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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
フフシル事件
65/125

大捕物へ、いざ!

 上条通から甲羅町通りを北に折れ、御玉通りと交わるまでの中間地点に、路面に面した斗南屋となみやという土産物屋がある。店先には観光協会青年部の部員グッズが並んでいたが、ここ最近、売れ行きが芳しくない。売り上げの上位ランクだった有沢グッズがセール対象商品と化したからだ。鈴方や太川のグッズなど、とうの昔に府のごみ処理場へ運ばれ、今頃は灰と化して土に帰っているだろう。


 そんな事情もあって、主人の斗南源五郎となみげんごろうという老人は、機嫌がよろしくない。彼はこの辺りでも有数の地主であり、強いては観光協会本部長という形式上、青年部の上層部の最高権力者という立場でもあるが、有沢を排除した幸村、高山を今や、まるで商売敵のように看做している。


 斗南屋に青年部の面々が詰め寄せたのはその日の朝も早くからだ。以後、この店を拠点に観光客や市民になりすました私服の部員が、入れ替わり立ち代わり、市中探索に出かけているが、日が暮れた今尚、噂の会合の尻尾を掴むことができないでいた。


「高山よ。本当に今夜、会合は開かれるのだろうか」


 幸村朱鷺が店の奥の畳の間に胡坐を掻きながら、源五郎老人と共に準備された弁当を喰いながら言った。薄暗い蛍光灯の灯りが彼らを蒼く照らしている。


「ああ、笠子の情報だ。間違いないだろう。しかし、さすがの笠子も場所が掴めなかったのが痛恨だった」


「物騒な真似は勘弁しろよ、幸村君」


 源五郎老人があまり中身の減っていない弁当箱をちゃぶ台に置いて、湯呑を持ち上げながら厭味を言った。「昔の青年部は大人しいボランティア学生の集まりだったのだがね。いつの間にこんなヤクザまがいの武装集団になってしまったのか」


「人聞きの悪いことを言わんでください。我々も夢南瓜を殲滅することができたら、爽やかお兄さんたちの観光促進グループとして街の活性化に尽力する予定です」


「どの面が爽やかお兄さんじゃ?」


「これです」


 幸村は大きな口をにかっと広げて見せた。


「汚い歯じゃ」


 老人は大半を残したままの弁当箱を持ち上げて奥の暗い台所に入っていった。「こんな鬼瓦のような男のグッズなど、どこの物好きが買うのだ。ああ、顔だけでも有沢君になってくれまいか」とぶつぶつ言っている。


「言われたい放題じゃないですか」


 店を通りぬけて犬若が笑いながら畳の間に上がってきた。そうして持っていたビニールの袋をちゃぶ台に置くと、中から揚げ出し茄子とごぼうのかき揚げ、葱ぬた、インスタントのあおさの味噌汁、それに白米の入ったタッパーを取り出した。差し入れの弁当には和洋の肉料理がふんだんに盛り込まれていた為、近くのスーパーで自分用に夕食を買って来たらし い。


 幸村とって勿怪の幸いは、朝から犬若の調子が良かったことである。皆に混ざってここまで来たし、始終良く話し、笑っている。犬若の状態が悪いと隊の指揮にも関わるが、元気にいてくれる分にはこれほど頼もしいことは無い。


 犬若がかき揚げを齧り、小さな白米の塊を口に運ぶ様子を、店内の脇に立った岡莉菜が見つめていた。


「そんなに見つめないで下さいよ。食べにくい」犬若は苦笑した。「岡さん、食事は?」


「もう喰った」


 岡莉菜は視線を天井に向けながらぼそりと言った。


「足りてないんじゃないですか?」


「ああ、うん」


「私の分が余っているはずだから、食べちゃってください」


「あ、ありがとう」


 岡莉菜はそう言うと積み上げてある弁当の山からひとつ、手に取りながら、ニッカリと歯を剥き出しにして、全然可愛くない笑顔を見せた。人食いライオンが笑うとこんな感じになるんだろうな、と犬若は思った。可愛くないが実に、嬉しそうである。


 岡莉菜は弁当箱の一区画ずつを、掃除機で吸い込むように綺麗に消し去って行く。今度は逆に犬若が岡莉菜の喰いっぷりに見とれる番だった。煮つけた里芋など、噛むこともせずにずるりと丸ごと呑み込んでいる。彼は瞬く間に弁当を平らげてしまった。


 高山のスマホが震えたのはその時だった。応答すると藤田付きの部員だった。上条通りとの交差点で、聖女無天村の男を見つけ、職務質問していると言う。


「とうとう動いたか」


 高山は立ち上がると素早く靴を履き、店の外に駆けだした。犬若、岡莉菜も続く。幸村も弁当の残りを掻き込んで、畳の間から店に出ようとしたが、高山がそれを静止した。


「幸村さんは残ってくれ。他で動きがあった時、幹部が誰もいないのではまずい」


「うむ」と幸村は唸った。何の進展も見られずうずうずしていた折、ようやく均衡が破られそうになった事態に居ても立っても居られないようだ。しかし、高山の指示は的を射てい る。今、隊長と副長という指揮官二人が行動を共にするのは得策ではない。


「わかった。しかし、場所がわかっても勝手に突入するな。その時は絶対に俺が先陣をきりたい!」


「ああ、わかった。何かあったら使いを出す」


 高山は珍しく笑顔を浮かべて答えた。彼は幸村のこういった無鉄砲な子供のようなところが大好きだった。


「頼んだぞ」


 幸村は脇にあった弁当の山からもう一つを手に取って、蓋を開けながら畳の間に戻って行った。


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