南瓜畑
フーザービルで事件があった頃、那智の春道は高天の宮の北西に広がっている南瓜畑で南瓜の種を植えていた。
夢南瓜は秋になり、実を付けると収穫される。
収穫された南瓜は高天の宮に運び込まれ、干し南瓜や漬物、炒り種、葉巻などに加工される。その加工作業は宮の内部作業であって、春道ら村の男には開示されない。それもまた、伝統的風習と言ったものだ。おそらく、あの結界を張られた大奥に持ち込まれて加工されるのである。
畑の南の区域には五棟のビニールハウスが設置されていて、この中では春に収穫できる春南瓜が栽培されている。南瓜は生でも保存期間が長い野菜なので、こうして年に二度も収穫できれば、ほぼ一年中、在庫を抱えることができるといった具合だ。
夕方になって作業を終え、畑を出ようとすると淡い紫色の浴衣を着た少女が、黒々としたオカッパ頭を光らせながら畦道に立っていた。桃龍からの誓約の誘いである。
「那智の春道。今宵、大宮様の神技を召されい」
たどたどしく口上を述べると、彼女は去って行った。その背中に向かって、春道は「ははあ」と頭を下げた。
「おお、いいなあ」
腰を曲げた彼の右尻を、天空雨の丞がパンと叩きながら言った。有沢に蹴られたところがまだ、完治していない。刃物で刺されたような痛みが尻を遅い、春道は飛び上がりそうになった。
「今日は朝からよく働いたからいい感じに身体がくたびれている。それくらいのほうが、余計な力が自然と抜けて感度が増す」
「じゃあお前、代わりに行ってくれ。この尻で誓約なんて考えただけでも地獄だ」
「おいおい、正気か?そりゃあ、大宮様の誓約だ。馳走になれるもんならなりたいぞ」
「本当に尻が痛いんだよ」
「それだけじゃねえだろう?」天空は春道を覗き込み、周りに聞こえないよう囁いた。「碧小夜のことだろう?」
春道は黙っている。
「好いた女をふたりの色男が奪い合う光景を、遠く木の上から指を喰わえて眺めている。何と悔しや、何と情けなや。想像しただけで丹下がきゅーんとなる。」
「お前、幸せだな」
「あらゆる肉体的、精神的苦痛を官能と捉え、快楽へと昇華する。これぞ、究極の恥辱的性行なり」
「碧小夜はどう見えた?」
「実に、楽しそうだった」
「やっぱりそう見えたか」
「うーん、しかしよくよく考えてみると、楽しそうと形容するのもまた違うかもしれん。あの情景には確かに、エロスが存在していた」
「馬鹿野郎!冗談じゃねえよ!」
「いや、冗談じゃねえ。始めは拒んでいた理性が、弄ばれた肉体がやがて相手を求め始めるのと比例して、次第に失われると、後は相手に身を委ね、ああ、もうどうにでもして頂戴!そんな感じだったろう?あれはもはやセックスと言って過言ではない。乱行だ、乱行」
「テメエ、よくそんなゲスいことが吐けるな!こうしてくれるわ!」
春道は軍手を外して、笑っている雨の丞の開かれた大口に、無理くり詰め込んだ。雨の丞はうごぉ、うごぉと目を剥いている。
「もしも碧小夜がここからいなくなったら、俺はどうすればいい?」
苦悶の表情で悶えている雨の丞に向かって春道は静かに訊ねた。
「ふごごっ、ふごっ!」
「彼女はもう、ここにはいたくないのかもしれないと思うことがある」
「ぶふっ、ふごご!ふごーっ!」
「たぶん、こんな利害関係で男女が結ばれるような生活を彼女は求めていないのだ。だから新しい氏子もつくらないでいる」
「ばふっ!」と、ようやく雨の丞が春道の手を振りほどいて、軍手を地面に吐き出した。
「殺す気か!」
「すまん、取り乱した」
「では教えてやろう、碧小夜がここに留まる意味を。それは彼女が一途にお前を求めているからだ!」
目を丸くしてあんぐりと口を開ける春道を見て、雨の丞は爆笑した。
「そんなわけないだろう、馬鹿め!何を期待した?ん?冗談だよ!おっと軍手を拾うな。拾うなよ、拾うんじゃねえぞ。よーしよし、どおどお」
春道は屈んだ状態で軍手を掴みかけた手を引っ込め、状態を起こした。
雨の丞が言う。「しかし、観光協会の犬若と踊っている時、マジで何かちょっと普通じゃない雰囲気があったよな」
天空雨ノ丞が入村した時、犬若はすでに、この村にはいなかった。故に彼は直接、犬若を知らない。故に春道はそれ以上、何も言わなかった。
そのうち、天空も思うところがあったのだろう。「あっ」という顔をして黙った。彼も犬若が昔、ここにいたことは聞いている。
葦原京今昔祭の後、春道は誓約を一度も受けていない。しかし、春道にとっ
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