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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
葦原京今昔祭
19/125

大宮様と岡莉菜

 高天の宮女たちは結局、幸村朱鷺らに連れられて、雑木林の中の細道を歩き、小さな祠の前を通って神社を出た。 


 すでに日は沈み、薄暗い街灯が辺りを照らしている。神社のほうから官軍マーチの笛の音が聞こえてきた。先の革命の場面まで演目が進んでいる。


 神社の外ではすでに聖女無天村の男が並んで、待機していた。無論、観光協会幸村派と対峙することになる。


 春道の目に瞬時に飛び込んできたのは幸村と高山に挟まれるような恰好で立っている碧小夜の姿だった。心ここにあらずといった表情で、斜め下の地面を見つめている。


(それはそうなるか)


 春道は思った。彼女が犬若と会ったのは何年ぶりだろうか。


 犬若の姿は、今は無い。いや、どこかにいたのかもしれないが、春道は探すことはできなかったし、探そうともしなかった。正直なところ、彼の姿を視界に捉えるのが怖かったの

だ。


 確かに春道は木の上から舞台に立つ協会の青年部員を見た。ひとりは有沢獅子であった

が、もうひとりは紛れもなく犬若であり、ふたりが取り囲んでいたのは碧小夜であった。碧小夜に手を出した有沢に対して、村を捨てたはずの犬若は、明らかに敵意を持って交戦していたのが遠くからでも認められた。それがどのような感情から表れた行動なのか、春道は考えるにも、客観的に正常な思考を巡らせることができず、混乱した。


「荷物を検査しろ!」


 幸村が命じると平会員たちが村民にかけより、夢南瓜の有無を確かめた。もちろん、今日という超危険日に、夢南瓜を所持しているはずはない。


「不審物は見つかりませんでした」


 ひとりの会員がそう叫ぶと、幸村はゆっくりと頷いた。沢井宗八などは残念そうな表情さえ醸し出している。


「では宮女をお返しする」


 幸村が仰々しく言うと、宮女たちがまるで人質交換のような様相で解放された。その人質を決死の覚悟で確保するがごとく、大山ら車夫たちが人力車を曳いて駆け寄り、素早く乗車させる。

 

 桃龍も人力車に乗ったが、未だ様々な念が胸中に渦巻き、激しい動悸に苛まれていた。

しかし、ここで彼女の鼓動を一層高鳴らせるものが、顔を上げた時に目に飛び込んできた。


 怪物。


 桃龍は居並ぶ会員の後ろにいながらも、その体躯だけでなく存在そのもので自らに押し迫って来ようとする者に、半ば圧倒され、半ば魅かれていた。


「では出発しますぜ」


 大山の声が響き渡り、人力車が帰路に向かって半回転したが、彼女の視線はその男が視界から消えるまで追っていた。


 岡莉菜もまた、その視線に気づき、桃龍が乗った人力車が見えなくなるまでその場を動かなかった。


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