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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
会館の決闘
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魔都の決意

 曽我部議長の発言の意図は明白であった。それは有沢獅子を排除せよという命令だ。


 しかし、どうやって処分する。曽我部は言った。規則を定めて処分しろと。つまり規則違反による追放処分を有沢に課すのだ。

 幸村朱鷺はそこに正義があるのか考えた。良くも悪くもまっすぐな男であり、彼の行動の全ては正しいかどうかによる。

 そんな彼にも、いずれはそのような命が下るのではなかろうかというのは、常日頃から時折漠然と思うところもあった。が、いざ現実となってみれば、頭上に鉄球が落ちたような、脳を激しく揺さぶられる感覚に陥った。どうしても正当性が確立できないのだ。


 いつ会議室を出て付庁のエレベータを下りたのかも、覚えていない。


 気が付けば、高山と肩を並べて汚いコンクリートの上を浮足立って歩いていた。ふたりの前を平部員が行く。


 大蒜の匂いが鼻をついた。脇の店の大きな蒸籠から出る湯気が、彼の顔を包む。

 湯気を抜けると上から突き出ている物干し竿から垂れさがるシーツに視界を遮られた。それを手で振り上げると、頭に籠を乗せた老女とすれ違い、その奥の「按摩」と書かれた赤い看板の出た店先には、老人たちが路上で麻雀卓を囲み、洗牌していた。店の脇の通路の奥には、川が流れていて、小舟が流れてゆくのが見える。


(まったく、これが行政区域の風景か)


 幸村はどくどくと脈打つような額に手を当てながら、呆れてみた。少しでも思考を他の何かに向けたかった。


 この生活感の凝縮された空間も、実のところ、立派な府庁の一階フロアなのだ。


 というより、今は西京府とよばれる葦原京を含めて管轄する自治体は、元々は萎びた村でしかなった土地に、葦原京が革命前の伝統文化を醸し出す雰囲気の街並を彷彿とさせるために邪魔となる、公共、非公共問わず不必要な近代的機関を持ってきた結果、形成された都市である。


 当初、革命直後の混乱時ということもあって、計画的に開発できたはずもなく、土着していた村民を強制退去させることもせず、とりあえず上へ上へと建造していった結果、戦時中の要塞からスラム街、戦後復興時の住宅に商店街が入り混じった魔城のような風体となり、更に人口が増えるにつれて、横へ横へと広がりを見せ、文明開化と観光的発展によって、学校、病院、企業ビル、鉄道、バブル時のネオン街、キャバレーに近代美術館などの奇抜な建物、移民街や遊園地、ショッピングモールなどがまた、天に向かって建造された。

 このような超絶カオスシティーが出現した最大の背景は、葦原京の建築規制を強化するあまり、西京府の建築規制が手つかずに放置されていたことにある。公民一体となって葦原京にかかるストレスを西京府にぶつけた形だ。


 府庁の一角にある府営団地ベランダから道路側に突き出た物干竿から暖簾のように垂れ下がったシーツが視界を遮った。

 シーツを振り払うと、雑居ビル群が目に飛び込んでくる。

 ゲームセンターの看板が突き出ていて、アーケードゲームの音やらコインゲームのジャラジャラとした音が漏れている。

 その先の広場では噴水が天高く噴き上がっている。

 丸い噴水池を中心に、広場は円景になっていて、それを囲むように、黒ずんだコンクリートビルが立ち並んでいる。そのビルからはネオンが施された「西京酒店」、「Venice aesthetic」、「鶏」、「都碑酒」、「東宝超市」、「ずぼらや」、「大塚診所」などという無数の賑やかな看板が突き出していて、その上を無数の電線が束になって走っている。


「茶でもしばくか?」


 高山がそう言って、脇の「葯茶」という看板を出している店の汚い縁台に腰かけた。幸村もその隣に北の方角を向いて腰かけた。


 店主が湯気の立つ紙コップをふたりに差し出す。ほぼ、真っ黒な不気味な液体が並々と注がれている。

 高山がずずっとそれを啜る。それにつられて幸村も口をつけた瞬間、思わず吐き出しそうになった。


「苦い!」


 幸村は鬼瓦のような顔でえづいた。


「何だ、この糞マズい茶は」


「薬茶だよ。頭とか胃が痛いだろ?身体にいいぜ」


 幸村はむっと紙コップを睨みつけたまま黙っていたが、やがて覚悟を決めたように、目を閉じると、一気にそれを飲み干した。


「おいおい、喉を火傷しちまうぞ」


 高山の心配をよそに、幸村は紙コップを握りつぶした。


 ちょうどビルとビルの間から、この構図になるよう意図して建てられたかのように、巨大な像の左半身が見える。葦原ワースポの象徴たる友愛の像だ。ライオンのような逆立った髪の毛に、目と歯を剥き出し、不気味な笑みを浮かべながら目下を見下ろしている。


「フーザーに限って言うと、俺の正義は有沢と共にある。あんなふざけた像、今すぐ爆破してやりたいわ」


「本社ビルの打ち壊しも致し方無しと?」


「千年の伝統を守ってきた葦原京の景観を目まぐるしく阻害するものばかり建てやがって、立場を捨てて言えば当然の報いだ。だが、もっと気に入らねえのは、俺自身だ。思うところは同じなのに、有沢に泥を被らせ、蜥蜴の尻尾を切るようなことをしようとしている」


「では、有沢と手を取り合い、議会に喧嘩を売るか?」


「敵うわけがない」


「いや、わからないぜ?葦原京を修羅の国にする覚悟があるなら、西京府から完全独立する形で武装占拠を」


「馬鹿なことを言うな」


「だろ?もしこの冗談が現実なれば、有沢京が出来上がる。もうどうしようもないんだよ」


 高山は紙コップを地面に置き、羽織を脱いで腰に巻き付けた。そうして事態を呑み込めていない平部員を離れた場所に追い払った。


「こうなったらやるしかねえだろ」


「やはり有沢を排除するか…」


「いずれこんな命令が下ることくらい、鈍感なあんたでも考えていたことだろう。俺に言わせれば、やっと来たかっていう程度のことだ。それを今更てんぱって、ひとりでうじうじ抱え込むことはない」


「お前、手があるか」


詰め寄る幸村を、うっとうしそうに片手で突き放しながら高山紫紺は静かに呟いた。


「想定内だ。それに、あのふざけだ像も近いうちに解体してやる」


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