50話 冒険者デビュー
上空から眺めた街は美しい円形に形作られていた。
巨大なお城が街の中央にあり、その周りを円形に囲む城壁が3層構造で街を区切っている。
中心に近い区域は、高級な屋敷が立ち並び、いかにも貴族や上流階級の人間が住んでいそうな雰囲気だ。
一段下がって2層目の区域は、庶民から中級階級の人間が住んでいそうな戸建やマンションが並んでいる。
そして、一番外側に位置する区域は、農民や貧しい平民の労働者が住む様な小さな家やプレハブの様なスラム街に近い区域が広がっていた。
脱出したユイの屋敷は、中心に最も近い高級な屋敷の一つだった。
「ユイちゃんは、貴族の令嬢だったのかニャ?」
「さあな、取り敢えず、金を稼がなきゃ飯にもありつけないし、宿も取れないぜ?」
「お金を稼ぐかぁ」
(私、バイトすらした事無いけど、異世界でどうやってお金を稼げば良いのかな?)
「テンプレなら冒険者ギルドで登録して稼ぐってのが常套手段だけどニャ・・・」
「冒険者ギルドなら向こうにあるぞ?」
「え?冒険者ギルドがあるニャンか!?」
(何故かクリスが凄い頼りになる気がする!?)
クロエは、クリスの指示に従って1番外側の区域へと降り立った。
「ここが冒険者ギルド?」
一際大きな3階建ての建物の前でクロエは、冒険者ギルドを見上げていた。
(異世界転生と言えば、一度はやってみたい仕事の一つ、それが冒険者よね!)
クロエは、高鳴る心臓を抑えながら、冒険者ギルドの中へと足を踏み入れた。
冒険者ギルドの中は酒場兼ギルドの様になっていて、朝っぱらから酔っ払いも多くいた。
クロエが入ると、珍しい新顔の女の子の登場に周りから視線が集まった。
「お、女の子が来たぜ?」
「顔は仮面で見えないけど、別嬪さんじゃねーか?」
「お嬢さんには冒険者は早いんじゃねぇか?」
「ここには、ミルクは売ってないぜ?子猫ちゃん」
やさぐれた冒険者の男達は、女の子が入って来て興奮したのか、野次を飛ばして来る。
少ないが女性の冒険者もおり、彼女達はクロエを観察していた。
「へぇ、まさに冒険者ギルドって感じの雰囲気ニャン」
(どうしよう!異世界で冒険者になるとか、マジで興奮する!心臓ドキドキだよぉ!)
クロエは、周囲の視線や会話を全て無視して、受付嬢が立っているカウンターへ足速に進んで行く。
「おいおい、嬢ちゃん、来る場所間違えてんじゃねぇか?」
筋肉隆々なスキンヘッドとデブな巨漢がクロエの前に立ち憚った。
「近寄らないでくれるかニャン?」
クロエは、パーカーの袖をナイフに変形させて、両手から生やした無数の刃を突き付けた。
「ひぃ!?魔術師かよ!?」
数十ものナイフの先を向けられた2人の冒険者は、慌てて逃げ出して行く。
「たわいないニャン」
クロエは、さりげなくユイからの助言を聞いており、ツンデレキャラを意識していた。
「本日はどの様な要件でしょうか?」
受付に行くと、若い受付嬢が対応をしてくれた。
「冒険者登録をしたいニャン」
(取り敢えず、暫くはこのキャラで行こうかな)
クロエは、文字通り猫を被って、素顔を隠す事にした。
「では、こちらに必要な事項を記入して下さい」
渡されたのは、薄い紙一枚とペンだけだった。
(思ったより、手続きは簡単なのね?)
クロエは、渡された紙に記入していく。
名前:クロエ
性別:女性
年齢:18歳
種族:人間
タイプ:魔術師
書いた紙を受付嬢に返すと、受付嬢は、何か魔導具らしきモノに紙を読み込ませる。
「こちらが登録証になります」
渡されたのは金属製の銀色のカードだった。
「こちらは身分証にもなりますので、無くさない様にして下さい」
「分かったニャン」
(良かった!これで不法入国者で捕まる事は無さそうかな!)
「初めはFランクスタートですが、実績を上げていけば、ランクも上がって行きますので、頑張って下さい」
「仕事を受けたいんだけど、何かあるかニャン?」
(とにかく、働いてお金を稼いで宿とご飯を確保しなくちゃ!)
「Fランクの依頼でしたら、薬草集めと魔鉄の採掘にホーンラビットの狩猟の3つがありますが、如何致しますか?」
受付嬢に渡された依頼書を見て、クロエは全てを受け取った。
「じゃあ、全部受けるニャン!」
(仕事を選んでる余裕は無いし、なんでもこなしていかないと!)
「全部ですか?」
「何か問題でも?」
(同時に受けたらダメなのかな?)
「いえ、こちらの依頼は成果報酬なので、特にペナルティは無いので大丈夫です」
「分かったニャン!」
(依頼によっては失敗した時にペナルティがあるから、いっぺんに受けるとリスクがあるって事ね!)
クロエは、採掘の場所とそれぞれの特徴を簡単に確認して、冒険者ギルドを出た。
「取り敢えず、今日の宿代と食費を稼がないとニャン!」
クロエは、再び森へと歩いて行く。




