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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
フフシル事件
68/125

猫の坊の策略

「観光協会の連中は今頃地団太を踏んでおるぞ。まさか、せっかく捉えた手がかりが女と逢引きしたまま一歩も動かぬとはな」


 旦国寺猫の坊は己の策略の成功を妄想し、「むふむふ」と満足気に笑った。


 ここへ辿り着くまでの道中、上条通りに差し掛かった時、猫の坊は天空雨の丞にわざと観光協会に遭遇するように命じた。


「南瓜は持っておらん。お前に危害を加える大義名分は無いから問題ないだろう」


「本当に南瓜は持っていないだろうな」


 春道が念を押した。


「ああ、今夜は持っていない。鍵屋が抜かれたのは俺のせいだからな。もう同じ失敗はしない」


「お前は出来るだけ、不審な立ち振る舞いをしろ。我々の作戦を成功させる為にはあくま で、今夜会合が開かれなければならない。協会の団体さんが、諦めて会館に帰って来きたら元も子もないからな。お前は会合のメンバーのひとりであるかのように振る舞え。そうだ、上手く、いや下手な演技ですっとぼけろ。そうすれば解放された後もお前は監視されることになるだろう。しかし、一切の動きを示さない。そうすれば奴らは会合の存在を確信するものの、動きが無いので焦り始める。そのうち、痺れを切らして人海戦術に出るだろう。そうなれば人が要る」


「なるほど、会館に人が残っていた連中も、駆り出されて行くということか」


「ああ、会館は更に手薄になるはずだ」


 猫の坊はぐっと親指を立てた。


 「しかし」雨の丞が訊ねた。「俺はどうする?ひたすら街角で呆然と立ちすくんでいればいいのか?」


「それもまた怪しいな。そうだ。女と逢引きすることにしよう。懇意の女はいないか?」


「そんな女がいれば紅金魚に殺される」


 「男でもいいか?」春道がぼそりと言った。


「男だと?」


「厳密に言えばオカマだ。この近くに大山の仲介で取引しているオカマバーがある。ママとは面識があるから南瓜を代償に、綺麗どころを用意してもらおう。オカマは根性も座っているし、丁度いい」


 そこでホルモンバランスに寄り、ママに話をつけて段取りをしてもらった。無論、提供する南瓜は少量とは行かない。尻の毛を毟る勢いでふんだくられることになった。


 パパイヤというオカマが、御玉通りのほうにあるカフェで待っていてくれる。


 バーのある雑居ビルを出ようとエレベータを待っていると不意にママが言った。


「そういえば、この前、大山くんと一緒にお宮様が来たよ」


 春道は驚いた。聞くと、間違いなくそれは碧小夜だった。


「会館へ戻ったのか?」


「ここを出た後は、どこへ行ったかは知らないよ」


 大山からそんな話は聞いていない。碧小夜が口止めをしているのか。それに、大山と二人になったとなると、観光協会の監視を逃れているということになる。何故、村に戻って来なかったのか。もしかすると、村を捨て、犬若と一緒にいる道を選んだのか。

 雨の丞はそんな春道にまた、迷いが生じたのを察した。なんでもネガティブな方向に物事を考える悪い癖だと思い、このまま沈みゆく消極的思考を救い上げてやろうと、彼の背中をバンと叩いた。


「今あれこれ考えても本当の碧小夜の気持ちはわからんだろう。へこんでいる暇があったら会館へ行って、どういうつもりか直接聞いて来い!」


 春道は気を取り直した。考えてみれば、雨の丞は今回の奪還作戦に参加するに当たってなんの得もない。それでも、危険を冒して付き合ってくれる人の良さを改めて有り難く感じ た。


「しかし、碧小夜は実に何を考えているのか、わからない行動をするな。そういう面で確かに、恐ろしい女かもしれんな」


 雨の丞は真顔になってそう言うとひとり、観光協会に己の姿を晒すため、道を逸れて行った。

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