10話 最初の街
上空を駆け抜ける爽快感の中、クロエは頭を抱えていた。
(全く何なのよ!異世界ってエロい奴しかいないの?危うく処女損失するところだったじゃない!)
「あのクソ女神が統治する世界なだけあって、住んでる奴らもクズばっかなの?」
そうではない事を祈りながらも、世界征服のために戦争を始めるなら、相手はクズな方が気が楽だと感じてしまう。
(魔王を目指すなら、遅かれ早かれ、私はいつか人を殺すんだろうな)
殺人・・・当然、日本で平和に生きてきたクロエは、人を殺した事など無い。
いざという時に躊躇なく人を殺せるかと問われれば、答えはNOだろう。
「あーあ、やっぱり気軽に引き受けるんじゃ無かったかなぁ?」
クロエは、今の状況に不満や不安は有るが、後悔はしていなかった。
あの状況で、冥界を脱出するには、リリスの契約に乗るしか道は無かったからだ。
(いつかは、覚悟を決めないとダメなんだろうな)
しかし、それは今じゃない。
クロエは、もう少し、この世界を知ってからその決断をする事にした。
次第に眼下の風景も変化してきた。
(何を育てているのかしら?)
段々と森が開けてくると、農業地帯が広がっていく。
農家の人もチラホラと見かけるが、人間不信気味なクロエは、声を掛けずに素通りしていく。
「そう言えば、私はこの世界では戸籍も無いし、お金も無いけど、街に入っても大丈夫なのかな?」
(不法入国者で捕まったりしないよね?)
クロエは、この世界の情報について何一つ知らない。
外国だって観光地しか行ったことが無いのに、未知の異世界で旅をするなんて本当に大丈夫なのだろうかと不安が込み上げてきた。
「小説なんかで良くあるパターンなら、冒険者ギルドに入って金を稼ぐとかだけど、入国が出来なきゃ意味ないよね?」
不安を抱えながらも、城が段々と近づいて来ると、城壁と巨大な城下町が見えて来た。
「うわぁ、大きい!」
ディズニーランド何個分かと聞かれても分からないが、スカイツリーから見た東京の街よりも大きく感じた。
壮大な異世界の街並みに、クロエの不安は一瞬にして吹き飛んだ。
(異世界凄い!空から侵入出来そうだけど、昼間は流石にバレるかな?)
クロエは一旦、近くの森の中へ着陸した。
「よし!夜までに色々と準備しないと!」
(とにかく、この世界は危険だって事は分かったし、常に護衛の戦力は確保してないと生き残れないよね!)
「スケルトン召喚!」
クロエは、唯一召喚できるスケルトンを喚び出した。
「んっ!ゃ・・・」
見えない手に身体を弄られる感覚でクロエの表情は熱を帯びた様に赤くなる。
「ま、負けないんだから!スケルトン召喚!」
クロエは、2体目のスケルトンを召喚する。
(これから街に入るのに、ゾロゾロと連れ歩くわけにもいかないかな)
クロエは、最低限の戦力としてスケルトン2体を護衛にする事にした。
「とは言っても、スケルトンを連れ歩いていたら、明らかに不審な人間として捕まっちゃうわよね?」
暫く考えた後、クロエは自分の服を見て閃いた。
(そうだ!)
「ダークマター!」
クロエは、2つの暗黒物質を創り出すと、意識を集中する。
クロエがイメージしたのは、全身鎧だ。
顔もフルフェイスの兜で守れば、骨の顔を見られる心配も無い。
全身鎧に着替えたスケルトンを見て、クロエは満足そうに頷いた。
「似合ってるじゃん!まるで黒騎士みたいね!」
2体の漆黒の鎧に包まれたスケルトンは、クロエの前で膝を着いた。
(暗黒物質で防御力も上がってるし、一石二鳥ね)
暗黒物質を同時に3つも使っているので、クロエの代償はより強くなっており、足はぷるぷると震えているが、クロエは必死に耐える。
「よし!次は私の番ね!」
クロエは、フードを被って顔を隠して、口元にもマスクを着用した。
手にはグローブをはめて、全身を暗黒物質でコーティングする。
「魔王を目指すにしても顔は出来るだけ見られない様にした方が良いよね!」
女だからと舐められたり、襲われるリスクが上がるのを嫌がったクロエは、顔を隠して素顔がバレない様にした。
「最後は・・・はっ!」
クロエが右手を前に突き出すと、右腕のパーカーの袖が変形して、無数の刃となって、クロエの前方にある木の幹に突き刺さった。
「おお〜!やっぱり思った通りに動く」
クロエが意識すると刃は一瞬にして元の袖に戻った。
暗黒物質は、柔らかい衣服にも鋼鉄の刃にも自在に変形できる。
「重さが無いから、私でも自由に扱えるね」
クロエは右手に身の丈を超えるサイズの大剣を創り出すと、まるで木の枝を振り回すかの様にビュンビュンと大剣を使いこなした。
「ハッタリには丁度いいかな?」
クロエは、大剣から手を離すと、空中で浮いた状態で静止した。
「貫け!」
クロエが意識すると、大剣は物凄い速度で射出され、木の幹を貫通した。
「うわぁ、ハッタリじゃなくて、本当に強いかも?」
クロエは、暗黒物質の可能性に恐ろしくも高揚していた。




