面白そうな臭い
次回 2/23 13時
六人の男が葦原京へ続く山道を駆け下る。すでに日は暮れていたが蝉の鳴き声がまだ、けたたましく耳を劈いた。皆、夜目が効く。悪路でもあるにも関わらず、藪蚊も寄り付けぬ速度で下って行った。
その時、先頭を走っていた春道が突然足を止めた。後続が止まり切れず前の者を左右に避けた為、皆が脇の茂みに飛び込む形になった。
「どうしたんだ、突然止まりやがって!」
体に草木の屑を払いながら茂みから起き上がる猫の坊の問いにも、春道は答えることなく身構えている。その視線の先に小さな灯りが見えた。だんだんとこちらに近づいてくる。
やがて目前に迫った懐中電灯の灯りが春道の顔を照らした。思わず片目を瞑り、顔をのけ反らせながら腕をもう片方の目の瞼に当て影を作り、必死に相手を見定めようとした。
「おうおう、那智の春道やないか。お、天空に変態坊主まで、こんな時間にどこ行くの や?」
大山大和は儂じゃ、儂じゃと言わんばかりに今度は己の顎の下から懐中電灯を照らし上 げ、怪物よろしくといった異形の顔面を晒した。
「今日は祭りじゃろ?だのに血相変えてどこへ行くのや?」
「驚かすな!」
安心の溜息をつく春道に向かって大山は「ははあん」と笑みをこぼした。
「その焦り方を見ると何か、危ない橋でも渡りに行く気か?」
「ただの急な営業だ」
「ホンマかいな?」
「ホンマだとも」
思わず言葉遣いまでおかしくなり、春道は改めて己の気の張り詰めようを感じた。
「まあ、それなら頑張って稼いでらっしゃい。儂はゆっくりと南瓜汁でもよばれてるさか い。おう、それから約束通り、櫓は全可動式に魔改造しておく」
「勝手にしろ、俺たちは急いでいる。じゃあな」
春道は皆を促して立ち上がらせ、また山道を駆け始めた。
大山大和は腕を組んで難しい表情をしながら、彼らの後ろ姿を見送った。彼の耳にぷーんという、藪蚊の嫌な羽音が聞こえた。
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