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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
フフシル事件
70/125

爆音と煙の中で

次回 2/23 19時

 クラブフフシルのダンスフロアの奥には、一室だけ個室がある。普段は時間制で利用できるVIPルームだが、今夜は貸切られている。


 中には作務衣に身を纏った聖女無天村の男が三人、どこの組織に属してどんな立場の者かは判然としない鼻に大きな黒子のある仲介の役目の男、アジア系の外国人とその取り巻きが二人とどこから連れて来たのか、異様に図体がでかく、それにも増して異様に頭の大きな男がいた。肩まで伸ばしたブラウンの髪にチリチリと燃やしたような髭が轟轟と顎から頬にかけて茂っていて、白の網シャツを着ている。真っ黒な乳首が透けて見えていて、さながら服を来た原始人だ。皮膚はビーフジャーキーのように硬そうで、これを破るには鋸が要る。

 何かにつけて喧嘩腰で挑戦的な室戸の陰松も、さすがに遣り合えばすぐさま殺されると本能的に察知したのだろう、この男を前にして始終、大人しかった。こいつなら、岡莉菜が現れようとも対抗できる。むしろ、勝てる。いくら石橋を叩くようにして秘密裡にこの会合までこぎ着けたにせよ、室戸の陰松には一抹の不安があった。万が一、観光協会に嗅ぎ付けられればという不安である。しかし、相手方が連れて来たこの、ダンプカーを具現化したような男を見て安堵した。この男を観光協会会館へ放り込んだらものの五分程度で壊滅させてしまうのではないかと思えたからだ。


 この面々に加えて、佐藤果花が揃ってエナメル張りソファーに腰を掛けている。あとは店のオーナーと名乗る三つ揃えの男が出入りする。


 すでに何本ものワインのボトルが開いていた。大半は件の大男が、海賊がシェリーの瓶をラッパ飲みするようにがばがばとひとりで開けているのである。男はふんぞり返りながらボトルをまた一本、空にするとグヘエと漏らしながら幸せそうな顔をした。他に、酔っている者は誰もいない(無論、聖女無天村の面々は、酒は呑まず、オレンジジュースを飲んでいる)。厳しい条件の応酬にもはや言葉少なにグラスを傾ける状況となっていた。それでも取引はようやく、成立に向けて終息しつつあった。鼻黒子が最終的な取り決めを偉そうにまとめて宣っている。

 いったい何様だ?偉そうに、と、室戸の陰松は憮然としていた。が、髭もじゃ大男がワインボトルを咥えながら、文句があれば殺すぞ!と言わんばかりに睨んでくるので、皮肉のひとつも口にできない。


 西院熊二郎は落ち着いている。何とか想定の範囲内の条件はクリアできそうだと力強く室戸の陰松に向かって頷いた。やがて、後は書類をチェックしてサインするところまで辿り着いたところで、佐藤果花が立ち上がった。


「どこへ?」


 鼻黒子の問いに、佐藤は「お手洗いへ」と囁くような声で言うと部屋を出た。


「これで村は半永久的に潤うぞ」


 喜びを隠しきれない西院に対して、馬方の表情は優れない。彼は実のところ、本当にこの結果が村に良い影響をもたらすのか、疑問を払しょくできないでいた。

 那智の春道の意見もまた、一理あると考えている。

 現状こそが平和的に村を運営して行く最善の状況だという可能性も否定できない。大風呂敷を広げた末、部外者に村を乗っ取られるのではないか。そのような不安を考えると、両脇を冷やされるような思いがした。テーブルのシャンパンボトルを見つめながら口をもごもご動かしていた。


 部屋の壁は一応、防音壁で作られているが、外からの爆音はそれをも破壊するほどの音量で、彼らの鼓膜を刺激した。

 村の祭日に、まさかそんなところで会合を開くとは、観光協会も思うまい。しかし、それはあくまで上手く裏を掻けた場合の話である。踏み込まれた時の防衛に関しては、あまりにも脆かった。部屋の外の騒ぎが、防音壁と爆音のせいで全く耳に届かなかったのだ。


 トイレに向かった佐藤果花が上に向かう階段を上って行った時、白煙の向うに妙に違和感のある姿を目にした。

今夜は夢南瓜を惜しげもなく使い、フロアを酩酊成分で充満させ、南瓜ドリンク、南瓜の葉巻を存分に容易して大音量の音楽を体の芯まで響き渡らせながら快楽の極限を求めて踊る月に一度の秘密のイベントであった。

 

 その中に何故、観光協会がいるのか。

 しかもそれは部長、幸村朱鷺である。


 幸村が己に視線を向けたような気がしたので咄嗟に俯き、背中を冷やしながら足早にその場を去った。彼とは西京府の議会会議室で顔を合わせたことがある。覚えているだろうか。


 その時、背後から怒号が聞こえ、大音量の音楽に悲鳴が混ざった。

 佐藤果花はトイレには目もくれず、階段を駆け上がると御玉通りに出て、再び地下の様子を伺った。


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