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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
会館の決闘
39/125

どいつもこいつもろくでなし

 畳の広間に宮女が集められた。


 まずは碧小夜。

 すっくと立ちあがると、目を伏せながら部員に連れられて玄関のほうに出てい行く。

 

 春道はその姿を目で追ったが、碧小夜は顔を上げなかった。


 そして紅金魚が選ばれた。

 背が高く、長い脚はよく肉の付いた太ももからつま先まで、刺身包丁のように美しく伸びている。体とは裏腹に丸顔で大きな目をした童顔で、宮中でも美女として名高い。偶然的にも天空雨の丞の主人であった。彼女は退出するまで、不安そうな顔で雨の丞を見つめてい た。彼の心中も熱いごった煮を掻き回したような、穏やかなものではなかっただろう。

 それから、天竺蓮華てんじくれんげという褐色肌の宮女が連れられて行った。


「以上の三名を預かって行く」


 沢井が立ち上がろうとすると、「おう!」とひとりの男の口から数千の軍隊の勝鬨のような声が上がった。


「俺も女がほしい」


 そう言うが早いか岡莉菜が立ち上がると、どうどうと大きな足音を立てながら、ひとりの宮女を抱え上げた。その瞬間、横に座っていた南極亭常夏が異様な殺気と共に片膝を立てようとするのを、春道は本能的に制した。抱え上げられたのは悪塔子である。

 悪塔子は手足をじたばたとさせながら、何か言葉にならない事を喚いていたが、岡莉菜は構わず大部屋を出て行った。残された部員も五人、六人と立ち上がり、続いて部屋をあとにし、その後ろから春道らが追った。


 路傍のほうで、身体を痛めつけられた村人らが首や腹を押さえて座り込んでいるのを横目に、春道らは大通りを歩いた。それを見た村人から「那智よ、お前びびったのか!」「宮様を売ったんか!」「恥を知れや!」などと、口々に罵声が飛んだ。それでも春道は前を行 く、協会の連中の背中を見ながら進んだ。

 門前に辿り付くと、そこに三台の人力車が止まっているのが見えた。大山大和の所有物を借りて来たようだ。その一台にすでに誰かが座っている。


「よお、怪我は治ったか?」


 有沢獅子は春道に向かって、馬鹿にしたような笑顔を見せた。その憎い顔を見て、春道の尻が疼いた。敵わぬだろうが、それでも殴り掛かりたいという衝動が芽生えた。しかし、我慢した。夜には厭でもこの男と相対せねばならない。


 やがて選定された宮女が台座に載せられ、平部員に引かれた車は山道を下って行った。

 天空雨の丞がゲートを蹴った。南極亭常夏は黙って観光協会の後ろ姿を見送っている。春道は、これまでは高山の筋書き通りに進んでいるのだと己に言い聞かせると、雨の丞らにも声を掛け、大通りを高天の宮に戻ろうとした。その時、そこに室戸の陰松が立っていることに気付いた。

 室戸は歩み寄って来ると、春道の胸倉をつかみ上げた。


「てめえ、本気でびびって宮様らを売ったんじゃねえだろうな?」


 それでも黙って室戸を睨む春道の横から雨の丞が、

「お前こそ、何ひとりでピンピンしてやがるんだ。他の奴らがやられてるのを、指をくわえて見てたんだろう?お前が奴らに吹き込んだんじゃねえのか?」

 と、今度は室戸の胸倉を掴んだ。「何で俺たちがこんな茶番に付き合わなきゃならねえんだ?」


「何の話かさっぱりわからねえな?」


「お前、協会と通じてるんだろ?俺たちの動向を吹き込んで、取引現場を襲撃させてたんだろう!」


「はあ?本気で何言ってんのか、わからねえよ!」


「もういい、雨の丞!」春道が怒鳴った。「室戸、俺たちはこれから観光協会会館に殴り込む。有沢獅子に喧嘩を売りに行くんだよ」


 室戸は眉間に皺を寄せて口を開けた。春道は続ける。


「俺たちは協会の内紛にどうやら巻き込まれているらしいんだよ」


「ちょっと待て!まさか、村で噂になっている協会の内通者がいるって話、俺のことを疑っているのか?冗談じゃねえぞ。俺だって別に好き好んでピンピンしているわけじゃねえ。あの沢井って男に蚊帳の外に出されてただけだ。よし、わかった。じゃあ証明してやるよ。俺も連れて行け。有沢だろうが誰だろうが関係ねえ、協会の奴ら、片っ端からぶち殺してやるよ」


 室戸は吐き捨てると春道の足元にべっと痰を吐いた。


「那智よ、お前、碧小夜に気があるんだろ?親子丼なんて品のねえ真似するんじゃねえぞ」


「無礼な言い種してんじゃねえぞ!お前、南瓜を乱売するって話に乗ってるそうだな。金儲けした暁は、碧小夜と復縁を目論んでるんじゃねえのか?お前が碧小夜にしたことは、俺は許さねえぞ」


「はははっ、お前はわかってねえんだな。復縁なんてとんでもねえ、あんな恐ろしい女、俺はもう御免だ」


 室戸は鼻を鳴らしながら、夜まで休むと言い残し、己が巣へ戻って行った。


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