく見れば、腹部の右側面が抉られて、右足も膝の下あたりから青く変色し、かかとがこちら側に向いていた。腹部の傷からはすでに血は流れていなかった。ヒトの力によるものではない、と思った。あそこに転がっていた布の持ち主は、この人のようだ。


 男性の首が力なく動かされる。すでに濁ってしまった二つの瞳が、無機質におれたちを見た。光は無い。動くこともない。瞼を閉じることなく、空を向いた。


 おれは、その顔に見覚えがあった。いや、おれだけではなく、ギルドスタッフは見覚えがあるだろう。


 あの時、二階か三階から、おれたちを見下ろしていた、あの時のスタッフ、いや、<ナツロスの定>の団員の一人だった。


 その彼が、今、そこの地面に横たわっていた。

 どうなっている。


 今まさに飛んで来て、飛んで行った動力車の所有者と、なんの関係があるというのだ。


 しかも、その団員がここで死んでいるのなら、殺したのは、あの男なのか。


 思考がグルグルと回る。声も出ず、思わず立ちすくんでしまう。

 すでにこと切れた彼の身体は、未だに血を流し続けている。血が、こちら側に向かって流れてくる。


「おまえたちだ!!」


 子どもの叫び声が聞こえる。

 見ると、泣きじゃくり、顔が血と涙と鼻水でどろどろになった子どもが、おれたちを指差して、叫んでいた。


「おまえたちが、父さんと母さんを殺したんだ!!」


 滅茶苦茶である。


 ギルドスタッフの一人が、子どもをギルドの中へと引きずり込んでいった。彼は半身で、親の血を浴びていた。二本の赤い線が、ギルド内に伸びていく。


 おそらくは、ここに居る壁の何割かは、その時の状況を見ているはずである。

 やったのが誰なのかを、目撃しているはずである。


 それでも。

 この場の空気がおれたちに向かってくる。


 否。


 彼は、おれを指差して言った。


 その視線は、おれに突き刺さる。

 おれは、違う、とも、そうだ、とも言えなかった。

 言葉が出てこない。何かを言うべきかもわからない。

 そうして呆けていると、リンネが手を引いて、ギルドの中へと連れ込んだ。


      *


 ギルド内は当然、騒がしかった。布切れを渡されて、それで靴に着いた血を取った。朝からとんでもない騒ぎが起きてしまったので、依頼受付窓口も換金窓口も閉め、事態の収拾にあたっているようだった。


 そして、一部始終を見ていた人に対して、報酬金を付けた事情聴取を始めた。


 事情聴取に報酬。


 それが口止め料であるとこは、言うまでもなかった。


 時間という要素が、今回の事件に、プレーティヒの一部の貴族の内乱が招いた惨事であったと、飾りを付けた。カザン町長はそれに巻き込まれてしまった形となった。真相はすでに深い暗闇の中に落とされてしまった。


 妥当な落とし所かもしれない。もしかすると、本当に巻き込まれただけだったのかもしれない。


 彼の首に穿たれた穴が、その反証だろうか。


 いずれにせよ、この事件に関しては、箝口令が敷かれた。


 また、ズーベ・ヘーアのギルド支部は、内部に<ナツロスの定>の一部が紛れ込んでいた事実を、今回の事件を利用して隠蔽した。彼が盗賊団の一員であったことを、ギルドは把握していたのにもかかわらず、泳がせていたか、放置していたのだ。それを認めたようなものだ。


 彼は、なぜギルドに居たのだろう。


 単純に考えると、<ナツロスの定>の誰かが捕縛された際に、それを逃すために在籍していた、と言える。


――それだけ、だろうか。


 実際、ギルドの牢から逃げおおせたのは、<ナツロスの定>のメンバのみだ。これが、他の捕縛者も脱走していた、というデータか何かがあれば、それは、単なるギルドへの嫌がらせで居た、と結論付けられる。


 さらに、詳細を聞けば、逃げたのは、あの時のスキンヘッドらの一部だけだった。


 同じ盗賊団のメンバでも、逃げたのはそのスキンヘッドらと数名のみらしい。


 全員ではないという。残されたメンバも、理由を知らされていないと話している。


 ますます意味が分からなくなってきた。おれの頭では、どうやっても繋がっていかない。それはギルドも同様だった。


 ――何が起きるんだろう。


 何が起きている、ではなく、これから、何かが起こるということくらいは、おれでもわかった。もちろん、それは何かの根拠に基づいた推測などではなく、同じ感覚を以前にも味わったから、という経験則に他ならなかった。


 ぼんやりと、天井を見る。


 シャンデリア、というのだろうか。とにかく絢爛な照明がキラキラと光っている。今のおれの気分とは真逆だ。


 石の床へと視線が落ちる。これは作り物の石なのだろうか、それとも、本物だろうか。本物と偽物を区別する術はあるのだろうが、それを、おれは知らない。


 クエストギルドの一角。部屋でも何でもない、ただのベンチに座っていた。


 どうしてこんなに、必死に頭を動かそうとするのだろうか。

 考えるのは、どうしても苦手だった。それなのに、目の前にある関係を見るだけで精一杯なおれが、どうして見えない糸を辿ろうとするのだろう。


――おまえたちが。


 あの子の、言葉が。

 喉の奥に、つっかえている。

 魚の骨のように。


 いくら、つばを飲み込んだところで、喉の筋肉が動くと余計に深々と刺さってしまう。


 ああ、なにか。

 なにか、つっかえを取るものが欲しい。

 単純明快な答え。


 いや、とにかく何か、それとともに腑に落ちる何かが欲しい。

 このままだと、込み上げてきてしまいそうだ。


「彼は、捨てられたのです」


 隣にいるリンネが唐突にそう言った。


「何かが彼らの背にあることはこれではっきり致しました」


 手に持っているカップの中の紅茶を、棒で回す。

 そして、こちらを見て、不思議そうな顔をした。


「何をそんなに悩む必要などあるのです?」

「分からない……」

「分かろうとしないから、分からないのですわ」

「リンネには分かるの?」

「わたくしは、分かろうとしておりません。ただ、見えるものを見ているのみですので」


 そう言って、紅茶のカップをおれに手渡した。

 一口飲んで、微かな甘さを舌で感じながら言った。


「他人の命を奪う奴がいるなんて、許せない」

「盗賊団にかける情けなぞ、無駄なだけですわよ」


 温度のない声でそう言った。思わず首を回してまで、彼女の顔を見た。


「彼らは結局、捨てられただけ。自ら閉ざした殻の中で、外界のような平和と繋がりを求めて、ただひたすらに他者を傷つけた。彼らの求めたものは、冷たいお湯のようなものですわ」


「どういう、こと?」

「ありもしない理想を欲しがった結果なのです」


 そこまで言って、彼女はカップを煽った。においからしてコーヒーだろう。食後のコーヒーを飲んでいなかったからだろうか。

 そのせいで、もう一度口にした紅茶は余計に甘く感じられた。


「シシ、あなたも分かっていたでしょう? 彼らが自らの意思で動いていない、ということを。貴族か何かに操られていた、そう仰っていたではないですか」

「わずかには感じていた、それは分かっていたよ」


「そうでしょうか。今のあなたは、まったく予想外のことが起きてしまい、あまつさえ人命が失われてしまって、どうしよう、と思い悩んでいるのではありませんか? どうして彼が、どうしてあの人が。そんな、考えても仕方のないことばかりが、頭を回っているのでは?」


「考えても、仕方のないこと……」


 そうなのだろうか。


「そうです」


 彼女は断じるように言った。


「あくまでも、わたくしたちの目的は、宝珠を手に入れるための、素材を見つける、その一点ですわ。たとえ水面下でなにが起きていても、わたくしたちには何の関係もございませんのよ」


「そりゃ、そうだけどさ」


 そう言われると確かにそうなのだ。

 自分たちに降りかかって来ないのなら、わざわざ近寄っていく必要はない。リンネから見れば、ごうごうと音をたてて燃え盛っている場所に近寄って、熱い、火傷しそうだ、どうしよう、と言っているのが、今のおれなのだろう。


 離れた場所から見ている人からすれば、じゃあ離れればいいじゃないか、と言ってしまえば終わりだ。


「じゃあどうして、こんなにも、関心を引き付けられるんだろう」


 今のおれは、まさに飛んで火に居るなんとやら、だ。

 ずっと、この流れが付きまとってくる気がしてならない。

 解決しなくては、何とかしなくては。


「そういう見せ方をしているにすぎませんわ」


 誰が、と問う前に。

 クエストギルドに居る人々がざわめき始めた。


      *


 また誰かが殺されたのか、という野次馬がやたらと耳に入ってくる。

 だが、だれもそれに反応しない。


 情報がすぐに入ってきたからだ。


「ゲンマ迷宮の中層付近で、未確認の魔物が報告されました。よって、一定のランク以下のラビンズの方の立ち入りを制限させて頂きます」


 詳細、と言ってもほとんど何も書かれていないに等しい真っ白の紙が張り出される。


 その紙を見ようと前に出たところ、ぽんっと肩を叩かれた。

 振り返ってみると、いつぞやの、三人パーティの獣人の彼だった。

 彼はおれに囁くような声量で言った。


「すまない。少し、話をさせてもらえないだろうか」


 そう言われたので、おれたちは彼に着いていく。

 パーティメンバを募るスペースの奥に、作戦を練る、武器を手入れするなど、様々な用途で使える、フリールームがある。そこの一室に通されると、やはり、いつぞやの弓の女性ともう一人の男性が座っていた。


 彼らはおれたち二人が入ってくるなり、近寄ってきて、手を握った。


「頼む、力を貸してくれ!!」

「えっと……」

「説明したいから、座ってくれ。長くはならない」


 リーダである白い毛がふわふわした彼、バレスは、他の二人を紹介してくれた。黒い肌の魔人の彼はボラン、もう一人の弓使いのエルフ女性はソノア、と言うらしい。おれたちも名前だけ言った。


 相変わらず、リンネの名前は驚かれるが、いつものように(なってしまった)、死体を見た、と言うフォローを入れた。本当に拙い補足だが、深い付き合いにならないのなら、これで十分なようだ。


 説明は簡略化されて伝えられた。リンネはいつものように黙っていた。

 未確認の魔物が現れた。それは唐突な出来事だったようだ。

 唐突じゃない魔物の出現のほうが異例だが、そういう意味ではなかった。


 そいつは別の空間を引き連れて現れた、とのことだった。


「それは……」

「ああ、キミたちも知っての通り、あの時と同じだ」


 <ナツロスの定>が用いていた、迷宮を好きなように組み替える技術。

 それを、その魔物が使っているとのことだった。


 現在、迷宮内には多数の人が取り残されている。三人パーティの彼らが、逃げ帰ってきたラビンズから聞いた話では、現れた魔物は特異種らしかった。


 情報は断片的、まともなのはあまりない。とにかく、攻撃した者から順にやられていった、とにかく逃げるしかなかった、と言っていたようだ。


 迷宮内に居る魔物としては、あの技術の能力を持っているだけで、これ以上となく厄介なのは間違いなかった。


「さらに、そいつが中層あたりに居るせいで、本来ならば中層に居るはずの魔物が、上層まで上がってきている」

「それは、危険な状態ですわね」リンネが適当に言った。

「そうだ、かなり危険だ。だが、むやみやたらに人が突っ込んでも、却って被害を生み出すだけだ」


 それに、と。は言った。


「おれたちの友人が、まだ迷宮から抜け出せないままでいる。組み替えに巻き込まれた可能性が高い」

「つまり、その御友人を救出するのを、助けてほしい、と」

「組み替えはおれたちも経験している。だが、特異種相手となると、おれたちにはどうしようもできない」


 面目ねえ、と、が言った。

 おれはリンネの肩を左手でわずかに引っ張り、耳打ちした。


 おれが思うに、それはクライノートの特異種ではないかと、予想した。

 これも、ただ単なる勘なのだが、あの迷宮の中で起きた異変の影響を、最も受けるのは、固有種のクライノートだ。


 また、これに関してはおれの勘よりも眉唾物だが、変異種や特異種は、一定期間で生じると考えもある。波のように、魔力の疎密があり、一瞬の間、魔力がとんでもなく濃くなり、それによって特別な魔物が凝固するのだという。


 以前倒したレパニカ変異種は、迷宮の外に居た。迷宮の中は、外界とは隔絶されているから、もしかすると、その条件を満たしたのかもしれない。


 となれば、そいつのドロップ品が手に入る可能性がある。特異種のドロップならば、きっととんでもない品物になりうる。


 いずれにせよ、魔物に関しては、こちらはおれたちに直接かかわる話であったので、彼らの話を受けるか否かによらず、討伐しに行く予定ではあった。


「わたくしたちはサポートを致しません。件の魔物を倒すことによって、安全を確保するつもりです」


「心得た。おれたちは人手を集めよう、負傷者を運び出すには、数は多い方がいい」


 そう言って、一度おれたちは別れた。数分後に、迷宮入り口に集合することになった。

 武具を持ってきていなかったので、宿に取りに戻らなければならなかった。


 建物から出る。ギルドの前の人だかりはすっかり消えていた。血だまりも、まるで最初からなかったかのように、きれいさっぱり消え去っていた。


 血の匂いも、子どもの泣き声も、何も無かった。

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