こういう時こそ、はいっ!南瓜!
激しく降りだした雨の中、春道らは公園の中でずっと息を潜めていた。木々の下にいても体はすでにずぶ濡れになっていた。作務衣が体に引っ付き、彼らの生身の色が透けて見える。
その時、雨傘が三つ並んで近づいてきた。ふたり一組になって傘の下に入っている。柵の向うの町屋の前をを、鮮やかな宮女の着物通り過ぎて行くのがちらりちらりと見えた。会話はしていたのだろうか、雨音にかき消されて何も聞こえない。
集団が過ぎ去ると、四人は立ち上がり、公園を出て曲がり角に影を潜めた。その角の向うを伺うと、最後の一組が会館の門を潜って行くのが見えた。
すぐさま突撃しようと試みる室戸の陰松を春道が止めた。
「まだだ、奴らは呑み直すだろう。酔いが回るのを待とう」
「寒いんだよ。さっさと殴り込まねえと、このままじゃ体が固まってまともに動けねえぞ」
すると天空雨の丞がポケットから小瓶をひとつ取り出し、三人に差し出した。夢南瓜の種が入っている。
「これをやれば多少、寒さも紛れるだろう」
「お前、相手は観光協会だぞ。見つかったら現行犯でまとめて抜かれるぞ」
春道が小声で言うそばで、室戸は種を取り出し、前歯で種の殻を割ると、器用に前歯で芯を引っ張りだし、ポリポリと噛んだ。鍵屋の利吉が「俺にもくれ」と言って、雨の丞から小瓶を引っ手繰り、右手でそれを傾けて開いた反対の左の手のひらの上で小刻みに振った。彼は手のひらにこぼれ出たいくつかの種を確認すると、小瓶を雨の丞に再び返して、自分はそれを貪った。口の中で殻を割り、殻だけ地面にぷっぷっと吐く。
「おい、殻は拾ってドブにでも捨てておけ。僅かな証拠も残すんじゃねえ」
利吉は「あ、ああ」と、口を動かしながら、殻を拾い、ポケットにしまった。
そんな春道に「ほれ」と雨の丞が小瓶を差し出す。春道は少し考えるに間を置いたが、持ってきてしまったものは仕方がない。これで少しでも張り詰めた緊張感が解れるならばと、種を手にして両手で小さな殻を割った。
ふたつみっつと体に入れると、やがて口の中がべとべとして、頭がぼんやりとなり、体がふんわりと軽くなるように感じて来た。これ以上やると酩酊するので、雨ノ丞は小瓶に蓋をして、路肩の電柱の陰にそれを置いた。
「おい、そんなところに置くな。証拠を残すなっていうのがわからねえのか!」
どこまでも慎重な春道に、雨の丞が答えた。
「だが、持っていたら現行犯だぞ?」
「ならば、どっかに投げ捨てろ!」
「種はまだ入ってる。もったいねえじゃねえか。なあ、ここに置いておけば少なくとも俺たちが持ってきたという証拠にはならないだろ?ちゃんと、回収するから、大丈夫だ」
そう言うと雨の丞は顔を叩いた。それにつられるように、室戸は手の骨を鳴らし、鍵屋は体を大きく捻った。
春道は何か釈然としない気分のまま、ポケットから目出しの頭巾を取り出し、頭から被った。




