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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
会館の決闘
44/125

決戦へ

 騒動があった後、暫くその場は異様な雰囲気に包まれていた。平部員も口々に事と次第を詮索する様子を見せたが、やがて改めて酒が運ばれて来ると、何もかも忘れてしまったかのように、賑やかな場に戻った。


 四半時ばかり経った時ふと、それまで上座に座り、酒を呑み、居眠りをしていた幸村朱鷺がのっそりと立ち上がり、座敷を出て行った。あまりにふらりと出て行くので、皆が一様に用を足しにでも行ったのだと思っただけで、宴会の熱は冷める気配もない。その後、暫くして沢井宗八も黙って立ち上がり、部屋を出た。


(いよいよ)


 犬若は出て行く沢井にはあえて視線を合わさずにいたが、後を追うように隣にいた堀川清介が立ち上がるとようやく、視線を上に向けた。堀川は口を真一文字に噤んだまま、足早に廊下に出て、便所とは反対に玄関のほうへ歩いて行った。


 幸村朱鷺が料亭の門の脇に立ち、腕を組みながら目を閉じていると、やがて沢井宗八が出て来た。

 目を合わせて頷き合い、走りだそうとした時、

「どこへ行きなさる?」

 という声に引き留められ、ふたりはぎくりとしながら振り返った。堀川清介が地面から根を生やしたような、何かに踏ん張っているような恰好で立っている。


 「どこへ行きなさる?」堀川がもう一度、訊ねた。


 互いの間に暫く静寂が包んだが、そのうち耐えかねた沢井が「いやあ」と何か言い訳でもしようかというのを、幸村が遮った。

 幸村は堀川に向かって「関東派を根絶やしにする」と、正直に答え、沢井に向かって、「ありゃあ、隠し事が通用する目じゃねえよ」と言った。

 沢井は、答えを聞いた堀川清介はさぞ驚くだろうと思った。しかし、この老人はあろうことか「儂も行く」と、ふたりに歩み寄って来る。その意外な言葉に、幸村も戸惑ったが、同時にただならぬ覚悟を感じ取った。


「どういうことだ、堀川さん。何か有沢に恨みでもあるのか」


「有沢に恨みはない。しかし、おなごに手を出させるわけにはいかん」


 幸村と沢井は顔を見合わせた。まさか、この御年になって、いずれかの宮女に一目惚れしてしまったのか、と思った。しかし、事情はどうあれ、この老人はもはや有無も言わせぬ殺気を含みながら、真っ先に駆けだそうとしている。断れば呪い殺されそうな雰囲気さえあ る。

 仕方なく、幸村と沢井は堀川を伴い、衣装が隠してある御旅所へ向かった。


 三人が御旅所に到着した頃、重田屋ではようやく犬若が立ち上がろうとしていた。堀川老人が戻っていないことが気になっていた。明らかに幸村らの動きに反応していたように思われたからだ。しかし、今は老人の心中を熟慮している暇はない。

 立ち上がった時、その正面で、杯を傾けながらこちらを睨み付けるような視線を向けている藤田翔に気づいた。犬若は咄嗟に目をそらし、そのまま逃げるように座敷を出た。


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