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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
ワールドスポーツフェスティバル葦原京
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居るべき所

 獏爺に連れられてふたりは池を東周りに沿うようにして歩いて行った。


「悲しいことになってしまった。特に、春道は」


 獏爺は歩きながらそう言った。馬方や西院らに様子からしても、聖女無天村に訪れた悲劇はすでにここまで伝わっているようだった。桃龍がこの村を守る為に、即座に情報伝達の人間を差し向けたか、何等かの手を打っていたのだろう。聖女無天村に近づくなと。 


 犬若は絡まった糸のような、心境だった。


 足元がおぼつかない。進むにつれて、でこぼこと、不快になるほど歩き難くなってきた。


 ここは、自分がいて良い場所ではない。村を出て、あろうことか、天敵たる組織の主力として世に名を馳せた上、村に尽くした幼馴染を死なせてしまったという現実と、事件の支柱たる夢南瓜は平凡な作物でしかなく、そんなものを巡って、言わば実態の無いものを掴もうと、様々な障害物を潜り抜けて追いかけて、今となっては何もかもが無駄な時間、無駄な犠牲としか思えない現実を受け入れるには、この疲れた身体にとってあまりに荷が重すぎた。


 やっぱりここには春道が来るべきだった。死に役を間違えたとの結論に 彼の考えが及んだ時、「違うぞ、それは」という獏爺の言葉に脳を射抜かれた。


 我に返ったその時、すでに目の前には広々とした畑が現れていて、築けば三人でその畝が並ぶ中に立っていた。


 獏爺が優しく言った。


「ここが、お前のいるべき場所だよ」


「ハル君が、導いてくれたのよ」碧小夜が呟いた。


 畑には立派な夢南瓜が実を付け、あまりにも誇らしく、地面に転がっていた。


「夢南瓜は、ちゃんとここにある」


 犬若はその場にしゃがみ込むと、ひとつの夢南瓜を両手に持って、ゆっくりと持ち上げた。


 黒々とした夢南瓜、ずっしりと重たかった。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。

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