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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
守るべき者の為に
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過ちが呼び込んだ疑惑

 若気の至り。


 今日の出来事は、将来の後悔に結びつくのか。


 大宮筆頭氏子という地位を、たった今、失ってしまい、そこではじめて自己中心的であろうとも己の存在価値そのものが失われたことに気が付いた。


(生きる目的を失った)


卑しくも、村への貢献の暁に施される誓約が、活力ではなかったかと言えば嘘になる。

 夢南瓜の魔力と桃龍の柔らかく厚みのあるしなやかな身体に包まれている時、それは至福以外の何物でもなかった。本当に彼女を愛していたし、他の誰にも渡したくはない、自分だけを、残虐な愛を持って犯してほしいと思っていた。そこに娘である碧小夜の面影を投影しても不思議ではないが、しかしそのようなことは決して一度も無く、全神経を桃龍の愛情を受け止めることに注ぎ続けていた。それこそが、桃龍の大宮たる才腕である。相手を確実に己の婬情の世界へ引きずり込み、一切の理性を奪い取って昇天させる。猫の坊のように、桃龍狂いになることは、むしろ、自然なことであった。


 自信はあった。

 碧小夜が己を認めてくれることには。むしろ、桃龍を説得できるかどうかが大きな障害であった。しかし、蓋を開けてみれば、桃龍からチャンスを与えられたにも関わらず、碧小夜に袖にされるという、何とも最悪の結果に終わり、春道は泣くとも笑うとも言えぬ顔で、その場を後にするしかなかった。妬みか恨みか、自分に対して異様に挑戦的だった室戸の陰松に対して余裕を持って、相対することができたのは、大宮筆頭氏子としての立場があったからこそで、それが失われた今、室戸同様、何等かの偶然的な機会が与えられるまで、何の活力もなく、ただ、村にその身を置くだけのその環境に耐えてゆくだけの精神力があるだろうか。このまま、村を離れ下界に籍を置くべきか。今更、そんなことが出来るのか。


 渡り廊下を歩いていると、不意に脇の襖が開いた。水瓶を持ち、卵色のワンピースを着た悪党子が、色黒の肌を多分に見せて立っていた。湯浴みをしたばかりだろうか、紙が濡れていて、柔らかな果物の香りがした。


 黒目がちの、大きな目と、赤い唇の色が、黒い肌の中で映えている。

 春道は自分でも驚くほどに沸き立つ獰猛な本能が沸き立ち、気がつけば、悪塔子の両腕を掴んでいた。落ちた水瓶が敷居の上で音を立てて割れ、水が廊下にゆっくりと流れる。


「あ、やめて」


 悪塔子が言葉を慎重に選んでようやく漏らしたような囁きも春道は無視して、そのまま彼女のか細い体を部屋の中に押し込むと、勢いのままに奥の間に侵入した。


 殺風景な部屋の隅に畳んである白い布団に、悪塔子を無理矢理に押し倒すと、左腕全体で、彼女の首から肩にかけてを押さえつけた。そうして短いスカートの裾に右手を入れた。悪塔子はあくまでも股を開くまいと、太ももを力ませる。その隙間を春道の手刀が抉り込み、付け根に向かって上がってくる。

 彼女の強張った筋肉が一瞬、緩んだのは唇を合わせた瞬間だった。かんぴょうのように薄い唇の感触は意外に柔らかい。しかし、上下の歯は噛みしめられたまま、固く閉ざした門のように、侵入物を許さなかった。

 それでも緩んだ太ももの力を春道は見逃さず、下着の陰部に差し掛かる部分を掴むと、雑草でも毟るかのように膝までずらし、極地を指で弄った。


「ぎゃああ」と、経験した女性にあるまじき声があがった。驚いた春道は左腕の力を緩めてしまった。その瞬間、悪塔子の解放された左手が、春道の首の中腹に延びたかと思うと、呼吸が止まり、彼は患部を押さえたまま、畳の上にのたうち回る。


 悪党子は半身を起こすと、激しく呼吸をしながら春道を睨み付けながらゆっくりと立ち上がった。


(この娘、ただの馬鹿ではない)


 塞がれた気道に再び、酸素が入り込むと、畳の上を転がりながら、間合いを取った。


(しかも、男を知らない。どういうことだ)


 廊下から無数の足音が聞こえてきた。


「どうした、悪塔子!何があった!」


 大玉引が部屋に駆け込んで来た、そこには、睨み合う男と女。


「那智、おぬし何をした!」


 寝間着のままの極楽導師や紅金魚らが春道を取り囲んだ。


「おぬし、自分が何をしたのか、わかっているのか」と大玉引が言い終わらぬ間に、悪塔子が山猫にでも憑りつかれたかのように、大玉引のまたぐらをすり抜けると、春道の飛び掛かり、首筋に噛みついた。太い針を突き刺されたかのような痛みが首筋に走る。今度は春道が「ぎゃああああ」と泣き叫ぶ番だ。


「おい、男を呼んで来な!」


 大玉引と極楽導師が、春道に覆い被さる悪党子を引きはがしながら叫んだ。

 やがて柘植重衛らが部屋に入り、その場は一応静まったが、この事件で那智の春道には即刻、旦国寺に幽閉という処分が下され、住処に戻ることなく山に入ることになった。

 


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