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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
守るべき者の為に
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 春道が暴挙を働いた五日後の深夜、天空雨の丞と旦国寺猫の坊は、桃龍に謁見した。


「大宮様、予想通りです。取引現場を藤田翔らに襲撃されました。南瓜を渡した瞬間、狙いすましたかのように部員が襲い掛かってきて、取り押さえられました」


 雨の丞の報告に桃龍は黙ったままだ。


「この取引の情報を知っていた者はあの時、ここにいた者だけです。我々ともうひとりだけ」


 三日前の夕刻にも二人はここを訪れている。天空雨の丞が懇意にされている葦原京の某有名和菓子屋のドラ息子から取引の依頼があった旨を報告した。その時、丁度、悪党子が床の間の花瓶の水を換えようと、部屋に入ってきた。桃龍がそのように命じたのだ。桃龍も、猫の坊にそう命じるように頼まれて。彼女が入室して来た時、三日後の夜に清水川に掛かる上条大橋下の河原で二十一時の取引という話をしている。


 一旦退出して、再び水を換えた花瓶を持って来た悪党子に、桃龍が声をかけた。


「そろそろ、二人目はどうだい」


「えっ?」


「氏子だよ。この前の事件で骨を折ってくれた若い衆との約束でね。正式に宮女の氏子にしてやると約束した男が三人ほどいる。どうだい、ひとりはお前に付けてみるかい?」


「いえ、あの」


「気が進まないようだね」


「はい、あの」


「無理にとは言わないよ。他に付けるとする。落語家は帰っているだろう?今夜あたり、呼んでいるのかい?」


「落語家?」


「お前の氏子だよ」


「あたし、今夜に誓約しないといけませんか?」


「もうよい、さがれ」


「はい」


 悪党子はまた、的外れな会話をした後、部屋を出て行った。


 そして今宵、天空雨の丞が約束の場所で待っていると、キャップを深々と被ったドラ息子がやって来た。橋の下の暗い空間に、彼の指に挟んだ赤い煙草の火が浮かんでいる。


「毎度、ご苦労かけるねえ」


 ドラ息子は現金を差し出しながら言った。雨の丞は金を受け取る前に、リュックを下ろし、中から新聞紙を二つ、差し出した。


「はいよ、干し南瓜と乾燥葉だ」


 ようやく雨の丞が手を伸ばして金を受け取ろうとした時、無数の足音が迫ってきた。


「おい、やべえよ!」


 ドラ息子が逃げようとするも、すでに周りを取り囲まれどうすることも出来ない。藤田翔が雨の丞の腕を絞り上げた。


「おい、痛えよ」


「現行犯だ。会館まで連行する」


「会館へ行ったら抜かれちまうのか?」


「それは上が決めることだ」


 藤田翔は石像のような表情で吐き捨てた。


「何とか見逃してくれよ」


「無理だ。気の毒だがな」


 その時、部員のひとりが「あへっ」と間の抜けた声を出した。広げた新聞紙を手に持ったまま、呆然としている。

「どうした?」藤田が訊ねると、暫く黙っていた部員がひとこと、「サツマイモです」と言った。隣でもうひとりの部員も「こっちも、サツマイモです」とサツマイモを掲げて見せた。


「どういうことだ」


「どうもこうも、今年はよいサツマイモが採れたんで、若旦那に売っただけだ。美味い芋菓子を作ってもらおうってな。なあ」


「あ、ああ。その通りだよ。その通り」


 ドラ息子も大きく頷きながら歩調を合わせた。


「だから言ったろ、何も悪い事はしてねえから、見逃してくれよ」


 藤田翔は乱暴に雨の丞の腕を振り払うと、部員を引き連れて去ろうとした。


 その背中に向かって雨の丞が言う。


「ちょい待ち!俺のせいで、このまま手ぶらで帰らせては申し訳ない。あんたも協会幹部の立場をあるだろう」

「お前が気にすることではない」


「まあ、そう言うなって。近々、この場所で南瓜の取引があるようだ。俺も詳しい日程までは知らねえんだが、とにかく毎晩張り込んでみな。そのうち手柄を立てられるぜ」


「何を言っているんだ、お前は」


「だから、良い獲物を紹介してやるって言ってるんだよ」


「意味がわからん」


「まどろっこしい野郎だな。とにかく、毎日ここで張ってりゃあいいんだよ!」


「そんな話が信用できるか。仲間を売るとはどういう了見だ」


「もう!だったら正直に話すけど、同じ宮様の氏子で、いけ好かないのがひとりいるんだよ。いっそのこと、抜いちまってもらいたいんだよ。仲間ってなんだよ、気持ち悪いこと言うな」


「さっきも言ったが、抜く抜かないは俺の決めることではない」


「ははーん、さてはあんた、有村や高山のやり方に同調しているわけではないようだな。あ、図星でも部下の前でうんとは言えねえわな」


 藤田は踵を返すと、躊躇うことなく歩を進めて来て、雨の丞の頬を拳で殴りつけた。


「聞いてしまったからには動かんわけにはいかない。お前の言う、いけ好かない男は処分してやる」


 そう言うと藤田は再び南を向いて、部員たちを連れて去って行った

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