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戦姫、ブリュンヒルデに捧ぐ  作者: 野之 乃山
三章 ズーベ・ヘーア
39/80

2-1 波乱の予感

 ズーベ・ヘーアに来てから、おおよそ一週間が経った。


 毎日のように迷宮に入り、憂さ晴らしのようにクライノートやスライムたちを狩る日々が五日ほど続いた。だが、未だにまともな素材は手に入らず、ただ、ギルドの評価点が積みあがり、懐がそこそこ分厚くなっていた。



 おかげさまで、おれはAランクにプラス二が付いた。レパニカ変異種の討伐記録がおれに付いたからだと思う。未報告の変異種の発見、討伐はそれほどまでに重要な事なのだと感じた。処分のことは、どこかに飛んで行ってしまったようだ。


 そして、リンネはというと、DランクからCを飛び越え、Bランクに上がっていた。CとBランクは登録から四日という期間制限を同じくしていたが、まさかの「一つ飛ばし」が起きてしまった。


 異例、というわけではないが、ランクの()()()が珍しいのには違いない。一年に一回あるかないか程度の頻度である。


 このままの調子で続いていくと、二週間後のAと、同時に行われるSランク審査でA()()()()が起きかねない。これも前例はあるが、十数年間起きていないことだ。


 おれの、一年半ほどでのAランク昇格も、ギルドの統計データ上からすれば十二分に凄いことであると、自慢させてほしい。このままだと、一般的な例として使われてしまいそうだ。


 統計データ上、Aランク昇格までにかかる平均期間は、二年と半年、おおよそその前後である。


 Sランクに関しては、昇格審査に何度も落ちるなどして、昇格するために三年以上の時間がかかることも珍しくない。


 そんな中で、最短でSランクに至った人は、評価制度が設けられて二百年余りのなかで、十数人ほど。また、日数制限が緩和されてスピード昇格が可能になってからの最短昇格は、前のA()()()()()()()、その一人だ。


 そんな中に名を連ねる可能性があるとなると、当然目立つ。迷宮に行くためには、致し方ない。とは言っても、本人のその気の有無にかかわらず、彼女の実力の一角が正しく示されているだけで、こうなってしまうのだ。


 人の上に居るべき人物とは、そうなるのも必然、という訳だろうか。本人は、ランクを煩わしいものと捉えている様子であった。


 リンネのBランク昇格によって、中層への進入許可条件をパスしたので、許可証の更新のために、おれたちは迷宮ギルドに居た。


 ぼそぼそと、おれたちへの噂話が嫌でも耳に入る。クエストギルドほどの広間ではないにしろ、その空間が狭い檻の中に居るみたいで、肩身が縮こまる。


 対して、リンネはいつも通りにしている。迷宮ギルドのスタッフは嬉しそうに言った。


「いやあ、まさか、飛ばしができるほどのお方とは!! 今後のご活躍を期待しておりますぞ!!」

「ええ、ご期待に沿えられるよう、これからも努めて参りますわ」

「うぅん」と嬉しそうにうなる。「さあさ、お連れ様も、どうぞ」


 いつの間にか、この二人のリーダ格が、リンネになってしまっていた。


 もともと、おれがリーダを気取ったつもりもなかったが、リンネにはやはり、そういう才能があるのだろう。


 ただ、即日に進入許可が降りるわけではないようで、審査は確実としても、更新に要する時間は、最短で明日、長くても二日かかると言われた。結局、まだ中層に入ることはできないのだ。


 よって、今日もまた依頼をこなす一日となった。


 迷宮ギルドからクエストギルドへと入る。ここは相変わらずざわざわとしていた。ただ、やはり、かなりの目がおれたちに向いている。


 クエストギルドには、少し難易度の高い依頼をこなすために、または人数に指定がある場合などに、パーティメンバを募るためのスペースがあるのだが、特にそこからの目線が刺さる。


 注がれる熱視線に、どんな意味が込められているか。到底分かったものではない。


 いつものように、クエストギルドの受注窓口に来た。今回は迷宮関係のものはなく、マブライという区画の宝石店の主人が、この町から送る積み荷の安全を確保してほしいとの依頼を出していた。

 今回はそれを受けるようだ。半日が確実にそれで潰れる、時間のかかる依頼だが、その分、報酬が相場より少し高い。完璧に守り切れれば、それだけ評価点を稼げる。


 受注窓口にそれを渡すと、スタッフが奥へと消える。そこで何をしているのかは知らない。


「おい」


 受付スタッフが奥から戻ってきたときに、真後ろから声を掛けられた。

 おれとリンネが振り向くと、すぐ後ろに、おれたちを囲むようにラビンズらしき集団が立っていた。


 二、三人ずつ、左右のカウンタに陣取った。これで包囲の完成だろう。

 極力、面倒くさい感じを出さないようにして、相手の次の言葉を待った。用があるなら、向こうから喋るだろうと思っていたからだ。


 すると、にやけ顔のスキンヘッド男が、口を開いた。


「最近、ここいらで調子のいい奴らがいるって聞いたんだが、おまえらだよな?」


 酒やけしているのか、声の張りがボロボロだ。

 しかし、そうだ、とも、違う、とも返しづらい。


 スキンヘッド男はリーダ格なのだろう、彼の一挙手一投足で、取り巻きにやにやとした粘着質な笑みが増す。


 おれの肩越しに、リンネが顔を出す。


「飛ばしとやらをしたか、と言う意味でしたら、わたくしのことですわね」

「わたくし、だってぇ」


 右の女性の一人が低い声で笑う。


「へぇ。嬢ちゃんが、かい」


 スキンヘッド男は右手で頭を撫でた。


「ええ。なにか御用?」

「いやぁ、用ってほどでもないんだけどね」


 と言って、おれの肩を掴んで、リンネから引き剥がそうとした。

 一瞬、ぐっと堪えた。油断していると持っていかれるくらいの力だったが、それくらいなら、ネロすら動かせないだろう。


 だが、後ろから押す力があった。

 おれは堪えるのをやめて、そのまま男の動かしたいようにされる。窓口から右前方に弾かれた。


 すると、左右にたむろしていた何人かが、男の後ろに立ち、おれとリンネを分断した。


 リンネは微動だにせず、男の前に立っている。


「なに、躾がなっていないペットを叱るだけだ」

「ここにはペットなんて見えませんが」

「おいおい、惚けるんじゃあないよ。嬢ちゃんのことさ」


 ようやく異変を察したのか、その場に居る人たちが騒ぎ始める。

 だが、誰一人として、ここには入ってこようとしない。リドの村なら、騒ぎがあれば、近寄ってきて、囃し立てたりするやつが多かった。

しかし、ここでは、みな、一定の距離を保って近寄ろうとしなかった。


 みんな、目を反らしたり、わざと話し声を大きくしたりするだけだった。


「嬢ちゃんらに、おれたちの場所を荒らされちゃあ困るんだよ。おれたちだって、商売してんだ。売り物がなくなっちゃあ、どうやってご飯を食べればいい?」


「ご自分で育てなされば宜しいのでは? この辺りは土が痩せておりますから、しかし、開拓すれば十分に肥沃な――」


 ゴン、という鈍い音によって、リンネの言葉が途切れる。

 彼女の頭が無理やり横に向く。

 赤い液体が床になった石を叩く。

 

 うっすらと姿勢を低くして、とりあえず腰の位置を狙うポジションを取る。

 しかし、見上げる形で、殴られたリンネと目が合った。


――なにも、するな。

 

「なんだよ、ヒメを助けるんじゃあねえのか?」立ちはだかっている一人が言う。「つまんねぇ、腰抜けがよォ!!」


 左肩を突き飛ばされる。特に抵抗することもなく、おれはしりもちをついた。石の床は、この空気感とは全く無関係の冷たさだった。


 どたどたと騒がしい足音が近づいてくる。すると、スキンヘッドの男は、出入り口を見ながら、また頭を撫でた。


「はぁ、この程度で呼びやがってよ。いいか、嬢ちゃん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 鼻血をぬぐって、リンネはいつも以上に冷たく微笑んだ。


「ええ。()()()()()()()()()()()


 いつもと変わらぬ受け答え、そのトーン。

 おれはそれにうすら寒い感触を覚えた。圧倒される、というのは、こういう気持ちなのだろう。


 おれと同じように感じたのか、取り巻きの何人かが言葉に反応した。前かがみになって、顔を近づけようとしていたのに、急に背筋を伸ばしたのだ。それを感じとれたのなら、彼らは魔物に対しても、生き延びることができる程度に、気配を察することができるのだろう。


 連中はずかずかと、何も言うことなく、野次馬の囲いを我が物顔で突破して、歩いていく。


 入ってきた警備員は、彼らの横を素通りして、おれたちに駆け寄ってきて、わざとらしい大声を出した。だれがやったのか、とか、こんなことをしてただで済むと思っているのか、とか。そんなことを言っていた気がする。


 怪我はないか、と聞いてくる一人を制止して、リンネに近寄る。


「大丈夫?」


 ハンカチを出して、手渡そうとする。だが、彼女は顔を近づけるだけだった。

 ため息。


 仕方がないので、出ている血を拭く。襟などについていないかを確かめる。


「折れたりはしていないね。それにしても、女の人を平気で殴るなんて」


 なんて奴らだ、と、おれが言う前に、彼女はふふ、と笑った。


「どうしたの」

「久々に殴られてしまいましたわ。それが、なんだかおかしく、いえ、懐かしくて」


「よくわかんないな。とりあえず、宿に戻って冷やそう」

「お構いなく。このまま、依頼をこなしますわよ」


 窓口においてあるカードを取る。スタッフが思わず後ずさったのを見るに、また、笑っていたのだろう。

 警備員たちがまばらに消えていく。雑巾を持ったスタッフが、床の鼻血を拭き始めたので、邪魔にならないよう、おれたちは外に出ることにした。


 野次馬たちがゆっくりと散っていく。だが、視線はずっとおれたちに向けたままだ。


 流石に、今では、もう気にならなくなったが。


「後ででも良いんじゃないか?」

「いえ、依頼に遅刻してはなりませんわ」

「はぁ」


 ギルドを出ると、中で騒ぎがあったようだと、遅れた野次馬たちが集まっていた。おれたちはそこを静かに交わして、迷宮への道を歩く。


「で、どうする?」

「どうする、とは?」

「あいつら、だよ。さっきの」

「あぁ」


 まるでもう忘れたかのような反応をする。実際、忘れていたって不思議だとは思わない。もう、興味が依頼の方へと向いている。鼻血を出しているが、これは壁にぶつかってしまったものだと思っているのだろう。


 ずず、と鼻をすすろうとするので、ハンカチを再び押し当てる。鼻声になりながら彼女は言う。


「煽りましょう」

「煽る?」

「ええ。向こうが手をもはや手を出すしかない、と思うくらいに」

「どうして、そんな回りくどいことを?」


 キミらしくもない、という言葉が浮かんできたが、それは喉のあたりで消えた。

 リンネはおれを射竦めるように笑う。


「『どうして、そんなことを?』と訊かれると予想していましたのに」

「どうせここで止めたって無駄だと思ったから」

「そうでしょうか」


 ハンカチを押し当てるおれの腕を押しのけ、右手の人差し指と中指で挟んだ受注カードを見せてくる。


 表に受注番号と依頼番号、裏は受注したギルドの所在地が書いてある。これを依頼者に対して呈示することで、依頼を請けたのはおれたちだ、と、確認する意味を持つ。


「これも、彼らの手の内ですわ」

「手の内? そのカードが?」

「もう、カードじゃあありませんわ。この依頼自体が、わたくしたちをおびき寄せるためのもの、と考えられます」


「どうして」

「あら、シシはおかしいとは思いませんでした?」

「おかしいとは思ったさ。連中、ずっとおれたちの後ろに張っていたのに、声を掛けてきたのは、窓口に行ってからだ」


 おれはそのカードを受け取る。受注カードを持つのはおれの役割だと、自然に決まっていた。

 リンネは首を回して、町を見た。


「なかなか、面白い場所ですわね」

「そうかな。ほこりまみれだよ」


 おれたちは、指定された合流場所に向かった。


         *


 運転手に鼻のことを訊かれ、案の定、リンネは壁にぶつかったと言った。


 依頼主代理であるマブライの宝石商の召使いと言ったエルフの女性は、やたらと首を振り、周囲を窺っている様子だった。


「一応、予備知識の擦り合わせ程度に、お伺いしますが、やはり、そういう傾向があるのですか?」おれは尋ねた。「あなた方のような、いわば中堅どころの荷台が襲われる、とか、女性が運転する荷物が狙われる、とか」


「前者、だと思います」

「運転手が女だろうと男だろうと、魔法を使える運転手なら、返り討ちにされる可能性が跳ね上がりますわ」


 リンネの補足に、その女性はすこしだけ色を取り戻した。

 その人が、こほん、という意味があるとは思えない咳ばらいをする。


「あなた方には、ズーベ・ヘーアから二キロ先、モスナ公国との領境の直前まで、護衛して頂きます。帰りは……」


「大丈夫、歩けます」


 おれが応える。

 予想外の返答に、その女性は分かりやすくたじろいだ。


「しかし、再び襲われる可能性も……」

「その時も返り討ちにしてしまえば良いのです。ご心配なく、そこの人はSクラスですから」

「は、はあ……」


 実質Sプラスαクラスの彼女と、実際Sクラスのおれに挟まれているその人は、しかし、やはり頼り無さそうに頷いた。


 あと数分で発つから、なにかあるならそれまでに、と言われたので、キダラの荷台を見て回った。


 ネロのキダラを貸してもらった時の経験を思い出しながら、キダラ車の点検を久々にしてみた。


 荷台自体はしっかりした造りだ。貴重品を扱う商売柄、商品を傷めないようにしなければならない。そのための工夫が、主に足回りに施されている。


 車軸などを見て回るが、特に異常はない。箱を引っ張るタイプで、後ろは人を乗せるようにできていない。乗る事はできるが、積み荷が飛び出さないように扉があり、それが施錠されるため、咄嗟に飛び出すことはできない。


 というわけで、リンネとおれはその箱の上に乗ることになった。


 しかし、ただただ乗るだけでは、丸見えだ。相手に先手を譲るのは、依頼中の行動としてはあり得ない。


 キダラが動き出し、順調に走り始める。


 箱の上で武具を手に、姿勢を低くする二人を乗せたキダラ車が町中を走っている。


 一応、やってはならない危険行為なので、本来なら目立つはずである。


 だが、誰一人、おれたちには気づかない。後ろにいるキダラ車も、歩道を歩いている歩行者も、だれもこちらを認識していない。認識していないから大丈夫、というわけではないのだが、何かが起きたら、そのまま緊急時特例を使わせてもらうことで、この行為に正当性を持たせられる。


 同行にあたり、おれが比較的得意とする魔法を使う事にした。


 いつしかに長ったらしく書いた、三華の魔法属性のうち、無属性の魔法を行使する。


 無属性は打消しの属性と呼ばれる。故に扱いが難しく、三華に分類される。放った魔法と組み合わせ、狙った効果を得るには便利なのだが、打消す性質との兼ね合いを少しでも見誤ると、全てを打ち消してしまい、途端に無駄になってしまう。


 また、今では得たい効果を狙う方が楽だとされているので、この属性が日の目を見る機会はめっきり減ってしまった。


 だが、今回はこちらの方が、都合がいい。


 視界から、おれたち二人だけを消す。見えているのに、見えないようにする。認識阻害というやつだ。


 隠れる魔法があれば、感知する魔法もある。そのまま感知魔法と呼ばれているそれは、もっぱら伏兵を探るのに特化している。隠れる魔法と同属性ゆえに、反射が起きてしまい、探知される、という仕組みだ。


 そこで、無属性の行使により、魔力の衝突をすり抜けることができる。


 ただし、見破りのための魔法への反応が必要なので、それなりの腕が問われるが、まあ、問題はない。


 町を抜け、キダラは順調なスピードを保ちつつ、モスナ公国へと続く大通りへの接続点まで走っている。


 すると、前を見ているリンネが、背中合わせのおれの腰を触った。

 数えている。間隔からして、事が起きる秒数か。


「あっ!!」


 運転手が声を上げる。異常があればなにか大き目の声で知らせてくれ、とは頼んであるので、それは風を切る中でもよく聞こえた。


「救助するふりをして」


 箱のふちから顔を出し、リンネが運転手の女性にそういった。


 首だけを進行方向へ向けると、誰かが道の真ん中で倒れているのが見えた。


 きれいにど真ん中に倒れているものだ。しかも、そこは左右から出っ張る岩を削って道を通している場所である。

高低差があり、左右に囲いもある。立ち止まるには良くない場所だ。


 徐々に倒れている人へ近づいていく。キダラは停車を余儀なくされる。

 車が完全に止まっても、カウントは止まらない。

 冷たい風が吹く。おれは身構えた。魔力の動きは感じられない。

 周囲に足音が聞こえた。カウントが止まった。

 運転手の女性が降りて近寄っていく。


「!!」


 空気が震える。走査スキャニングが来た。リンネの手を握る。動くな、という合図だ。

 本当のことを言うのなら、盗賊団がそれほど魔法に精通していると、おれは思っていなかった。魔法を使えると言っても、火魔法で火球を放つとか、そう言ったものだと思っていた。


 走査魔法を知っていて、なおかつまともに行使できるなら、無属性で正解だった。


 ただ、おれたちを探しているとは言い切れない。中に入っている積み荷を確認しているだけかもしれない。


 張り詰めた風が止む。


 その途端、箱に誰かが取りついた。地面は岩で硬いから、その上にある土を踏むと音が聞こえる。それにリンネが反応する。


「おい!!」


 声がした方向は、頭上だ。顔を上げると、誰かが切通された岩の上に立っている。


 布で顔を隠している。体躯はそこまで大きくはない。腰に短剣を提げているのが見える。


 声からして、年齢的にはおれと同じくらいだろうか。


 その人物の登場を皮切りに、そこかしこから人が現れる。起伏から、岩の影から、そして、この箱の影から。


 しかし、みな、なぜか、武器を手にしていない。


 帯刀しているが、抜き身で手にしていない。これはおかしい。

 おかしいのは、そもそも上から声を掛けたこともだ。

 リンネが手をほどいた。もう出るか。


 声を掛けた者が降り、運転手の女性に話しかける。彼女の近くにあるのは、人形らしかった。

 なんだか様子がおかしいらしいぞと、隠れていたものがぞろぞろと姿を現す。数えてみれば、十五人ほどが居たらしい。


 集団のリーダのもとに集まっていく。箱への警戒が薄れる。

 音を立てないように着地すると同時に、箱の上部を火球が掠める。


「居ないではないか!! どうなっている⁉」

「居りますわよ、ここに」


 前後に分かれ、集団を挟み込むような形で、おれたちは姿を現す。

 ちょうど半々、いや、少しだけリンネへ向いた数が多いが、誤差だろう。


「キサマらか、おれたちを邪魔しているのは!!」

「なんと、面白みのない『商売』ですこと。邪魔? そちらが関わってきたんじゃあありませんか」

「黙れぇ!!」


 リーダはヒステリックに火球を放つが、リンネは片方の剣で、下から上へと、ふわりとした動作で消す。


 それを合図に、怒号を放ついきりたった集団が向かってくる。

 おれは槍を構えて突っ込んだ。

 キダラは立ちすくみ、その場から動こうとはしない。

 箱を右に見ながら、剣を捌きつつ、打撃を与えて体力をこそぎ取っていく。


 動きからして、この程度の連中なら、いつもの三人でも楽に勝てただろう。


 おおよそ数分程度で、リーダも含めた全員が地面に伏していた。

 服についたほこりを、ぱたぱたと払っているリンネに近寄った。彼女も無傷である。


 運転手の女性は、岩の下で縮こまりながら耳を塞いで震えている。リンネはあごで彼女を示した。さて、なにを言おうか、と、左手で頭を掻きながら、おれは彼女に近づいた。


 ざ、と足音がやけに岩肌に響いた。そのせいで、余計に彼女を怖がらせてしまった。武具を地面において、かがんだ。


「大丈夫ですか? お怪我などはございませんか?」

「ひゃい!!? だ、だいじょうぶです!!」

「そうですか。それはなにより――」

「積み荷も無事ですわよ、行くならお早めに」


 通常、盗賊団に襲撃され、撃退できた際には、保護努力を行うという規定がある。ただし、それはあくまでも努力義務に過ぎず、大抵の場合は、撃退された盗賊団はそのまま放置されている。


 リンネはリーダを縛り上げ、彼らが使っていたであろうキダラを、起伏の影から一頭引き出し、そこに乗せた。彼だけを、ギルドに引き渡すらしい。


「すみません、依頼が中途半端なところで『完了』してしまったようです」


 そういうと、運転手の彼女は再び震えだした。


「あ、あ、あの……」

「連れの言う通りです。すみませんが、後はお一人で行かれますよう」

「で、でも」

「あなたも、保護されないうちに」


 そういうと、彼女は震えながら素早く自身のキダラ車に乗り、モスナへの道に消えていった。

 おそらくは、彼女は安全だろう。少なくとも、盗賊団に襲われることはない。


 ため息を一つ。

 考えるだけ嫌になるような、妙な相関図が浮かび上がってくる。

 商店同士の小競り合いに、盗賊を雇っているというわけか。

 しかも、マブライの商店が頼んだ運転手すらも買い取っている。


 『商売』というのは、そう言ったものも含まれているのだろうか。

 となると、あのギルドで絡んできた彼らは、私兵である可能性も湧いてくる。


 唐突に現れた流れの酷い渦に、立ちながら巻き込まれた感覚だ。おれの考えが甘かっただけだろう。


 目が回る思いを振りほどくように立ち上がると、キダラの口縄を持ってリンネが近づいてきた。


「キダラ、乗れます?」

「ああ、うん。その人以外は?」

「メッセージを伝えてくれる、大切な方々ですわ」

「まさか、真正面からケンカを売る気?」

「まさか」


 ふっと、優しげに笑う。


「どう受け取るかは、彼ら次第ですわ」


 おれは波乱を予感しながら、キダラに乗り、町へ戻った。

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