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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
葦原京今昔祭
17/125

美麗乱舞、そしてタコ踊る!

 有沢獅子が桃龍から離れ、再び碧小夜の元へすり足で寄ろうとした時、舞台の袖から新たな若旦那が現れ、わき目も触れずに碧小夜に近づいたかと思うと、彼女の手を取り、畳んだ扇子を振り上げて踊り始めた。

 有沢には劣るが、それを力強さでカバーするような舞である。


(ワンちゃん)


 碧小夜の体温が上がった。日中の日照りでも汗ひとつかかなかったのに、今はうなじが濡れている。打掛の中も燃えるように暑い。


 今、自分が上手く踊れているのか、はたまた出鱈目に動いているのかも分からなくなっ

た。

 ただ、ひとつ言えることは、犬若の心は有沢のようなマントに覆われていない。暫く会えない時間があったけれど、相変わらず、犬若は自然体のまま速やかに自分の中に入ってくる準備が整っている。その事が、逆に彼女自身を変に意識させるが為に、踊りにも不要な力、或は邪念が入る。


 彼女がようやく落ち着いたのは、皮肉にも、そこに有沢が乱入して来たためである。


 犬若は有沢から碧小夜を何とか引き離そうともがいた。が、有沢はさすがである。その犬若すらもコントロールして、ひとりの花魁を取り合うふたりの男という情景を作り上げた。


 これには神社が揺れるほど湧いた。犬若はそれでも逆らおうと努力する。


「おい、観光協会が祭をぶち壊す気か?」


 有沢が犬若にすり寄り、囁いた。


 しかし犬若は、祭をぶち壊してでも碧小夜をこの男から奪おうと覚悟があった。もはや祭の演目であるということは彼の脳裏には無い。


 碧小夜の身体は犬若から有沢へ、有沢から犬若へと交互に奪われるようにして、舞台中を駆け巡った。一体どのような結末を迎えるのか、観客どころか舞台上の本人らも行方が分らぬ情景が繰り広げられる。


 そんな中である。

 

 ここにもうひとり、心穏やかでない男がいた。

 幕開けた恋路を驀進する大山大和である。


 「おい、立つなというのがわからんか!」と袖を引っ張る隣席の若旦那を蹴り倒すと、ぐねぐねと体をくねらせながら碧小夜争奪戦に参戦。これには碧小夜も犬若も、そして流石の有沢までもが吃驚した。単なる伏兵の参戦に驚いたのではない。では何が三人の世界観をぶち壊したのか。


 大山に纏わる最大級の問題として、踊りが惨すぎるのである。そのけったいで奇怪な動作をタコ踊りと言えばタコに対して失礼に当たる。


(これを捌けるか!)


 有沢もそう思って焦った。

 

 まともに踊り来るなら空気のようにあしらえるが、良く言えばこうも自己主張の強い個性的な踊り、悪く言えばこの世の物とは思えぬ無様なダンスで注目を掻っ攫われては立つ瀬がない。


 会場が笑い声とブーイングに包まれる中、大山は恥じらいの欠片も存在せぬ鋼のハートで舞台を制圧した。


 尚も彼はぐねぐねと碧小夜に接近する。本人は意識してやっているわけではないが、何故か無意識のうちに瞳が真ん中に寄り、口が尖って行く。真剣になればなるほど、どんどん唇が突き出てくるのだが、その表情が碧小夜にはたまらなく面白かったらしく、こらえきれずにその場にしゃがみ込んでしまった。


 そこですかさず桃龍が舞台の中心に立ち、締めの葦原京雪月花を舞い始めた。

「どうやらもう終わりだ」と、有沢も舞台を後にした。


 犬若も無言で舞台を降り、続いてタコ面の大山が、「はなせー、はなせー、碧小夜さーんいずこへー!」と喚きながら観光協会に引きずられ、退場せしめられてきた。


(犬若の奴、あの娘とはどうも何かあるな)


 無論、高山はそう察した。鈍感な幸村は相変わらず、桃龍の踊りに見とれている。


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