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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
会館の決闘
45/125

笠子何某

 悪塔子を連れた高山紫紺は古い長屋が続く路地を西へ歩いていた。


 いつの間にか満月は隠れ、間も無く、雨が落ちて来た。


 早く約束の場所へ行って彼女を引き渡し、己も会館に向かわねば。そう思って足を速めた時、「なるほど、お前は良い御身分なんだな」という声に足を止められた。

 南を少し下がった小川に掛けられている小さな橋を、端から端までまたがるかのように大きな影が立っている。それが鈴方祀であることは、すぐにわかった。


「鈴方くんか。何だ、こんなところで拗ねていたのか」


 高山が言うと、鈴方は石の欄干を足の裏で蹴とばした。擬宝珠が折れ、浅い小川に落ちて鈍い音を立てた。


「有沢さんにチクったのはお前だろう、高山!」


「何のことだ?」


「知っているぞ。お前が探索を使って、調べさせたんだろう。名前だけは知っている。笠子何某とかいう探索に俺を嗅ぎまわらせたんだろう」


「己惚れてるんじゃねえよ。君ごときに笠子の手を煩わさせるわけにはいかねえよ。そもそも調べる必要もねえ。俺には放っておいても情報が入ってくる仕組みになっているんだ。それに、俺がわざわざ有沢にチクると思っているのか。そんなに仲良くねえよ、俺たちは」


「くそが!なめてんじゃえんよ。俺は元々、お前のことが気に入らねえんだ。俺はもう協会にはいられねえが、葦原京を去る前に、お前をぶち殺さなきゃ気が収まらねえ!」


「それはどうも。俺も馬鹿は嫌いでな」


 怒った鈴方は気が狂ったように吠え、高山に向かって突進してきた。野太い腕が音を立てて振り回される。それを長身の高山が起用に体をのけ反らしながらひらひらと避ける。さすが武闘派で鳴らした男だけあり、攻撃を魔弾無く繰り出すことで隙がなかなか生まれない。腕力で劣る高山は一瞬の隙を狙い、適格な手段で致命傷を負わせる必要があった。


 高山は後へ後へとさがって行き、そのうち、小さな商店街へ入っていた。店はどこもすでにシャッターを下ろして静まり返っている。酒屋の軒先に並べられていたビール瓶の入ったケースが足に引っかかった。ケースごと瓶がひっくり返り、辺りに派手な音が響いた。何事かと店の者がシャッターを上げたが、眼前に巨体が暴れているのを見ると、悲鳴を上げながら再び、シャッターを下ろしてしまった。

 辺りにはまだ時折、通行人がいる。自転車に乗った学生が来たが、わっと声をあげ、反転して反対方向へ走り去った。場所が良くない。

 高山は商店街の裏に小さな社があるのを思い出すと、その方向に向かって、鈴方を誘導するように動いた。我を忘れた猛獣のような鈴方を誘導するのは造作なかった。

 やがて、社の前に来た。雨が激しくなっている。

 鳥居をくぐると灯篭に灯された電球と祠の脇の小さな街灯だけが、その場を照らす光となった。

高山は尚も後ろへ下がり、とうとう隣の民家とを隔てる塀にまで追い詰められた。


「覚悟はできたか!」


 鈴方がぜいぜいと息を切らせながら迫ってきた。そして、右腕を振り上げた。

 しかし、拳が高山の顔面を捉えるかといところで動きが止まり、そのまま前のめりになって倒れ、塀にしこたま頭を打ち付けるとそのままその場に崩れ落ちた。尻を突き上げ、フグの毒にでも当たったかのように、ビクンビクンと痙攣している。


 鈴方を見下ろすように男が立っていた。どうやら後頭部に一撃、食らわせたようだ。


「お望み通り、笠子が手を汚してくれたよ、鈴方くん」


 高山はそう言いながら、羽織の袖から小さなビニールの袋を取り出し、鈴方の脇にしゃがみ、羽織の袖に入れた。中身は乾燥した南瓜の葉である。彼はゆっくり立ち上がると社を出て、小橋のところへ戻った。悪塔子はまだそこに立っていた。歩いてくる高山をじっと凝視している。


 高山は無言で笠子と呼ばれたその男に彼女の身柄を引き渡した。


(余計な時間を使ってしまった)と思った。そして急ぎ、元来た道を戻って行った。


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