絶望と自責
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あの事件の夜、小雨に体を触れられながら獏爺が目を覚ました時、辺りには犬若の姿も観光協会の姿も無かった。
観光客と思われる外国人の男女に優しく声を掛けられた。
体を起こした獏爺は、大丈夫だという意思を伝える為、親指を立ててその場を去った。
街を抜け、東の山の麓から山林に入った。足取りは重かった。未来の村を担う若者の初仕事を指導するお役目すら全うできなかったどころか生殖機能の奪われた挙句、犬若の御体の行方すらわからないまま、どの面を下げて帰村できようか。しかし、何も告げぬまま、身を隠すような真似は、氏子筆頭としてまた、許される事ではなかった。
村では祝儀の準備が進んでいた。大通りに大きな南瓜が三つ、寝そべるかのように据え置かれ、前机には様々な南瓜料理が準備されていたが、ずたぼろになって帰還した獏爺の有様を見て、やんややんやと騒いでいた村民から笑顔が消えた。
「何があった!」と最初に詰め寄って来たのが春道だったことが、泥底まで沈んだ気持に一点の光が差しんだと獏爺は、神社の神楽殿の木造階段に座ったまま、彼を見て微笑んだ。
春道にも忘れていた記憶が蘇る。
当夜、獏爺はボロボロのずぶ濡れまま、黙って皆の脇を俯きながら通り過ぎ、北にある高天の宮のほうへ歩いて行った。春道が彼を見た最後の後ろ姿だった。丸く膨らんで見えていた背中が、丸い小さな綿毛のように見えた。




