表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
フフシル事件
56/125

碧小夜と老人

 夕食を終えた碧小夜が縁側に座って、夕暮れの空を見上げていた。西のほうに明るい星がひとつだけ見える。

 蚊取り線香の香と風鈴の音があまりにも夏らしい。

 高天の宮にいてもこうやって濡れ縁で夏の空を見上げるのが好きだった。そんな時に、誓約を終えた那智の春道が桃龍の部屋から出て来て、むっつりとしながら挙動不審に通り過ぎて行ったりする。


「入ってもよろしいか?」


外からの声に返事をすると、襖が開いて堀川清介が入ってきた。


「お暇でしょうに」


「いえ・・」


 碧小夜は少し笑みを浮かべながら老人を見た。

 老人は入り口で腰を屈め、「っとっとっと」と声を漏らしながら胡坐を掻いた。

 そう言えば腰を下ろす時に同じような声を出す人がいた。誰だっただろうか。何年もその声は聞くことがなかったのは確かで、すごく懐かしい。その懐かしさにつられて、ついつい気になっていたことが口から出た。


「すみません、あなたに訊ねてもわからないかもしれませんが、私はどうなるのでしょうか?」


「ご想像通り、私にはわかりません」


「そうですよね?でも部長さんや副長さんには聞けなくて」


「あなたは村へ戻りたいのですか?」


「わかりません。どこにいても同じなんですもの。毎日、お屋敷の中で外を眺めたり、本を読んだりしているだけ。この毎日が一生続いてゆくのかなって思うと、悲しくなる時もあります。でもそれも大宮の娘として生まれた法なのだから仕方がないんだって、すみません、困りますよね、こんな話をされても」


「少し外の空気を吸いに散歩へ出ませんか?今夜、そこの神社に夜店が出ている」


「でも・・」


「幸村さんから許しをおもらいました。そもそも、部屋から一歩も外へ出てはいけないなんて道理はありません」

 そして老人は小さく囁いた「戻りたければ、戻ればいいのです」


もしよろしければ、ブックマークや評価をお願い申し上げます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ