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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
守るべき者の為に
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大山大和のうれし恥ずかし初養愛

 意気揚々とした大山大和が、日も暮れかけたパンプキンバーに飛び込んできた。満面の笑みを絶やさぬながらも、興奮と緊張のあまり、獅子舞のように大きな口をガチガチと鳴らしながら、カウンターテーブルに着いた。


「冷たい水と南瓜汁を一杯くれ!」


 マスターを恫喝するかのように怒鳴った。そうして、ふうっ、と一息つきながらおもむろに、隣に座っている作務衣姿の大男を見て「うわっ!」と声を上げた。


「お、岡莉菜やないか」


 頭髪を剃り上げた岡莉菜は、ぎろりと大山を睨み付けたかと思うとまた、向き直って目の前にある大盛りの南瓜カレーを口に運び始めた。


「似合うか?」


 大山の向うから顔を出した男がいる。那智の春道だ。


「なんや、おったんかい。いやあ、似合うとか似合わんという次元の問題ではなかろう。まあ、清潔感は出たがな。すっかり村の一員というわけか」


「大宮様のお気に入りだぜ」


「南瓜と宮様の虜というわけか」


「すごい性欲だ。連日連夜、寝る間も惜しんで宮に入り浸っている。毎日明け方まで、こいつの雄叫びが凄くて、おかげで他の村人は皆、寝不足だ。ところで、今日はどうした?えらく機嫌がよさそうだな」


「お、おう。実はな、あの夜の儂の活躍が認められて、大宮様から褒美を賜ることになっ た。夢の誓約じゃあ」


「ここの村人でない者が誓約を受けるなんて、聞いたことが無い。まあ、それだけ俺たちは助けられた。お前にはその権利がある」


「誰に可愛がってもらえるのかの。楽しみじゃあ、ふぉーっ、緊張するぅ!」


大山大和は南瓜ドリンクを呑み干すと、首根っこを掴むようにして春道を引きずりながら、バーを飛び出した。


「さあ、あないせい!」


 大山を清体所へ放り込み、小一時間ほど時間を潰して再び戻った春道が外で待っている と、やがて顔を火照らせた大山が、作務衣を着て出て来た。


「おいおい、何だその姿は」


「儂は穢れた下界の男じゃ。出来る限りの努力をしたつもりじゃ」


 ムダ毛は無論、一本も無く、頭の毛まで美しく剃られている。気になったのは、赤らんだ左頬 だ。


「しかし、清体だけでこの気持ちよさじゃ。誓約ともなれば儂は意識を保っていられるか の。実は、恥ずかしい話、もうすでに一発誤爆してしもうた」


 清体師が陰毛を脱毛し、仕上げに剃刀で剃り上げている最中、途方もない快感に我慢できず、あまりに勢い良く射精してしまったせいで、彼女の顔面を汚してしまい、頬をしこたまぶたれたそうだ。


「さあ、宮中へ案内してやる」


「宜しくお頼み申す」


 ふたりは所々に蝋燭の灯された渡り廊下を歩いた。


「儂は誰の餌食となるんかの。碧小夜がええなあ」


 春道は立ち止まって大山を睨みつけた。


「冗談じゃ、冗談」


 ふたりはまた、歩き出す。

 春道は彼女の誓約がいったいいかなるものなのか、考えた。室戸の陰松を波羅愛に追い込んだ一件の謎は深まるばかりだ。


「優しい人がええなあ。いや、滅多にない機会じゃ。熟練のテクニシャンも捨てがたい。年の離れた若い宮様の残酷な虐めも悪くないなあ。指名はできるんか?」


「無礼なやつだ。追い返すぞ!」


「あっ、すまん、大宮様には黙っていてくれ。ところで、そんなお前はいったい、どうなりたいのや?」


「何の話だ?」


「決まってるやろ。碧小夜じゃ。ようやく犬若から奪い取った想い人じゃろ?」


「…」


「まあ、大宮様の氏子筆頭としては辛い立場やろな。だがな、そんな迷いはある意味、大宮様を愚弄するということやぞ」


「馬鹿なことを言うな」


「ということは、お前は妥協の末に、今の立場に甘んじるという事やな。それも大いに結 構、大宮様の氏子筆頭、立派な地位じゃ。しかし、これだけは言うといたる。燃え上がった恋の炎に、我が身を顧みず飛び込まずは、一生の悔いとなる」


「名言を吐いたつもりか?」


「阿呆、恋路に退路なんか無いぞ。踵の下は断崖絶壁じゃ」


「…」


「それでもお前が動かんならば、儂が碧小夜をもらう」


「碧小夜がお前なんて相手にするか」


「果たしてそうかのう?何せ、儂は碧小夜とデートしたんじゃからな」


「あのオカマが言ってたのはやっぱり碧小夜か」


「実に楽しい夜だったぞ。男は遊びが出来て初めて一人前じゃ。お前らもたまには下界に下りて、世間を勉強するべきじゃ」


「お前はこれから何をしようとしているんだ。立場をわきまえろ」


 やがて、桃龍の部屋の前に立つと、オカッパ頭の紅い浴衣を着た禿が出迎えた。彼女はお盆の載せた塩をひと掴みすると、乱暴に大山に投げつけた。そうして、何やら呪文のような言葉を唱えると、「大山大和が大宮様に拝謁申し上げまするー」と、たどたどしく宣った。


「何?大宮様だと!」


 絶叫する大山に、「静かにしろ」と、春道が一喝した。


「いや、しかし、ちょっと心の準備はしてきたけど…、それが大宮様となると、それにはそれなりの、更なる心の準備が。いやー、困ったな」


「不満を言うのか?」


「不満なんて大それたことを言うもんか!しかし、それならそれと先に言うておいてくれ!こんなもん、産まれててすぐの赤ん坊が、乳も飲まんといきなりフォアグラ与えられるようなもんやんけ。ああ、何かえずきそうじゃ」


「大宮様を食い物呼ばわりするな!」


「いや、例えじゃ、例え」


「おまえたち、やかましいぞ」


「あ、はい。すみません」


 禿に怒られて、大人の男ふたりが頭を下げた。

 彼女はふたりを、変質者を見るような目に見ながら正座をすると、静かに襖を開けた。


 中は二十畳くらいある広い畳の間で、四方の隅に行灯が置かれて火がともっている。大山は静かに足を踏み入れ、辺りをきょろきょろ見渡した。床の間に乗用車のタイヤ程もある、大きな南瓜が置かれていて、襖には金箔が張られ、天井には何やら綺麗な女の神様みたいな人に見下された鬼みたいな筋骨隆々な男が、全裸で女座りになり、怯えている様子が描かれている。


「くれぐれも、無礼の無いようにな」


 春道の声と同時に、襖が閉められた。大山は何となく、部屋の中央進み出ると、正座して背筋を伸ばす。ふうーっと大きく深呼吸して、両手で太ももを摩り、胸のドキドキを和らげようと務めた。


 そのままいくらかの時間が過ぎた。密室になって暫くしてから、ほんのりと、大好きな匂いに鼻を刺激されている。南瓜が焼ける匂いである。おそらく行灯の中に夢南瓜の植物オイルが足されているのだろう。

 大山は、緊張と興奮にぐいぐいと引っ張られるような、じれったさに耐えられなくなってきた。

 股間が大きく膨らんでいる。

 何度も尻を左右に動かしているうちに、奥の襖が気になってきた。おもむろに立ち上がって奥の襖の前まで行き、耳を付けて物音を聞いてみた。スローテンポな鼻歌が聞こえた。桃龍はこの中にいる。


 「おおう、あうっ…」と呻きながら、初恋にも似た胸を締め付ける感情とともに、彼は元の場所に戻ると、改めて姿勢を正して、ごくりと唾を呑んだ。

 が、数分としないうちにまたいそいそと立ち上がり、襖に耳を付けた。

 鼻歌は聞こえないが物音はする。

 首を傾げながら、何度か部屋の真ん中と襖とを往復したが、もはや我慢も限界に達し、おそるおそる襖に手を掛けて、一センチほど隙間を開けて覗いて見た。

 その瞬間、全裸で打掛を羽織っただけのソファーに横たわる桃龍と目が合った。「みーたーなー」と語る桃龍の視線をもろに喰らった大山は、立膝を突いたまま恐ろしいスピードで後退し、部屋の中央で震えながら土下座した。


「何て行儀が悪いんだろ」


 襖の奥から声がした。


「滅相もない。拙者、もはや我慢の限界で」


 彼はまるで敵前逃亡したヘッポコ武士が命乞いするように、畳に頭を擦りつけて、免罪を請うた。しかし、これもひとつの誓約の儀式である。俗にいう放置プレイだ。


「まあ、よい。入ってきなさい」


「ははあ!」


 大山はばたばたと前進すると、勢いよく襖を開けた。その瞬間、何か透明な粘液の入った風船のようなものが飛んできて、額に当たって割れ、大山の顔に中身が垂れ流れた。


「誰がそんな恰好で入ってよいと言った?作務衣を脱げ!しかるのち、四つん這いになって入室せよ」


「ははあ!」


 大山は作務衣を脱いで綺麗に畳むと、四つん這いになって再び、襖を開けた。ソファーの前に桃龍が仁王立ちしている。


「さあ、こっちへおいで。そしてこれを呑みなさい」


 彼女の足元、地べた置かれた漆喰の皿に、南瓜の汁が入れられている。大山は這いながら進むと、そのまま頭を下げて皿の中の汁をずずっと吸い始めた。そんな大山の目前に桃龍しゃがみ込み、葉巻に火を付け、その煙を彼の顔に吐きかけた。そうして、今度は葉巻の吸い口を大山の口元へ持って行き、吸わせてやる。頭の中にまで、煙が充満するような感覚になり、意識も煙で包まれる。

 大山はとろんと目じりを下げ、尻を突き出して地面に突っ伏した。


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