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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
フフシル事件
51/125

恐ろしい女

 季節は梅雨に入った。

 よく雨が降り、聖女無天村民たちは安堵する。数年前、極端に雨の少ない年があり、夢南瓜の収穫量に影響が出て、村全体の生活を圧迫したことがある。この調子なら今年はその心配も杞憂に終わりそうだ。


 そんな中、例の佐藤果花という男が毎日のように訪問して来て、馬方藤十郎や西院熊二 郎、室戸の陰松も参加して、密談しているという話を、那智の春道はパンプキンバーで天空雨の丞から聞いたが、彼は「へえ」と気のない返事をして、南瓜ドリンクを啜り続けた。


 無論、春道は碧小夜のことが気がかりで仕方が無かったし、雨の丞も彼の気持ちを察するに余りある。このひと月、春道は自室に閉じこもっているか、バーでドリンクを呑んでいるかするだけであった。何度か桃龍にも呼ばれた。何とか碧小夜奪還部隊を組織して、観光協会会館を襲撃できないか、などと物騒な相談も持ちかけたが、桃龍も己の娘が監禁状態にあるとは言え、そのような無謀な策を実行するような人物ではない。


「いずれ、機会がある。それまで待て。私も我慢しておるのだ」


 桃龍は唇を噛んだ。

 しかし、その妙な落ち着きが、春道は気に掛かっていた。有沢ら関東派が排除されたとは言え、男ばかりが生活する空間に実の娘が囚われていて、何故、こうも落ち着いていられるのか。桃龍に問いただすと、「その点は大丈夫だと聞いている」と答えた。


「何故、そんなことがわかるのですか?」


「何故かは言えない。しかし、協会の者たちは碧小夜には指一本、触れてはいない。生活環境も整えられているそうだ。これ以上は聞くな」


 桃龍には何か、情報源があるということだけは分ったが、それがどこからどのように入る情報なのかは、彼女は決して教えてはくれなかった。


 もう一つ、気になることがある。


 室戸の陰松が碧小夜を指して言った「恐ろしい女」という言葉だ。それは彼が碧小夜に波羅愛された経緯に関係しているのだろうが、一体なにがあったのか。公然の噂では、室戸が碧小夜に対し強姦まがいの行為を仕掛けたことになっているが、よく考えてみれば、それほどの事をしながら、今なお村に留まっていることが不自然だ。普通なら追放されて然るべき行為であるが、彼が平然と暮らしていることが黙認されている。


 室戸の陰松が佐藤果花と組んで南瓜を乱売しようと企んでいるその目的は、新たな主人を求めているからである。聖女無天村の男の欲望の全てはそれでしかないからだ。金を儲けたところで己の懐にはびた一文は入ってこない仕組みになっていて、全ては平等に、村の生活資金に宛がわれる為だ。

 他に考えられることとすれば、いよいよ室戸が村を出て、南瓜で一山築こうと企んでいるという疑いが湧き出すが、そうなると村とのパイプも切れる為、本末転倒ともなりかねないことくらい予想できるだろう。


 そう考えると、室戸と碧小夜の波羅愛には何か別の理由が存在している可能性も考えられた。


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