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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
葦原京今昔祭
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拝謁の前

 西京府葦原京さいきょうふあしはらきょうのはずれに聖女無天セントミントという村がある。しかし、隣接はしているが行政管轄的に西京府には属していない。地理的には越境して隣県の西の果てにへばり付いた形で存在していた。


 人は存在しない。厳密にいえば、人はいるが、国籍も市民権も持っていない。素性も定かでない男どもが力を合わせつつも互いの足を引っ張り合いながら、思いのまま、ぼろぼろの小屋を無造作に建てて、これを根城に生活していた。


 村の北の果てには、高天たかまみやという御殿がおわす。朝夕、礼拝の時間になると、男衆は宮の方角を向き、二礼二拍手一礼して宮女へ崇拝の意を示し、己が欲望を満たされることを願うのである。

 その目はうつろか、はたまた酩酊しており、おおよそ礼節というには烏滸がましい態度であるが、彼らはそれでも真剣であった。


 東京極通りを超えて東の山に入ると、獣道をひたすら登って行く。険しい山道を我慢して登り続け、やがて現れる木造の鳥居のようなゲートをくぐると、そこが聖女無天村である。


 南北を通る幅五メートルほどの大通りがあって、両脇にぼろ小屋を見ながら暫く歩けば、立派な欄干らんかんに囲まれた木橋が現れ、その向うに見える黒々とした厳かな平屋建ての和風建築物が現れる。高天の宮である。


 那智なち春道はるみちは、高天の宮の重厚な大門を潜って脇にある小さな建物に入った。清体所と呼ばれるその建物の玄関で靴を脱ぎ、被っていた防塵生地の頭巾を脱いで髪を手櫛で三度ほど撫でた。

 作務衣を脱いで全裸にると、湯殿に入り、体の汚れを落とす。体を拭いて四畳半の畳の部屋に入り、中央にある床にうつ伏せになる。耳鳴りするほど静かである。体中にドクドクと、鼓動の振動が伝わってくる。


 種が一瓶で一万円也。乾燥葉かんそうば五グラムで四万円也葉巻十本二万円也。果肉が一個と半分で六万円也。


 春道は今日の売り上げを勘定しながら心を静めた。なかなかの成果である。今夜は存分に可愛がってもらえるだろう、と思った。


 やがて清体師せいたいしと呼ばれる白衣を着た壮年の女が入って来た。まず、御榊おさかきを桶の水で濡らして白熱灯に照らされた背中を叩くと、道具箱から剃刀を取り出し、全身の産毛を丁寧に剃り始める。ひととおり剃りあげると、脛や脇、下に至るまでの体毛を攝子を使って処理する。


 それが終わると再び湯殿に入り、白木の湯ぶねに張られた熱い湯に暫く浸かって汗を流す。


 湯殿から上がった後は手桶を持って、脱衣所から更に奥の部屋に続く小さな扉を開いて入った。大壷が一つある。彼は大壺に腰かけると、右手で壁から垂れている先端丸まった細いホースを掴み、尻から入れると体内を洗う。蛇口を捻るといつもより、水圧が強く、少し驚いたが、改めて入念に洗浄した。


 清体所を出ると、高天の宮の広々とした石造りの玄関から本殿に入った。雑然とした村から入ってくると、その殺風景ともいえる清潔な和風内装と澄んだ空気が余計に際立つものである。


 上がりかまちに赤い浴衣を着たおかっぱ頭の少女が立っていて、冷たい瞳でこちらを見据えている。春道が一礼すると、反対に向き直り、屋敷の奥へ向かって歩き出した。彼もその後をついて行く。


 大きな池のある庭を横目に回廊を歩く。

 

 廊下に面した部屋のいくつかから、男の呻き声が漏れ聞こえて来た。

 何度も回廊の角を曲がり、大宮房と呼ばれる部屋まで、辿り着いた。廊下はまだ更に奥へと続いている。しかし、春道はこれより奥に足を踏む入れたことはなかった。男が入ることを禁じられているからだ。先のほうにしめ縄で結界が張られているのが見え、その先は真っ暗闇だ。

 

 オカッパの少女は、ここで待つよう春道に告げ、去っていた。

 

 春道は濡れ縁に腰を下ろし、大きな池のある庭の向こうに見える葦原京を眺めた。

 

 西の果てに、友愛の像が見える。逆光によって黒い人型の影に見えるそれは、葦原あしはらワースポのメイン競技場側に建立された高さ百八十メートルの巨大な像で、人差し指を立てて天を指し、東に向かって薄気味悪い笑みを浮かべ、葦原京を見下している。その南方には西京府の建物群が魔城のように天に向かって聳えて建っている。


 彼は昔のことを思い出していた。まだあの巨像の影も形もない、彼が子供の頃のことを。ここで犬若と兄弟のように暮らしていた頃のことを。


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