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戦姫、ブリュンヒルデに捧ぐ  作者: 野之 乃山
二章 自警団
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3-1 冬の日

 年が明けると、グッと寒くなってしまった。キダラたちはもこもこになり、触り心地がよくなり、ネロのキダラは、彼が毛並みをそろえても、ぼくたち二人のせいでぐしゃぐしゃになってしまっていた。ハプトたちは冬眠をするらしく、道には居なくなっていた。モンスターにもそう言った季節ごとの生態があるらしい。


 今日の天気は雪。白いものが空から降る日だ。朝からちらついては居たが、昼頃になるとさらに本格的に降り始めるらしい。それまでに、いくつか依頼を済ませ、自警団の訓練所に戻らなければ、びしょびしょになってしまうだろう。


「寒い!!」フェンデルが言う。「異常な寒さだ」

「例年通り。去年もこれくらいだったらしいよ」

「お前は寒がりすぎ」


 アリアが言う。ぼくとフェンデルは防寒着を着ているが、彼女は年中、あまり格好が変わらなかった。それも魔人としての耐性なのか、本人はけろりとした顔をしている。寒い、と言う言葉は、彼女の口からはまだ聞けていない。


 吐く息は白い。ぼくも寒いと思った。


 屋台でホットコーヒーを買ってから、ぼくらは鍛冶ギルドの発行書類を手に、グレイン通り、通称職人通りの武器屋に向けて歩いた。こんな季節でも、この村のこの通りは人やキダラが多く行き交っている。どうにも、年始の稼ぎ時らしい。それ以外の理由も思い当たるのだが、それはギルドに入ったときに聞くだろう。


 ぼくらは自警団内外に多少、顔が知られるようになっていた。それは昨年のアラム王国での、人為的χ化未遂事件のことを、あのエッダ王が新年のあいさつで言ってしまったからだ。それは電波に乗せてラジオとして放送されていたので、訓練所にて、皆で聞いていた時の出来事だった。


 アルフレッド教官は何ともうれしそうな表情をしていた。リカルドたちは誇らしげにしていた。ぼくはというと、その場で注目されることが恥ずかしくて、逃げるようにしてそこを後にした。その後、ぼくら六人に対して勲章が与えられた。名前は、長すぎて忘れた。ぼくらに対して新たに作られたものだそうで、若葉とかが入っていたような気がする。ピンバッジのようなものが送られてきたが、失くしてしまいそうだったので、自警団に寄贈した。


 それからというものの、村に出入りするクエストギルド目的の人たちから、握手を求められるようになったり、ときにはサインを書いてほしいなどと言われることもあった。前の、ネロほどではないにしろ、そう言った状況になってしまった。正直なところ、いい気はあまりしなかった。他の二人はどう思っているかは知らない。そういうファンみたいな人たちは、ほとんどその二人に対応を任せていた。ネロからもからかわれるし、ぼくにとって、良いことはほとんどなかった。


 ネロとの手合わせは、相変わらず、ボロボロのままだった。しかし、ぼくも昨年よりも強くはなっていた。槍の扱い方にしろ、魔法の発動にしろ、すべてにおいて、レベルアップしているのは実感していた。フェンデルとの模擬戦も、今のところは安定した成績になっている。アリアとの手合わせはやったことがないが、魔法の能力は二人して、自警団のトップを恣にしていた。だが、そう思うたび、ネロの強さが際立っていく。


 では、どれだけネロが規格外なのか。単純比較で良く用いられるのは、クエストギルドでの、登録者評価制度だ。それは依頼の達成率や、損耗率などを判断して行われている。安全に、しかし素早く、かつ満足度の高い依頼達成が出来ているか、を評価している。


 ぼく、フェンデル、アリアのランクは三人合わせてAマイナスだ。三人での依頼受注が総合件数の九割以上であるため、三人まとめてのチーム評価になっている。これはAクラスとしては平均か、それよりちょっと上ぐらいの位置づけと言える。参考程度に、リカルドら三人も同様にチーム評価になっており、彼らはAだ。よって、クエストギルドの評価で言えば、彼らの方が上である。

 対して、ネロのランクは、Sプラス一〇。受注依頼の難易度と、損耗率、満足度などを毎回満点と評価されているだけではなく、特異種・変異種などの調査をこなし、計り知れない貢献を行っているというものだった。


 もちろん、それだけでは彼女のすごさは分からない。近くに居ても、わからないのだが、そう言った評価だけでは、奥底にある彼女のなにかは感じられない。へぇ、すごい、くらいにしか思わないだろう。


 打ち合ってみれば、感じるだろう。ただ、刃をまともに交えることができるのは、フェンデルとリカルドの二人掛かりでも駄目だった。一度、リカルドらとフェンデル、アリアの五人と、ネロ一人の手合わせがあった。新年の余興だった。


 開幕、フェンデルが飛び掛かったのだが、おそらく本物の剣なら上半身と下半身をサヨナラすることになっただろう。胴体の横なぎを一回。五秒も経たずに、フェンデルがリタイア。


 次にリカルドとポボルがコンビネーション・アタックを仕掛ける。ポボルの剣の腕も中々のものであり、身軽なリカルドの素早い攻撃と組み合わさると、目が回されるほどに厄介だった。しかし、それらすべてをある程度誘導しつつ、マテウスのシールド・バッシュをマテウスごと蹴り飛ばしながら、リカルドとポボルを、まともに打ち合わずにリタイアさせる。ぼくの目が確かなら、前方右斜め上にいたリカルドの首を叩いた後、右後方斜め下に構えていたポボルの顎を叩いていた。


 マテウスは立ち上がったが、アリアの射線上に居てしまったがために、アリアの攻撃によってリタイア。


 残ったのはアリアだけ。もっとも善戦したのは彼女だろう。しかし、あっけなくリタイア。明らかに遊ばれていた。


 そのあと、速攻でリタイアさせられたフェンデルから、ぼくへの指名がかかった。衆目の中で、ネロとの手合わせをすることになった。


 結果は、言うまでもないだろう。


 彼女の攻撃は防ぐと、彼女が攻撃しやすいように調整される。彼女に攻撃すると、彼女が攻撃しやすいように調整される。相手をコントロールする能力が格段に秀でているのだろう。真剣に技を繰り出しても、ネロにかかれば、演武の一つに組み込まれてしまうのだ。


 六人が肩を震わせて、汗を流していたのにも関わらず、ネロはため息一つで呼吸が整っていた。


 目標にするにはあまりにも遠すぎる、ぼくはそう感じた。


 白い息を眺めるうち、目的の武器屋についた。そこのオーナに書類を渡す。これは武器作成許可書だ。つまり、ようやく刃のある武器を持つことを許されたのだ。

フェンデルとアリアは剣だが、フェンデルの得物は刀身がやや長い。宮廷剣術とかいうは、長めの剣を使うらしい。アリアのものは、オーソドックスな剣だ。


 ぼくは、相変わらず槍を使っていた。正直、使いこなせているかどうかもわからない。アラム王国から来たユキムラ式槍術の師範代によれば、「カタチはあるが、いわば気がそこにない」と評された。

 やはり、ぼくのネックはそこだった。


 オーナから武器を受け取る。

アルダネートの木という、とにかくしなり、そして耐久性に優れた木を柄に使い、穂先の刃は魔力浸透率の高い金属を使った。刃の逆の部位にも同じ金属をはめてあるので、逆さまに持てば、杖として使うこともできる。


 全長はぼくの身長よりもやや長い、二メートル。アルダネートは上記の特徴に加え、他の材木よりも重たい。もっとも軽い素材と比較して、三割増しと言ったところだ。手触りは滑らか、薬剤を塗布していないため、つるつると滑らない。

 穂の形も色々あったが、普通の細長いものではなく、図形で表すなら、縦に細長い二等辺三角形と逆正三角を付けたものになっている。間に溝を作ることで、そこに刀身をはさんでしまうことも可能だ。やろうと思えば、武器破壊だって可能だ。そこで折ってしまうこともできる。


 深緑色の柄を握りしめる。カバーもともに受け取り、その中に槍を入れた。抜き身で持ち歩くことは、当然ながらできない。ぼくがいま、この手に持っているものは、他者の命を簡単に奪う事ができる。魔法もやろうと思えば、誰かの命を奪うことができるものだが、あれは、それだけのイメージ、つまるところ、それだけの殺意を抱かなければならない。しかし、これは性質が違う。ぼくがこいつを、それなりの力で振るえば、これはそれだけの威力を持って、相手を傷つけるだろう。たとえ、ぼくに殺意がなかったとしても、こいつは、愚直にぼくに応えてくれる。


 肩に食い込むこの重みは、だれかの命の重みだと、ぼくは感じた。


 礼を言って店を出る。降雪量はさきほどよりも多くなっているのは明らかだった。ぼくらは早足でギルドに向かった。この店からギルドは、そう遠くはない。


 中央広場の噴水付近で、人々が集団でざわついているのを見かけた。こんなに寒いのに、わざわざ外に出ている人たちがいる。見たことのある顔と、見たことのない顔の比率は大体半々と言ったところ。中にはギルドスタッフらしきものの姿もあった。


 その集団はギルドの入口付近にまで伸びており、明らかに何かがおかしかった。アラム王国からの依頼は未だに入り続けてはいるのだが、年明け前と比べれば、その件数は減っていたし、内容もそこまで「おいしい」と思えるようなものは少なくなっていた。また、そういったものは、リドの村に住んでいる人たちに取られてしまうので、良い依頼が入ったとか、そういう知らせがあった訳ではなさそうだった。彼らの顔には、今から何かを成し遂げるぞ、というやる気は見られない。みんな、不安そうな表情を浮かべて、ギルドの建物と看板を見上げていた。


 その人たちを横目に、出入り口付近の警備スタッフに挨拶しながら、相変わらず重たい扉を開く。建付けが悪いわけではないのだが、そこそこの力を入れなければ動かないのだ。まるで誰かが、反対側から押しているような。


 クエストギルドのフロアに行くと、やはり、依頼に関係する人たちの数は多くなかった。受付窓口の数も、いくつかが閉じている。


 三番窓口に並ぶと、すぐにぼくらの順番が回ってきた。


「おはようございます、シシさま、フェンデルさま、アリアさま。今回も自警団任務での受注でしょうか」

「はい」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 そう言って、窓口担当は後ろに下がっていった。


「あの人だかりって、なんだったんだろうな」とフェンデル。「あんなに集まってるのを見るのは久しぶりだ」


「ギルドに用がなさそうなのはたしかっぽいけど」


『そんなの、決まってるだろ』


 唐突に、アリアが念通話を始めた。右後ろにいる彼女の方をみると、右人差し指でこめかみを示した。そっちで話す、のジェスチャだ。


『モスナの件か』

『それしかない』


 リドの村やアラム王国と同じ東大陸にある、モスナ公国。そこは、古くから続く血筋の貴族たちが作り上げた国である。その中の主要な公都は、厳かな雰囲気でありつつも、由緒正しい、血なまぐさい歴史を感じさせる建物が沢山ある国だと、観光ギルドはそう言った文言で宣伝していた。


 つい先日、そのモスナ公国における最大の都市が襲撃を受けた。ぼくらが対峙したアノイン、他の高度な知性を持つモンスターたちや、いつものゴブリンやテルミドールらの下級モンスターたちが、おおよそ二万の軍勢を率いて、突如として、「公都内」に出現したのだ。


 それも真夜中など遅い時間ではなく、朝の九時ぴったりに出現したとみられている。魔力凝固が一般的に起きると考えられている時間帯ではないことが、その界隈の学者たちをにぎわせていた。


 幸いなことに、周辺国からの援助と、公都に住まう貴族らの「私兵」によって、被害は少なく抑えられたとされている。ただし、現在、公都には出入りを禁じられ、内部の状況が不明なままである。


 そのような事態であれば、当然ながら不安と不満の声は噴出する。実は、その襲撃によって公都は全滅したのではないか、とか、そういった事を言い始める人が現れるのも、想像に難くはない。しかし、依然、モスナ公国政府は公都への立ち入りを禁じていた。


 ギルド前に集っていたのは、モスナ公国襲撃に関しての安否確認を促す者、もしくは、リドの村への襲撃を危惧している者などが、主に集団を構成しているのだろう。


 入口に繋がるドアを見る。そこから入ってくる人たちは、ほぼほぼ、ここに用がある人たちだ。寒さで身をよじりながら、ストーブに近寄って手をかざす人。新着の依頼をみるために、或いは人材募集の求人票を見るために、掲示板に行く人。様々だが、集団の中には居なかったような恰好の人たちばかりだ。


『どう思う?』

『どうって、なんだ? 変な本でも読んだのか?』

『陰謀とか、そういうのじゃねぇ。おれたちは言わばそのために鍛えてるんだろうが』


『なぜ政府が出入りを禁じているか、その期間が長いのもたしか』

『負けた、とみるべきか?』

『考えにくい、というのは、あたしたちの先入観のせいなんだろうな』

『貴族の私兵サマが、よわっちぃわけがない』フェンデルがため息を吐く。『リカルドはもともとそこ出身だ。あいつの話が嘘じゃねぇなら、全員の力を集められれば、大国とも渡り合える可能性だってある』


『じゃあ、つまり』


 そうじゃなかった、ということ。


『ぼくらが考えるべきは、モスナ公国が負けたと言う可能性と、それがこの村にも来る可能性か』


『新種が出現したってセンも捨てられねぇ』

『もしそうなら、ギルドに報告されていないハズがない。報告義務違反は登録はく奪だけじゃすまない』

『んなもん、気にしていられねぇってくらい、やられたのかもな』


 くそったれ、と、アリアが声に出して言う。

 窓口の奥に、同じスタッフの姿が見えた。考えれば考えるほど、悪い方向に物事が進む気がして、ぼくらは話すのをやめた。

 


 バンッ!!! と、勢いよく、扉が開かれる。思わず肩が跳ねる。


 

 その場に居た全員が、そちらを見やった。


 ボロボロの装具を身に着けた男性が、額から血を流していた。パーティメンバと思しき男性を肩で支えているが、その人はすでに脱力しており、ほとんど引きずっている状態だった。その後ろには、そこで力尽きたのだろう、女性が壁にへばりつくようにして倒れこんだ。比較的軽傷であるもう一人の女性が、その人に向かって何かを話しかけている。


 周囲の同業者たちが一斉に彼らに群がる。回復魔法をするもの、手当てをするもの。扉を開けたリーダから、重傷の人を手当てしようと代わっておうと、誰かが彼の身体に触れると、力なく首を横に振った。


 そのパーティのリーダもかなりの傷を負っている。しかし、彼は、彼に対して伸ばされる手をすべて振り払い、ギルドの窓口に怒鳴り込んだ。


「どうなってやがる!! おれたちはC級だ、なのにあんなバケモノと戦わせるなんて!!」


 ぼくらはスタッフに断りをいれ、すぐさま彼に近寄った。

 近づいてきたぼくらに対して、彼は何だお前らは、と怒鳴った。


 懐から取り出した記章を見せると、彼は力なくその場にへたり込んだ。出血がひどすぎる。見れば、左腕は骨折していた。肌もどんどん色味を失っていく。


 アリアは問答無用で手当てを始める。しかし、リーダは彼女を無視して、ぼくの腕にしがみついた。その力は弱弱しいものだった。


「頼む……、おれたちを助けてくれた人たちが、まだ、戦っているんだ……!! だけど、あんなバケモノには誰もかないやしない、あの人たちが、危ない……ッ!!」


 頼む、と。そこまで言って、彼の力が一気に無くなる。腕にあった、最後の力が。


「気を失っただけだ。だが、このままだと失血死する可能性がある」アリアは冷静に言う。「あたしはここでけが人の治療に当たる。行け!!」


 フェンデルにキダラの申請を指示し、ぼくはまともに話が出来そうな、唯一の軽傷者に話を聞いた。


 ボルツ聖道での唐突な襲撃。


 もとは単なる薬草採取の依頼だったそうだ。彼らはC級と言っていた。登録してから一年程度、と言ったところで、モンスター退治の依頼をこなせるギリギリの技量と言ったところだ。


 おおまかな場所を聞いたところで、フェンデルが許可証を持って合流する。サインがされていない白紙だったが、こんなものは事後承認で何とでもなる、とフェンデルはいった。


 ギルドの建物の入口に出ると、雪はいまだ強まっていた。地面は白くなり、リドの村は雪一色になりつつあった。


 そこに、アクセントのように。彼らが通った道が、赤く染まっていた。引きずった痕、一度誰かが倒れた痕。


 それをみて、集まっている人たちが狂乱の騒ぎを起こしていた。天を拝むもの。地面に突っ伏してしまう者。


 通行路までにも広まりつつあった、その騒ぎを、うっとうしそうにかき分けてこちらに向かってくる姿が一つ。


「シシさん!!」


 ネロはキダラに乗ってきていた。ぼくらは何も言わずに、荷台に乗り込む。


「ボルツ聖道、あの廃村に続く道だ!!」

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