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戦姫、ブリュンヒルデに捧ぐ  作者: 野之 乃山
二章 自警団
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5-4 ゼルテ

 おれたちの、便宜上「ゼルテ」と呼ぶ力は、おれとリンネの取り決めによって、事実上、封印してしまうことにした。


 この力は、おいそれと乱発するべきではない、もしくは、永遠に発動する機会がないようにしなくてはならない。


 それはなぜか。


 おれの力がχ化に近づくことを意味するのと同様に、リンネの力も、いわば「逆χ化」に近づくと予想されるからだ。


 闇の力の反対の概念、ぶっちゃけて言うと、それはそのまま光の力になる。おれの魔物化の反対だから、彼女はもしかすると神になってしまうのかもしれない。


 神のように、翼をいくつも持ち、神々しい後輪から溢れる光を以て地上を照らす姿を想像する。そんな姿を、意外と似合うかも、と考えたりするのだが、彼女本人は「神」を嫌っているらしいので、そこは尊重すべきだろう。


 陰陽の二元論の話をしたことを思い出す。あの時は、適当に思い浮かんだ単語だったのだが、今になって、自らが体験するようになるとは、思いもよらなかった。


 おれとリンネは魔術的に「繋がっている」のと同時に、「反発し合う」存在となった。おれがおれとして戻るために、リンネが力を分け与えてくれたからという原因があったが、実際のところは、どうやら()()だけではないようだ。


 力と言うのは、まあ魔力であるのだが、彼女がおれを戻す以前に、ギガンテスの防護壁を破るため、二人の魔力を合わせた攻撃を行っている。これもなかなか、おかしな事象であるのだ。


 他者との魔力の体内における混合は禁忌とされている。体内にある魔力はいわば血液型のない血液であり、分け与えることができない。適正がない輸血を行ってしまった場合、体内に異常が起きる。同じように、魔力でそれを行った実験の結果すべてが、()()()()であるからだ。


 マテウスとポボルは、シールド・バッシュを行うとき、マテウスの大盾に強化魔法をかける。これはマテウスの大盾に対してポボルの魔力がかかるだけなので、混合に当たらない。また、試したことはないが、ネロが放った火魔法を、おれの放った風魔法によって炎の竜巻にすることは、理論上、混合に当たらない。あくまで、体内にある魔力での混合のみに限られる。


 ギガンテスへの攻撃もそうではないか、と、おれはリンネに聞いた。マテウスとポボル、或いはネロとおれのようなものではないかと。


 しかし、彼女はおれの手を通じて、魔力の流れを感じ取っていた。


 黝い色と、赫るい色。


 これは共感覚にも似た例えで、彼女はおれの魔力と彼女の魔力の色を見ることができる。魔法適正がないにもかかわらず、だ。


 ただ、実際、魔力と言うものに()がないわけではない。


 それこそ、光と闇の二つの概念が魔力にあるように、色もあると考えられている。


 それを提示した論文は過去にもいくつか存在するが、その考えはあまり浸透していない。共感覚と似ている、つまり、かなり高い魔法適正がなければ、それを実感することはできないからだ。


 また、それら論文を信用するのであれば、魔力の色と言うのは、火魔法とか、風魔法とかといったふうに、身体の中という内界から、世界と言う外界へと発現されてしまうと、色を失うとされている。魔力の色をテーマにした論文全てが、それについて言及しており、一貫して同じ主張を行っている。


 これらのことから、リンネが見たと言う二色は、おれとリンネの魔力であることになり、色の判別ができるほどの、その時点で、魔力が混ざり合っていたことが分かる。


 これはつまり、魔力の混合が成立した、いわば異例なのだ。


 これの検証と、おれたちの超能力ゼルテを考慮すれば、おれたち二人は極力、ふたりくっついて行動した方がいい。


 それを聞いたリンネは、大笑いした。


「わたくしはフリュークで産まれ、フリュークで育ちました。王国一の学校に通い、士官学校を首席で出、また首席で親衛隊に入隊したのです。おおよそ二十年。魔法について腕前は全くでも、知識はそれなり以上に取り込んできたつもりですわ」


 それなのに、と。大層愉快そうに続ける。


「たかだか、ここにきて二年も経たないあなたが!! その結論に至るなんて!! ああ、あの人たちが聞けば、うらやましがるでしょう」


「ご、ごめん」おれは肩をすぼめて謝った。「出過ぎた考えだったかも」

「なにを仰いますの。わたくしも賛成ですわよ」


 夜。今日のリドの村の復興作業を手伝い、そしてギルド支部長に会った。


 アラム王国のこと、そしてリドの村の襲撃のこと。色々なことを話したが、彼らは皆、おれたちを英雄と讃えてくれた。そして、同じように、悲しみに暮れた。


 失ったものの方が大きすぎる、と言うには、生き残った人たちに失礼かもしれない。彼らもそう言っていた。しかし、数値などの絶対評価で表せば、それは事実だ。


 アラム王国、親衛隊、自警団。東大陸における戦力が軒並み消滅してしまった。この村に限ったことであれば、自警団、おおよそ千人強の猛者たちが、殺されてしまった。非戦闘員の損害はゼロ。後衛部隊の損害もなく、彼らは立派に勤めを果たしたのだと、誰しもが涙を流した。それは生き残った人間が辛い事実を飲み込むための言い訳であり、おれもそう思うことにした。


 だからこそ、それを繰り返すわけにはいかなかった。


 西大陸に再び赴き、元凶を倒す。


 リンネたち討伐隊は、ある事実をつかんでいた。それは、西大陸に集結した魔物たちを束ねる、例えるなら「魔神」が存在するというものだ。


 それを倒す。リンネはハッキリと、皆にそう言い放ったのだ。その堂々と、泰然と、自然とした表情、恰好で。ああ、なるほど彼女とはこういう人なのだと、面食らったのは彼らだけではない、おれもだ。


 それを聞いて、ネロの家への帰路、おれは先ほどの提案をしたのだ。

 相変わらず、彼女はおれの二歩、三歩先を歩いている。

 青い月明かりの下。


 ちょうどあの頃と同じ、満月の頃合い。

 そう思えば、結構近づけたのでは。いや、思い上がりだろう。

 今でも、気を抜けばすぐに離されてしまう。


「ゼルテは確かに危険な能力ですが、全く使わないというのも、持ち腐れというものでしょう。どちらか一人がまともであれば、手の打ちようもあることですし」


「どちらともまともじゃなくなったら?」

「その時はその時ですわ。ともに地獄へ参りましょう」


 うーん、目がマジだ。


 月明りのせいか、今、おれの目の前に居る人が魔神なのでは、と思ってしまう。


「おーい!!」


 そんなやりとりをしていると、声をかけられた。

 実は、ここに来た当日に、ネロのキダラの荷台からみたあの酒場の近くに居た。今はネロの家へと帰宅する途中なのである。


 酒場のスイングドアが開かれ、一人の男性が出てくる。近くに街灯があるが、彼の顔はよく見えない。ただ、ジョッキを持っているのは分かった。


「あの時の、オプ・スナ、だっけ、助けてもらった奴だよ!!」

「ああ! 怪我の具合は、もうよろしいのですか?」

「まだちょっと痛むがな。でも」


 ジョッキを持ち替えると、手を差し伸べてきた。おれはそれを少しためらいがちに、握り返した。

 すると、急にそちらへ引き寄せられ、抱擁された。


「ありがとう。結局、礼が言えずじまいだったのと、今回の分も含めて、な」

「今回?」


「わたくしどものような、治療中であったケガ人も、襲撃によって命を落とすことを覚悟しておりました」


 彼の背後、開いたままのスイングドアから、女性が出てきた。この彼の仲間だとすると、おそらくはあの時、ギルドの廊下の床で力尽き、倒れてしまった人だろう。


「ケガ人の移送は時間がかかる。置いていってほしいと頼みましたが、彼らはそれを許さなかった。わたくしどもは最後に移送されましたが、ちょうどそのころ、あなたがキダラに乗って戻ってくるところでした。あなたが居なければ、わたくしはこうやってあなたと再会することも叶わなかったでしょう」


「それは、おれ、いや、自分ではなく、死んでしまった仲間たちが果たしてくれたのでしょう。彼らの慰霊碑が作られる予定ですから――」


「そいつらの分も、アンタが仇を取った。それ含めてだ」


 女性から、小さ目のジョッキを渡される。リンネも手招きされ、近づいた。男性はリンネの顔をみて驚き、ジョッキを渡して後でサインをくれと言った。彼女は快諾した。


 あとから来た、もう一人の獣人の少女も加わり、五人でジョッキをぶつけ、月に掲げた。


「な、アンタの相棒は誰だったんだ?」男性が聞く。「名前を教えてくれ」

「フェンデル」

「そうか、じゃあ」


 フェンデルに。


 献杯を飲み干し、おれたちは別れた。リンネが彼の鎧にサインをするのを待って、酒場から離れた。


「ほら」


 リンネはおれの隣に並んで言う。


「あなたは、守ったのです」

「そう、なのかな」


 小さいが、しかしようやく、実感が分かってきた。


 酒場からは結構離れた場所だったが、それでもその騒がしさは伝わってくる。勾配があり、ここからは村の様子が眺められるが、今は真っ暗にしか見えない。


 だけど、今のように、彼らのように。生きていることを喜んでいる人たちがいることがわかった。


「わたくしよりもずっと、立派なのですわ」

「そんなことはないさ」


()()


 彼女はそう言って立ち止まる。おれは少し行ったところで振り返った。


「わたくしは、二度、あなたに救われているのです」

「どういうこと?」


 どれも心当たりがない。彼女の表情を見ようと、首をひねったが、前髪が目のところに影を作っていて、口だけしか見えない。


「一つは、あなたがゼルテに目覚めたとき。『わたくしとあなたはすでに魔力を共有していたから、わたくしは五体満足で復活できた』。シシの手足も、それと同じ原理」


 沈黙。風はない。


「もう一つは、『シシがここに来る原因となったとき』。魔力を共有するきっかけも、あるとすれば、おそらく()()ですわね」


()()()()()()()()?()


 すっ、と。

 彼女が顔を上げる。いつもの、微笑みだ。


「『使命』は?」

「魔神を、倒す――」


 自然と、いや、違う。

 不自然に、口が動いた。


 呆然とするおれの隣をすり抜け、リンネは再び歩き始めた。我に返ったおれは、急いで後ろについた。


 リンネは振り向かず、言った。


「わたくしたちの新しい武器が来るまで、びしばし鍛えて差し上げますわ」

「ちょ、ちょっと、まって、追っつかないんだけど」

「考えても無駄ですわよ。あなたにはそういう『施錠』が為されていますから」

「じゃあ、なんで――」


 おれの言葉を待たずして、彼女が幼い少女のように笑い、すたすたと歩いて行ってしまった。再び、おれは彼女の二歩後ろを歩くだけになった。

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