表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦姫、ブリュンヒルデに捧ぐ  作者: 野之 乃山
一章 リドの村
16/80

5-1 よくある適性試験

 アラム王国親衛隊が王国へと発ってからすぐ、リドの村の自警団の団長アルフレッドから、自警団員の臨時採用の募集とその要綱が発表された。役場に記入済みの申込用紙を持っていくのに、さほど悩まなかった。もちろん、ぼくと同じような考えの人もいるようで、それが纏められて設置されていた棚は半日も経ずに空になっていた。


 当然、臨時採用の形をとっているわけだから、採用試験が行われる。簡単な筆記試験と身体検査だ。面接はなかった。どう言った理由であろうとも、自警団にはとにかく数を質へと変換する必要があった。これはグラーファ隊長の言ったとおりになった。


 ぼくには、ネロとカーサラさんという優秀な先生に恵まれていたおかげで、実際試験の結果は上々だった。ネロとの勉強は楽しくて、歴史なんかは物語を読んでいるかのように頭の中に入ってきた。身体検査も、まるで生まれ変わったかのような正常な健康体と言われた。実際そうなのかもしれない。


 一週間ほどの期間ののち、ぼくは晴れて自警団の訓練生としての訓練を受けることになった。自警団員には寮も用意されていたのだが、ネロからの譲れない思いとの折衷案として、必要な時のみに寮に入ることになり、それ以外の日は必ず家に帰ってくるようにと伝えられた。面白いことに、臨時採用の訓練生と言っても、きちんとそれなりの給料が支払われるらしい。この村の中では、比較的高給だった。


 入団式当日、最低限の荷物で訓練所の敷居を超えた。早朝と言うわけではないのだが、天気はあいにく曇り空となり、どんよりした空気が訓練所のグラウンドを包んでいた。同伴としてついてきたネロは、久しぶりの光景を懐かしんでいる様子だった。しかし、そんなはしゃぐ彼女を見る者が浮かべる表情は、決まって尊敬か畏怖が滲んでいた。話しかけてくる者も居た。こういうことがあると、ネロは相当な実力者である事実をつくづく思い知らされた。


 ぼくたち二人がこの施設に入ったのはそんなに遅くはなかったのだが、すでにかなりの人数が隊列を自発的に組み始めていた。そしてまだまだ人は来るようで、適当に並んだぼくらの後ろにも、すぐに人が来た。ネロはそそくさと教官たちに挨拶しに行ったようで、すでにいなかった。


 けたたましく笛が鳴らされる。ざわついていた集団に一瞬にして緊張が走った。

グラウンドでの整列と点呼を行うなか、ちらりと周囲を一瞥してみた。

 訓練生として試験を突破できたのは、千人ほどの中からおおよそ八百人。内訳を述べると、ぼくと同じくらいか、少し年上と言った具合の年齢の人が多く、種族もおおよそヒトが半分、残りが様々な種族の魔人といった感じだった。


 教官においても、種族も性別もまちまちと言った具合で、ヒトよりも魔人が多いように見られた。高齢者はかなり少なく、ほとんどが二十や三十と言った若い世代だった。


 点呼が全員分終了すると、ぼくら訓練生は室内体育館に連れられることとなった。寮に入る人たちは、親や友人との別れを惜しむが、ぼくはネロと少しだけ視線を交わしただけに済ませた。

 入団式は略式となり、歓迎会などは一か月後に行うことが告げられた。そしてこの式の後すぐに、適性試験を行うことになった。


「余裕がないとは聞いていたが、ここまでとは」


 ぼくの隣にいた奴で、訓練生としての最初の友人、フェンデルがそう呟く。ネロの家とは正反対の通りの中心に住む、ちょっとだけ裕福な家庭の長男だが、話してみると案外悪い奴ではなかった。


「シシ、お前は魔物と戦ったことがあるか?」

「まあ、一回だけ」とんでもない戦いを見たことはある、とは言わなかった。

「おれは何度もある。母さんが自警団員だったころに、一緒にゴブリン退治をこなしたものさ」


 とまあ、事あるごとにそういった事を自慢してくるのが、せっかくいい顔をしているコイツの悪いところだった。まあでも、フェンデルが一緒に居てくれるおかげで、ぼくは良いライバルを得られた、と思うことにした。


 入団式の挨拶がテキパキと進むと、訓練生としての座学の振り分けが行われ、ぼくたち二人はAクラスと言うところになった。Aクラスは訓練所の一番上の階に存在し、窮屈な階段を長く昇るはめになった。Aクラスと言うのは、実戦経験をすでに経ているか、もしくは筆記試験での成績が特に優秀であった者が来るところだと教官から伝えられた。


 教室に放りこまれたところで、ぼくは知った顔を見た。向こうもぼくの顔を覚えていたようで、すっごい睨まれた。しかも、不運なことに、座った座席は三人で固まることになった。


 少し前にネロに絡んできた、アリアという魔人(ミルヒスト)の少女がそこに居た。彼女はもともと自警団の候補生だったのもあり、Aクラスに振り分けられたことを何とも思っていない、といったオーラを振りまいていた。


 それに対して、フェンデルは何かが気に食わないのだろう、やたらと絡みに行った。


「おれだって魔法は使えるぜ、火属性が得意だ」

「なんでそう突っかかるだよ、フェンデル」

「あたしは治癒魔法だから。あんたみたいなノウキン馬鹿と一緒にしないで」

「んだとぉ⁉」

「はいはい、どぉどぉ」


 と、終始二人はこのような感じだった。ぼくがヨビビトであるという噂はすでに訓練生の中に広まってしまっていたが、彼女の反応はあまり変わらなかった。どうにもすごい男を想像していたそうで、彼女にとって残念なことだった。


 聞けば、ネロと同じくカーサラさんのところの孤児院で育ったらしく、イメージがおかしかったのはあのこともあるんだろう。


「言っとくけど、ネロのことは聞かれても答えないからね」

「わかってるよ」


 何度か、こういう釘を刺されていた。


                     *


 クラスの顔合わせ、と言うよりも、教官がぼくらの顔を覚えるために集めたような振り分けはすぐに終わり、適性試験とやらを受けるために、再びグラウンドに訪れる。他のBクラスなどはすでに体力実習や訓練を始めており、すでに訓練所内には居なかった。


 Aクラスの担当教官は、そもそもの自警団の団長たる、アルフレッド教官だった。右目の周りに大きな切り傷があり、団長としての貫禄と威圧感はまさに鬼教官のそれだった。フェンデルからの怪しい情報によれば、アルフレッド教官の訓練が行われると、毎回誰かしら消えていくと言う。


 ぼくとしては、鬼教官は上等だった。徹底的に叩き込んでくれるなら、それに越したことはない。俄然やる気が起きてくるというものだった。


「これより、魔力適正試験を始めるッ!!」


 すごい声量だ。拡声器なしでも、身体の芯が震えるような音量だった。


「魔力適正試験とは、貴様らが武器を持って戦うのが得意なのか、魔法を以てして後方からの支援を行うのが得意なのかを調べるための試験であるッ!! 心してかかるように、よいかッ!!」

「はい!!」


「返事が小さい、もう一度ッ!!」

「はいッ!!」


 Aクラスは百人ほどの規模だったが、それら全員の全力の声量を束ねても、彼一人の声の大きさにはおそらく叶わないだろう。


 適性試験の内容は、簡単な魔力と武力の打ち合わせ、と言ったところだ。グラウンドには木製の剣や槍など、意外と種類豊富な模造武器が入れられている箱と、人の形を模した木の彫刻があった。全員が両方を受け、どちらか秀でた部分があればそれを伸ばしていく、というものだ。


 散開、という怒号で皆が散らばっていく。当然だ、Aクラスは、自分の得意分野がすでに分かっている人たちばかりで、そもそもぼくがAに居ることが不思議なくらいだった。


 しかし、あわあわと挙動不審になったところに、アルフレッド教官からの、直接攻撃を受けたくはない。あんな声量のものを間近で受ければ、意識だけを抜き取られること間違いなしだ。


 近くの集団の中に紛れて付いていった先は、魔術訓練の方だった。


「なんでこっち来るんだよ」


 アリアが後ろから声をかけてくる。すでにその打ち合わせを終えたようで、その手には紙が握られており、見せてくれと頼むと、すんなり見せてくれた。開けば十か所の採点があり、十点満点での評価がなされる。どうやら、アリアは補助魔法と魔術での評価をほとんど満点で通過したみたいだ。右上にでっかく「優秀」をあらわす文字が走り書きされている。


「まだ、ぼく自身の強みが分かってないんだ」列に紛れてアリアと話す。「戦ったのって一回だけだし」


「聞いたよ、その話。ネロと一緒に、テルミドールの変異種とやりあったんだって」

「まあ、ほとんどネロのお陰だった」


 目の前の人が横にずれると、目の前が広がる。十数メートルほど前方に、木の的が置かれ、その両端に審査員代わりの教官たちが数人、ぼくらを怪訝な顔で見ていた。


「試験中におしゃべりとは、ずいぶんと余裕なんだな」と一人。

「すみません、魔法の使い方を指南していました」


「はぁ?」アリアが嘘の弁明をすると、声を上げたのは他の教官。「魔法の、使い方ぁ?」


「おまえは確か、シシという、ヨビビトだったな」

「はい、ここに来てまだ一週間ほどでありまして」


「そんな人間がよくここの、しかもAに入れたもんだ」


「臨時採用でなければ、居なかったでしょう」と、また他の教官。ミルヒストの女性だ。「しかし、学力は優秀です、そこのアリア訓練生には及びませんが」


「いいだろう。手取り足取り教えてもらいながらやってみるといい」


 魔術担当教官の長は、若いエルフの男性だった。その人が、木の模型の隣に立つ。


「試験内容は至って簡単だ、こいつに魔法をぶつけろ。属性は何でも構わない。この木は丈夫だ、おまえ程度の魔法じゃ傷もつかん」


 そう言って的から離れ椅子に座ると、ぼくの隣にいるアリアに目線をくれる。


「いい? 魔法はイメージ。ターレン分析を受けたよな、あの感じを、指先から出すようなイメージで」


 ターレン分析の、イメージ。あの冷たいような、凍り付くようでいて、血液が激しく循環し、手のひらに熱をため込むような感じ。


 手のひらを、穿つように見つめる。ここに、何かを握っているかのようなイメージ。武器じゃない、目に見えないものだが、空気ではない。


「どんな魔法を行使する?」


 どんな魔法を?


 アリアの問いかけがイメージを膨らませる。そうか、どんな魔法を行使したいか。どんな魔法でもいい。使えるのであれば。でもそれじゃだめだ。イメージに輪郭がなくなってしまう。


 そう、例えば火の魔法。ネロが使っていた、アイツを多少怯ませたあの火球。あんな風なのを使ってみたい。


 どんな風に使うのだろう。どうやって使うのだろう。浮かばせることはできるんだろうか。手のひらに、火の丸い物体がぷかぷかと浮かんでいる様子を想像する。


 急激に手のひらが感じる温度が下がる。


 そして、唐突に、音もなく、うねる火柱が手のひらから飛び出す。

 凄まじい反動で、しりもちをついた。右手をあげたいびつな体勢だった。


 その勢いはあの木の的に届くと言った程度ではない。危うく校舎の壁すらも焦がすところだった。手のひらを空に向けず、そのまま見つめていれば、自分の顔を焼くところだったかもしれない。それだけでは済まないかもしれなかった。


 幸い、その火柱はすぐに収まった。手に熱さは感じない。


 だれもが呆気に取られていて、あたりがうるさいほどに静かになる。武術の方にもなんとなく伝わっていたようだが、彼らはすぐに打ち合いを再開した。その音を聞いて、最も早く我に返ったのはアリアだった。


「だ、大丈夫か⁉」駆け寄って、ぼくの手を握ろうとしたので、振り払った。「魔力の使い過ぎで頭、変になってたりしてないか?」


「うん、そこらへんは大丈夫、元気元気。なんだろう、たぶん、指向性が足らなかったのかな」


「うん、その通りだと思うんだけど、すっごい勢いで火柱が上がってびっくりした」


 魔法の初心者にありがちな暴走だと言う。魔法を行使する際、消費する魔力量のコントロールの勝手を知らないままの状態だと、一気に体内すべての魔力を用いた魔法を行使することが多々あるらしい。


 魔力変換効率だとか、魔力消費能率だとか、専門的な知識がアリアの口から飛んできたが、正直言ってさっぱりだった。


 教官たちも駆け寄り、ぼくの手のひらや体調面を気にしたが、いたって正常であったことを確認すると、それでも驚いたような雰囲気で、教官同士で会話が続けられた。


 こちらからも魔力キャパシティだとか、魔導インヴォルヴメントだとか、専門用語がたくさん交わされている。ただ、聞き取れた中でも、単語の意味は何となく把握できた。キャパシティはつまり容量、魔力の蓄積量がうんぬん、といったふうな話をしているのだろう。


 アリアの手を借りて立ち上がる。申し訳ありませんでした、と教官陣に謝罪をすると、再審査という事になった。ただし、魔法をまともに行使できるようになってから、と言う条件付きでの保留。魔人とエルフの教官によれば、ぼくにはもしかすると、とんでもない魔法の才能があるかもしれないと、二人とアリアからやや興奮気味に語られたのであった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ