1話 冥界の女王
一体、どれだけの時間が経ったのだろうか?
クロエは、未だ冥界の底に辿り着いてはいなかった。
「って、どんだけ底が深いのよ〜」
クロエは、アイスブルーの瞳に大粒の涙を流しながら落ちていた。
(ってか、この高さなら着地した瞬間に潰れて死ぬんじゃ?)
「って、もう死んでるし〜!」
クロエの叫びは虚しく闇に消えて行く。
四方八方を闇に包まれて、上下の感覚が麻痺して落ちているのか浮いているのかすらも分からない中、漸く地面に足がついた事に気が付いた。
「地面がある・・・ここが、冥界?」
冥界の印象を表すなら、草も木も無い黒い大地が永遠に続いている不毛の地だ。
太陽も月も星も無いのに、不気味な紫色の光が大地を照らしている。
生命の存在を感じさせない不気味な場所に1人落とされたクロエは、不安と絶望で地面に座り込んでしまう。
「こんな場所でどうしろって言うのよ」
それでもクロエは、ただひたすらに歩き続けた。
時間の概念が無いこの場所では、どれだけの時を歩いたのかも分からない。
何日?何年?何十年?何も無い不毛な土地を歩き続けたクロエの心は次第に死んで行く。
「こんな事なら一度くらい恋をしてから死にたかった」
男がいるはずも無い不毛の地でクロエは干涸びて死んでいく自分の姿を想像して、怒りが込み上げてくる。
「あのクソ女神、絶対に許さないんだから!」
クロエは、疲れ切った足で地面を蹴るが、逆に自分のつま先が痛くて疼くまる。
「ほう、貴様はあの女神を憎むのか?」
突然、背後から声が聞こえて、クロエは振り返った。
「あれ?」
しかし、そこには誰もいない。
(ヤバイなー、遂に幻聴まで聴こえてきた)
「幻聴では無い、我は冥界の女王リリス、貴様に我と取引するチャンスを与えてやろう」
「取引?」
「そうだ、もし、貴様が我が望みを叶えてくれるなら、貴様を冥界から生き返らせてやる」
それはクロエにとっては、唯一の救いの糸の様に聞こえた。
「貴方の望みって何ですか?」
クロエは、慎重に質問する。
いくら後が無いとは言っても、甘い言葉には罠がある可能性が捨て切れない。
「我が望みは2つだけだ」
(2つも!?)
「貴様を冥界へ突き落とした女神エリスが統治する世界アレスへ赴き、魔王として世界を征服しなさい!そして、憎き女神エリスを信仰する全てを破壊するのだ!」
「え〜と、つまり、異世界行って、魔王になって世界征服して、宗教撲滅すれば良いって事?」
クロエにとって、女神エリスは、憎き敵であり、願ったり叶ったりな内容である事は間違いなかった。
「でも、私には世界征服できる様な力は有りませんけど・・・」
「安心しろ、貴様が我が望みを叶えるなら、冥界の力を貴様に与えてやろう!」
「冥界の力?」
クロエは、この不毛な土地を見て、冥界の力とやらに疑問を浮かべる。
(冥界の力って何?強いの?)
「我が冥界の力を存分に使えば、世界の一つや二つ、滅ぼす事は容易い」
「やります!」
クロエは、即決して返事をした。
それはクロエにとって、最善な選択だったと同時に最悪の選択でもあった事を知る由もない。
「ふふっ、契約は成立した!」
その瞬間、クロエの意識は暗い闇の中へと落ちていった。




