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42話 怒りと終焉

 冒険者ギルドの前では、クライスが準備した豪華な馬車が待機しており、クロエは無理矢理中に押し込められた。


「な、何するのよ!?痛いってば!」

 

 掴まれた腕が痛く、クロエはクライスを睨みつける。

 

「そんな目で僕を見るな!」


「キャアッ!?」


 クライスがクロエの頬を叩いて、クロエは鼻血を出してしまった。


(痛い!私を殴ったの!?これがコイツの本性なの!?甘い言葉や優しさは単なる演技だったのね?)


 叩かれた頬を抑えながら、クロエは涙を流した。

 悔しくて、涙が止まらず、嗚咽が漏れそうになるのを必死に我慢する。


「出せ!」


 クライスが馬車を発車させると、王城へ向かって走り始める。


「ごめんよクロエ、本当はこんな事したくなかったんだ!でも、クロエが僕を裏切った事が許せなくて、それに、クロエの気持ちが僕から離れて行くのがどうしても耐えられないんだ!こんな僕を許しておくれ!」


 クライスは、泣いているクロエを後ろから抱きしめる。


(何コイツ、キモッ!?完全にDV男の典型的なタイプじゃん!1番関わったらいけないタイプだわ!何でこんな奴に惚れかけたんだろ?)


 クロエは、必死に背中の鳥肌を我慢していた。

 暫くして、王城に着いたクロエは、再びクライスに手を引かれて庭園に連れて行かれた。


「な、何をするつもりなのか教えてよ!」


(また、私を監禁してペットみたいに飼うつもり?でも、今度はもう籠の中の鳥、いや、ゲージの中の猫?になるつもりはないわよ?)


 クロエとクライスが庭園の中央に着くと、周りにいた貴族達が集まってきた。


「みんな聞いてくれ!彼女はクロエ!僕の婚約者だった人だ!だが、彼女は僕を裏切り、不貞を働いた!」


 クライスが大声でクロエの不貞を告発すると、周囲の貴族達から、クライスを憐れんだり、クロエを罵る声が広がる。


「おお、なんて事だ!」

「クライス様を裏切るなんて、最低な女ね!」

「公開処刑にでもするつもりかしら?」

「ありえるな」

「あの女、この前の露出狂の女じゃないか?」

「そうだ、服を着ているから分からなかったが、顔が同じだ!」

「そんな変態がクライス王子の元婚約者?」

「だが、身体は中々のものだったぞ?」


 勝手な事を言われて、クロエは腹が立ったが、四面楚歌のこの状況では、口は開かない方が良いと思った。


「だが!寛大な僕は、彼女に許しを乞うチャンスを与えようと思う!」


(許しを乞うですって?勝手に誘拐して来て、監禁したのは、どこのドイツよ!?)


「ここに、彼女の不貞の証である2匹の犬を用意した!」


 クライスの指示で、2人の騎士が2匹の大型犬を連れてきた。


「え?ジョン?ラッキー!?」


(な、何でジョンとラッキーがここに!?)


「クロエ!君が心から反省し、謝罪して許しを乞いたいなら、この2匹の犬を殺せ!」


「はぁ!?」


(何を言ってるのコイツ?家族を殺せるわけが無いじゃない!)


「簡単だろ?君の処女を奪ったこの2匹を消す事で、クロエの過去の罪も消してあげると言っているんだよ?」


「お断りします!ジョンとラッキーは、私の大切な家族であり、恋人であり、夫です!殺すくらいなら、死んだ方がマシです!」


(この世界で唯一、私に愛情と優しさを与えてくれたジョンとラッキーを殺させるわけには行かない!)


「この強情な女め!」


「痛ッ!?」


 再び、クライスはクロエを殴り、地面に這いつくばらせた。


「何故僕の優しさが分からない!こんな犬の為に、僕の婚約者としての地位を捨てるのか!?」


(い、痛い!)


 クライスは、何度もクロエの背中を蹴りつける。


「や、やめてクライス」


(どうすれば良いの?呪いがあるから、私はクライスには抵抗出来ないのに・・・)


「「ワンッ!」」


 その時、ジョンとラッキーが駆け出し、クロエを庇う様に壁となった。


「何だお前達!飼い主に逆らう気か!?」


「グルルルル!」


 ジョンとラッキーがクライスへと襲い掛かる。


「だ、だめっ!?」

 

 その瞬間、クロエの顔に真っ赤な血が降りかかる。


「・・・えっ?」


 クロエの目の前には、氷の槍で貫かれたジョンとラッキーが横たわっていた。


「い、嫌、嫌よ!?目を開けて!死んじゃ嫌!?」


 クロエは、大粒の涙を流しながら、ジョンとラッキーに駆け寄った。


「くぅうん・・・」


 ジョンとラッキーは、悲しそうにクロエの涙を舐めとると、そのまま生き絶えた。


「ジョン? ラッキー? 返事を・・・してよ!ウグッ、ヒック、私なんかの為に、ごめんね、今まで、ありがとう」


 クロエは、涙を拭いながら立ち上がってクライスを睨んだ。


「全く、飼い主に歯向かうのは、クロエと同じだね!でも、これで心置きなく僕の元に帰ってこれるね?」


「なんで、何でこんな事をするのよ?私が何をしたって言うの?」


「言っただろ?君は僕の物だ!だから何をしようと僕の自由なのさ!」


「いいえ、違うわ!私は、私自身のモノ!私が何をするかは、私が決める!」


 クロエの身体から邪悪な冥王のオーラが溢れ出る。


「よ、よせ!僕に攻撃すれば、君の心臓も止まるんだぞ!?呪いの力は本物だ!だから、話し合おう!」


「無理よ、私はもう止まらない!」


 次の瞬間、天空に黒い刃が出現する。

 その数は数億を超え、天空を覆い尽くす程の膨大な数の剣だ。


「こんな腐った世界なら、私が滅ぼす!」


 次の瞬間、幾億もの黒い剣の雨が、王都ハースフェリアを襲った。


「こんな、馬鹿な真似を・・・」


 降り注ぐ刃は、無数の命を奪い、建物を破壊し、地上を黒く染めて行く。

 更には大地が闇に包まれて、数千ものスケルトン達が冥界より現れ、黒い剣を持って、生き残った人間達を殺し始めた。


(一定の魂が捧げられましたので、冥王の魔導書の力が解放されました)


(一定の魂が捧げられましたので、冥王の魔導書の力が解放されました)


(一定の魂が捧げられましたので、冥王の魔導書の力が解放されました)


(一定の魂が捧げられましたので、冥王の魔導書の力が解放されました)


「ウグッ!?」


(この心臓の痛みは・・・私はここまでなのね?)


 クライスに掛けられた呪いが発動し、クロエの身体が氷に包まれて行く。


「せめて、クライスだけでも・・・仇を取れなくてごめんね」


 完全に凍りついたクロエの心臓が止まり、意識は闇の中に落ちて行く。


(せっかく異世界に来たのに、呆気ない終わり方、もっと色々と経験したかったし、ムカつく女神にギャフンと言わせたかったな・・・)


「全く、愚かな娘だ、せっかく我が冥王の力を授けたのに、スタート地点で死ぬアホがどこにいる?」


 クロエの頭に冥界の女王リリスの声が聴こえた。


(リリスの声?私、冥界に落とされちゃったの?)


「いや、貴様の貯蓄していた代償の多さに免じて、一度だけ、やり直しのチャンスをやろう!だが、ペナルティとして記憶は消去して、我がリリスの呪いをプレゼントしてやる!」


 その瞬間、クロエの意識が消え、世界の時間が逆転した。

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