議会の有沢排除命令
都庁のエレベータを下りると、幸村と高山は部員らを廊下に待たせて、大会議室に入っ た。革靴で物凄く弾力のある絨毯を踏むと、おかしな感触がする。
五十人ほどが収容できるだだっ広い部屋の中は、コの字型にテーブルが設置されている。
その角の席に、ふたりの人間が座って待っていた。後ろの窓から差し込む日差しが逆光になって表情は見えないが、その痩せた背格好から、ひとりは副議長の猿返成親というのはすぐに認識できた。もうひとりは背が高い。
幸村は机の角を隔てた席に着き、隣に高山が座った。
そこでようやくもう一人の顔を確認できた。色白で若い、下膨れだが綺麗な顔をした男である。額に印象的な大仏黒子がある。
「基本的に呼ばれた事情は察して余りあると思うが」紙コップに入ったコーヒーを啜りながら猿返が言う。「基本的に、えらいことをしてくれたな」
ふたりは押し黙った。
「今回の件で、基本的に葦原京は膨大な損害を被ることになるのはわかっているのだろう な?基本的に」
「はい」と幸村は俯き加減で返事するのがやっとである。
「基本的に遅れていたワールドスポーツフェスティバルの会場設営に、フーザーがどれだけ貢献してくれたか、基本的に。基本的にフーザーの協力が無ければ世界中に大恥を晒すところだったのだぞ、基本的に。その恩を仇で返すような真似をしやがって」
「しかし会場の着工が遅れたのは、あなた方が利権を優先して出鼻の請負業者選定でもたついたからでしょう!」
「高山!」
幸村が割って入ると、高山はふんと鼻息を漏らしながら浮きあげた腰を下ろした。
「まあ、確かにドタバタもした、基本的に。しかし、基本的に利権がどうのというのは心外だ。世間は簡単に言うが、基本的に、我々もこんな大きなイベントを催すのは始めてなの だ。八年前、基本的にこのイベントの開催地に決定した時、葦原京どころか国中が大いに沸いた。しかし、基本的に我々はその盛り上がりとは裏腹に多大なる不安に駆られたものだ。そこから多少でも、基本的にノウハウのある人材を集め、基本的に資金のことに頭を悩ま せ、基本的に問題が生じる度にマスコミからも批判を浴び、いざメイン会場を着工する段階になってまた基本的な設計構造的に資金繰りが行かなくなり、基本的に企業選定をやり直すことを余儀なくされたが、その時すでに開催に間に合うか間に合わないかという瀬戸際の段階にきていた…、基本的に。こんな状態で引き受ける業者があるのだろうかと、基本的に私は夜も眠れなかった。もし間に合わなければ世界中に恥を晒し、基本的に、国中からバッシングを浴び、会社は基本的に倒産、自らも基本的に首を括ることになるだろう。そんなリスクを背負ってまで誰が引き受ける?基本的に。しかしフーザーは引き受けてくれた、基本的に。そして見事に完成にこぎ着けた、基本的に。」
「しかしあの大像は」と言いかけた高山を猿返は「そう!」と遮った。
「そうだ!フーザーの基本的最大の功績は友愛の大像だ、基本的に高山よ!あのモニュメント事件が起こった時、私は基本的に首を吊るしかないと思った。あの、ポンコツデザイナーめ!よりにもよってワースポのシンボルとも言えるモニュメントのデザインをまさか盗用するとは!」
「何のことだ?」と幸村が高山に小声で尋ねたのを、猿返は見逃さず、『知らんのか!基本的に、これだから荒くれ者の頭領はダメだ、基本的に!」と唾を飛ばした。
「当初、友愛の大像をデザインするはずだったのが某有名建築家の息子で、業界では新進気鋭の若手デザイナーと目されていた白川ナントカって奴だったんだが、施工直前で像のデザインが盗用したものであると判明し世論が炎上、辞任を余儀なくされた。そこで会場設営にも携わっていたフーザーの社長で有名な建築家でもある喜田照生が、パクリ像で使用するはずだった資材をそのまま流用できる大像をデザインし、今の大像が出来上がったのだ」
「それであのどえらい物を造りやがったのか」
「そうだ、あの葦原京を侮辱するような像をだ。有沢がフーザーに押し入った理由はおそらく、そこだ」
「黙って聞いていれば言いたい放題言いやがって!基本的に!フーザーは私の命の恩人なのだ」
結果、猿返の首は繋がり、おまけにフーザーからの見返りも増えた。という事は幸村も高山も指摘しなかった。
「それを仇で返すような真似をしやがって、基本的に。フーザーの再建は否が応にも基本的には葦原京が引き受けることになる。それに、印象だ、基本的な。議会が選んだ葦原ワースポのメイン会場を請け負うた企業を、基本的に議会の管理下にある観光協会が打ち壊したなどいうことが世界に広がってみろ、大会本部への印象も悪くなる、基本的に。葦原京は市政の管理も満足にできないとなれば、基本的に治安に関しても不安を与える。基本的に観光収入も減少する」
「しかし、フーザービルは明らかに葦原京における建築規制法に違反していた。あの建物の色は景観を害する規定に違反している故に今回は観光協会青年部に与えられた権限に基づいて取り締まったまでです。…、基本的に」
「幸村よ、基本的に君たちの取締方法というのがこれほどまでに物騒なものであるならば、我々は容認できんよ、基本的に。同志として基本的に有沢獅子を庇う気持ちもわからんでもないが、基本的にこのような行動を今後も容認はできん。もし、基本的にそれでも今回の事件に関して君たちが基本的に自らの行動を肯定するならば、基本的に観光協会青年部の市中取締の権限について、基本的にその行動に、基本的に限度を基本的に設けなくてはならないよ!き・ほ・ん・て・き・に!」
とその時、会議室のドアが開いて、三つ揃えにスーツに身を包み、鼻の下にこんもりとした髭を蓄えた男が入って来た。
静まり返った部屋の中をゆっくりとした男の足音だけが響いた。
「ご無沙汰しております、曾我部さん」
幸村は立ち上がって挨拶するが、曽我部議長は足を止める事無く、彼らの背後に周りながらくぐもった声で告げた。
「葦原京の治安を脅かす行動を取り締まる規則を定めよ。違反する者は厳しく処分しろ」
曽我部議長は命じると、そのまま部屋を一周し、退室して行った。
あとはドアの閉まる重厚な音だけが響いた。
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