会館へGO!
祭りが終わると、葦原京の街路樹も深緑に色づき始めた。
この日、大山大和は日雇いの学生アルバイトを連れて、上条通りを西に向かって歩いていた。
梅雨に差し掛かり、ここ何日か雨が続いていたが、この日は久しぶりに晴れ渡った。週末ということもあって、街は観光客でごった返している。
色んな言語が飛び交い、大変インターナショナルな雰囲気に包まれた街は、ドラッグストアにコーヒーショップ、酒屋、魚屋、金物屋、果ては氷屋に至るまで、路面店からも人が溢れ、スタッフ店員もてんやわんや。嬉しい悲鳴を通り越し、お前ら全員どっかへ散れぇ!という疲労困憊の表情である。
「清水川を越えたら西へ行くトロリーに乗れるさかい、そこまで我慢してくれや」
ひ弱そうな学生はいぶかし気な表情で「はあ」と返事をした。さしあたり、仕事の内容もろくに説明されていないのであろう。日雇い学生にとって、先ほど、待ち合わせ場所で初めてご尊顔を拝した雇い主が、このような髭面の汚い大男であることに多大なる不安を感じていることは明らかである。まさか惨殺遺体を埋めに行くのではあるまいか。そんな不安が脳裏をよぎり、表情には職安で適当に拾って来たこの仕事に後悔の色が漂っている。
しかし大山は、不安と絶望の海の中を沈みゆく彼の気持ちなど意にも介さず、ずんずん進む。
やがて、土産物が並ぶ一帯に差し掛かった。どの店も観光協会の部員が営む店舗である。部員とはいっても所謂、青年部とは違い、彼らは本部に属する老人である。
店頭には葦原京の寺社仏閣をプリントしたペナントや、カラフルな包装の和菓子、誰にくぐらせる為のものかもわからぬ悪趣味な暖簾に混ざって、観光協会青年部のグッズが並んでいる。幹部の名前が入った手ぬぐいや、幹部の仰々しい横顔の入ったTシャツ、アニメーション風の幹部が描かれた文房具、更には青年部のレプリカ羽織等、種類は多岐に渡っている。
「こんな気持ち悪いもん、買う奴の気が知れん。なあ、アルバイトくん。えっと名前はなんやったかいな。そう中田くん」
大山は立ち止まって、親骨に「幸村朱鷺」と行書体で名前が書かれた扇子を手にとって、広げてみた。幸村が真正面を睨み付けるイラストを見て、大山「うわぁ」と薄気味悪い声を出し、眉を潜めて舌を出した。
「気色悪いにもほどがある。えっと、山田くん。君はこの春から上京してきたばかりじゃったな。観光協会の事は知っているか?こいつが隊長の幸村朱鷺じゃ。悪い奴ではないが、ちょっとオツムが固くて汗臭い。その横の高山というのが副部長じゃ。こいつは幸村と違うて頭が切れる。しかし、非常に陰気臭い。ほいでいちばんのモテ男がこの犬若じゃ。男前や ろ?普段は性格もええ奴なんじゃが、たまに調子が悪い時があってな、魂がぽーんと飛んで行ったみたいなっとる。そんな時は近づかんほうがええぞ、沢田くん。人を殺すことも厭わん目をしとる。あと、こいつのチンチンは使いもんにならん」
店内に修学旅行生とおぼしき小学生三人が入ってきて、わいわいと大きな声で騒いでい る。少年らは「おお、これカッコいいぞ」などと大騒ぎしながら有沢のグッズを手に取っている。
「この有沢という関東派の首領がいちばん危ない」大山は小声で言った。「君のようなモヤシは絶対に関わるな。生まれて来たことさえ無かったことにされてしまうぞ」
萎縮する日雇い学生を後目に、少年たちは指をゆるりと挑発的に曲げて不適に笑う有沢獅子プリントTシャツや有沢湯呑、レプリカ羽織などを抱えた。
「しかし、こんなものがよく売れますね」中田くんが小声で言う。
「アホ、こんなもん、売れるかいな。犬若有沢以外はさっぱりよ。しかし、土産もん屋も観光協会の会員やから、自分らで作った物は店頭に並べて売らなあかん。これでも昔、観光協会青年部の創部当時は部員も二枚目だらけで凄い人気やったんやぞ」
「へえ」
「その名残で今もこうやって在庫処分しとる。まあ、本部も含めた観光協会のPBみたいなもんで、青年部の貴重な収入源やからしゃあない。とはいえ、大赤字もええとこやろ」
店の親父が恨めしそうに見ているのも気にせず、大山は大声でこき下ろす。
「特に鈴方や楊は全く売れん。太川と合わせて三人一盛が関の山じゃ。気の毒じゃが、あんなキングコングみたいな風体では、身内でも買わん。この沢井宗八、藤田翔も在庫山積みやんけ。まあええ。なんでこんな話をするかと言うと、これからワシらはこいつらのアジト、観光協会青年部館に向かうからじゃ。ええか、関東派、特に有沢獅子にはくれぐれも近づくなよ」
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