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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
会館の決闘
33/125

御宮様を拐いに行こう!

 上条通りは夜になっても賑わいが絶えなかった。先日、海外の某有名旅行専門出版社が実施した世界で行ってみたい都市ランキングに、葦原京が上位ランクしてからというもの、旅行客は一層増加したように思う。


 明るい上条通りから甲羅町通りを北上して路地を入った場所にある酒場の奥のソファー を、関東派が陣取っていた。ソファーの端にはひとりでふたり分の席を占領している大きな男がいる。岡莉菜である。隣の嬢が恐る恐る話かけるが、「ああ」とか「おお」としか返事しないので、嬢も困った様子だ。 


「ごめんな、お姉さん。こいつ、会話が不自由でね。別に怒っているわけじゃねえんだ。これも楽しんでるんだぜ」


 太川が言うと、鈴方や楊がげらげらと笑った。


 その時、不意にドアが開いて、男がひとり入って来た。一同が一斉にぎろりと睨む。一般客なら怯えて引き返すとろであるが、男は尚も堂々と入店して来た。


「おお、誰かと思えば沢井君じゃないか」


 有沢が手招きすると「お邪魔しますよ」と言って、沢井は岡莉菜の膝に腰かけた。


 「さあ、駆けつけ一杯」と有沢がビールジョッキに注いだシャンパンを、沢井は一気に飲み干した。


「おお美味い。いやあ贅沢な呑み方だねえ。毎晩こんな呑み方してるんですか?」


「まあな」


 不愛想に答えながら有沢は黒服に追加のシャンパンを頼むと、「おい、彼にも女の子を付けてやってくれ」

と言って、嬢をもうひとり呼んだ。すぐにふっくらとした愛嬌のある嬢がやってきた。


「そろそろ空いている席に座ったらどうだ?」


 有沢が笑いながら言うと、沢井はとぼけた顔を見せながら後ろを向いて、わざとらしく怯えた表情を見せた。


「革張り高級ソファーかと思ったら人間だったよ。道理で座りにくいと思った」


 場はどっと沸いた。


 威圧的な関東派の面々に囲まれて萎縮していた嬢たちも、沢井の登場でにわかに和んだ。

 沢井もそのがさつな雰囲気、風体に違うことなく相当いけるクチである。遠慮会釈もなく、高い酒をひっきりなしにがばがば呑んだ。そして冗談を飛ばし、嬢をからかい、岡莉菜を腐したりするので、場はどんどん賑やかになり、いつの間にか客待ちで身を持て余した他の嬢も交じっていた。ボトル二十本本が空くに、さほど時間はかかならなかった。


「それで進んでるかい?慰労会の準備は」


 有沢が聞くと、沢井は「まあボチボチ」と笑った。


「あ、慰労会で思い出したが、有沢さん。当日は野郎ばっかりなんすよ」


「は?女無しだと?」


「幸村さんがああいう人でしょう?今回も慰労会というより決起集会みたいな様相になって来てましてね。でも、あんたはそんな柄でも無いでしょう?俺もどう按配したらいいかわかんなくて、今夜はちょいとその相談も兼ねて来た訳だ」


「そういいながら君も女が欲しいのだろう?」


 有沢は少し小馬鹿にしたように言うと、沢井も参ったという感じで自分のおでこをパチンと叩いた。


「俺も堅苦しいのは嫌いですから。どっちかって言うとパアっとやりたいじゃないですか」


 有沢は悪くない、と言った表情をしながら「いいのが用意できるのかい?」と訊ねてくるので、沢井は待ってましたとばかりに提案した。


「で、ずっと考えてたんですがね。聖女無天の女はどうでしょう?」


 それを聞くと有沢は顎を手で支えながら前のめりに反応した。


「俺もこの間の祭の時はもう堪らなくって、ここ最近はもう、悶々とした日々を送っている次第なんですよ。是非一度、お酌してもらいたいと思ってた折にこの機会でしょう?絶対盛り上がりますよ。そこで有沢さんに相談に来たってわけです。あんたが乗ってくれるならこんなに心強いことはない」


「悪くない案だ」


「でしょ、でしょ?じゃあ決まりだ」


「しかし、君が用意できるのかい?」


「しますとも、しますとも」


「無理やりしょっ引いて来るんじゃないだろうな?」


「無論、無理やりしょっ引いて来ますよ」


「沢井君よ、知ってるか?この度、議会の命によって隊中法度という規則が出来ちまったんだ。その中に国家刑法の違反は処分するという文言がある」


「はい、知っていますとも」


「無理やりしょっ引いて来ると言うことは、拉致・誘拐罪に当たるんじゃねえか?」


「そこは心配ありませんよ。聖女無天村の人間には刑法の範囲は及びません」


「ああ、それもそうか」


「村は地図にも載っていない。村民の戸籍も無い。従って法度の範囲外ということで押し通せます。岡莉菜を貸してください。こいつを連れて行けば抵抗する輩もいないでしょう」


 有沢は快く承諾した。


「では当日の夕方にちゃんと娘を連れて来ますので。あ、あの娘ですね?祭の日の」


 有沢は下唇を噛みながら少し大きめの前歯を出して、ニッっと笑いながら言う。


「しかし、君らふたりだけに任せるのも悪い。鈴方と太川も連れて行ってくれ」


「ありがとうございます。助かりますぜ。おっ、実は俺、まだ夜勤中でしてね。そろそろドロンさせてもらいますよ」


 「おい、仕事中かよ!」と皆が喚き、また場が笑いに包まれた。


 店を出ると沢井は、面倒くさいことになった、と思った。鈴方、太川は見張り役だな、 と。


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