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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
会館の決闘
41/125

春の夜道を爺と歩く

「何をしている」


 不意に背後から声を掛けられた。

 振り向くと濡れ縁に堀川清介が立っていた。

「慰労会は始まっているぞ」


 普段、自分に声など掛けたことの無い老人に声を掛けられ、犬若は戸惑った。返す言葉が見当たらず、「え、ああ」と唸った。


「儂はこの歳じゃ。若い者に混ざって騒ぐのも気が引けるがせっかくの機会じゃ。ちっと顔は出す。一緒に行かんか?」


 そう言うと堀川は鋭い三白眼を向けながら、急かすようにくいっと門のほうに向かって首を振るので、犬若は断ることもできず、ゆっくりと立ち上がって、老人の後ろから道に出 た。

 満月が照らず路上を堀川は美味しいものでも噛みしめるかのように、一歩一歩丁寧に地を踏みしめながら歩いている。自ずと犬若は彼に追いつき、横並びにならざるを得なかった。


 暫く黙って歩いていたが、ふと堀川がぼそりと何か言った。犬若が言葉を聞き取れず黙っていると、それがわかったのか、もう一度、

「今日は皆の様子がおかしかったな」

 と、呟いた。


 この男はやはりただの爺さんではない、と犬若は思った。


 あなた、一体何者なんです?と問いたかったが、犬若が抱くこの老人に対する得も言われぬ恐怖心が口を開かせなかった。それどころか犬若が口にしようとしている疑問を、この堀川清介という男は悟っているのではないか。いや、完全に悟られてる、という確信さえあ り、こうやって彼に流され会館を出たことを後悔していると、老人が再び口を開いた。


「お前、何か迷っているな?」


 犬若はこくりと頷いた。


「答えが出んのか?しかし、悠長に悩んでいる時間はない。そうだろう?今夜、何が起こる?」


「私の口からは言えません」


 犬若は朦朧としながら、辛うじて答えた。


「幸村さんらが何か企んでいるのだろう」


「企むなんて、そんな物騒なことは。ただ、あの人たちもそうするしか道が無いのです。しかし、私はそれが本当に協会にとって良いことなのか、わからないのです」


「かといってお前が悩んでいても結果は変わらないのではないか」


「いや、私の選択が協会の運命を変える気がする」


「己惚れるな!」


 堀川が低く、しかし道の脇の塀を揺らすような声を放った。


 犬若は驚き、垂れていた頭上げて堀川の顔を見た。彼は真っ直ぐ前を見据えてゆっくり歩きながら言った。


「お前に運命を背負わせるようなら幸村さんも終わっとるわ。高山さんが動いているのだろう。奴はお前の選択で運命が変わるなら首根っこをひっ捕まえてもお前を連れて行くわ!お前は好きなように、後で悔やまぬ道を選べ。悩んで答えが出ぬ時は自分を第一に考えろ」


 その瞬間、犬若は目には今歩く細い路地が急に、何倍にも広がったように見えた。堀川の言葉の中身そのものが彼を動かしたのではない。それは長らく忘れていた、己の意思で決断する時に最後の一手として必要な、他者のひと押しであった。そのひと押しは誰でもよいわけではない。その力をこの老人から感じ取り、「ありがとうございます!」と犬若は深く頭を下げた。


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