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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
葦原京今昔祭
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大仏黒子の男

 ある日の昼過ぎ、春道は村の飯屋で、大豆のトマト煮と生野菜でココナッツライスを喰っていた。木柵で囲まれた庭の隅にトタンで出来た掘っ立て小屋があって、中が厨房になっている。そこで注文して、大き目の皿に飯とおかずを盛ってもらう。そうして庭の適当なところに腰かけて、皆、もくもくと飯を掻き込んでいた。


 鶏が地面を啄み、痩せた犬が餌を探してうろうろ歩いている。


 聖女天村の男は女性的に美しい。これは世間も認めるところである。


 この村の人間は肉を喰わない。これも、高天の宮の女に対する礼儀のひとつである。


 肉を喰えば体臭が増し、排泄物の臭いも臭くなる。筋肉は硬くなり、肌の触感も悪くなる。つまり身体が劣化し、清潔感が欠如する、と男たちは判断し、自ずと肉食文化を放棄したと伝わっている。それが今では常識となっている。彼らは肉の代わりに、大豆や、その加工食品である豆腐等からタンパク質を取っている。


 そんな食文化によってか、皆、葛饅頭のように透き通るような肌をしていて、加齢しても体臭がほとんど無い。


 確かに、大豆にはイソフラボンの効果により、女性ホルモンの分泌効果があるとされる。また、彼らが空腹を満たす為によく食するキャベツもそれに近い成分がある。しかし、それだけでは彼らのようなしなやかで、男性的不潔感を排除した肉体を手に入れることはできない。

 

 だから、夢南瓜には一般的なカボチャを遥かに凌ぐビタミンE、あるいは女性ホルモンを分泌させるそれに代わる成分が含まれているのではないかと実しやかに囁かれている。


 更には日ごろから誓約を重ねることによって男性ホルモンが減退しているようで、通常の男に比べて、腰も女性に近い縊れが出来、尻が大きくなり、体毛も薄い者が多い。

 そのせいか、精力を失って久しい村の爺さんは、どちらかというと婆さんに近い風貌をしている。


 それほどまでに、男は宮の女に対して、美容や風貌にも気を使っている。誓約に挑む時には清体所へ行って残った僅かな体毛を処理してもらい、体を隅々まで洗い、肛門の中まで洗浄する。こうした日ごろの手入れこそが、誓約に挑む礼節であり、宮女への求愛行動でもある。


 食堂を出て大通りを北に向かって歩いていると、西院熊二郎さいいんくまじろうという古株の男がリアカーを引いているところにすれ違った。夢南瓜を加工した商品を、積めるだけ積んでいる。


「手伝おうか?」と春道が言うと、「結構!」と西院は顔を赤らめながら呻いた。額に血管が浮いている。


 リアカーが目前を通過してようやく、彼がひとりで引いていたのではないとわかった。貨物の陰に隠れていて気付かなかったが、リアカーの尻をスーツを着た男が汗も掻かずに押していた。整った顔をした男で、額の大仏黒子が印象的な男である。


 春道はそのまま暫く歩いた後、何となく彼らの行方が気になって、振り向いて見た。

 

 リアカーを押す大仏黒子の後ろ姿の奥、村に入るゲートの周りに無数のおっさんが待機しているのが見えた。作業着を着たのやら、短パンにランニング姿の者、日雇い労働者のようなおっさんばかりかと思えば、よく見るとジャージを着た若い学生風情の男も混じっている。


 彼らの前に西院と大仏黒子がリアカーを止めると、皆が一斉に積まれた貨物も降ろしはじめ、各々のリュック、ボストンバッグ、頭陀袋などに詰め込み始めた。

 

 成り行きを暫く眺めていると、やがて西院と大仏黒子が何か会話を交わし、西院は踵を返して村に戻り、黒子の男は貨物を担いだ集団を率いて下山して行った。


 この黒子の男が初めて村に来たのは一年ほど前である。以降、月に一度程度にやって来ては大量の南瓜を買って行く。

 とはいえ、個人で消費できる量ではないし、そもそもこれだけの量は、よほどの大富豪でもない限り、購入できない。

 

 つまり、組織的に仕入れているのだ。

 

 その後の南瓜が誰に渡り、どんな用途、あるいは流通をしているのかはわからない。しかし、観光協会の取締が激しさを増し、洛中での売り上げが下降線を辿る今、聖女無天村にとって彼から得られる収入は大きかった。

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