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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
ワールドスポーツフェスティバル葦原京
121/125

南瓜がない

 どういうことだ!どういうことだ!どういうことだ!


 大きな満月に照らされた畑には立派な南瓜がたくさん転がっている。佐藤果花は桑を片手に、片っ端から南瓜を割って回りながら、その破片を手に取ってオレンジ色の果実を齧った。しかし、こっちの南瓜もあっちの南瓜も、何の変哲もない普通の南瓜だった。


「夢南瓜はどこだ!夢南瓜が無いぞ!」


 警官たちも手分けして南瓜を割っては口に運ぶも、肉厚で立派な南瓜ではあるが、脳の覚醒も、性欲の上昇も、酩酊感をも感じることは無かった。


「本当に夢南瓜が無い」


「だから言ったでしょう。ここには夢南瓜は無いと」


 両脇を警官に押えられた桃龍が言った。その顔は、してやったりと言った表情ではなく、怨嗟の念に凍てついた、冷たい表情で、開きかけた瞳孔で今にも佐藤を呪い殺しそうな勢いである。満月の下でなびく髪の中でちらつく真っ赤な唇はまるで夜叉のようだった。


「佐藤さん、こっちへ来てください」


 高天の宮を捜索していた警官に呼ばれ、佐藤は南瓜を蹴り上げながら畑を出て行った。


 高天の宮に入ると、佐藤果花は土足のまま、玄関を上がった。大広間には、観光協会幸村派や聖女無天むらの面々が押し込められていた。


 那智の春道が死亡した直後、桃龍が降参を申し出た。いきり立つ聖女無天村の連中には、もう一度、議会の思う壺には嵌らないので安心するように諭し、これ以上の犠牲を払いたくないと説得した。幸村も呼応し、皆で岡莉菜を抑えつけ、その場を沈めた。国家権力を相手に大立ち回りを展開した以上、タダでは済まないだろう。己の身はどうでもよい。ただ、他の部員たちに申し訳がなかった。

 

 しかし、やはり多勢に無勢。引くところは引き、スタジアムで櫓をもって世論に訴えた行動で、部員らの情状酌量の余地を期待した。

 幸村、高山は手錠を掛けられたままむっとした表情で佐藤の姿を睨みつけながら追った。


 佐藤が回廊を奥へ進み、ずたずたになって血塗られた桃龍の部屋を通り過ぎた。その廊下の先には下へ降りる階段があった。入り口には切られたしめ縄が垂れ下がっている。中には何かがあり、結界を張っていたようだ。


 佐藤が暗い階段を懐中電灯で照らしながら下りて行くと、やがて広い空間に出た。


「佐藤さん」と佐藤派の部員に即されて、辺りを照らしてみた。室内は高天の宮の和風建築物とは不釣り合いな、実験室のような様相であった。六台の研究台が置かれ、ガスコンロやフライパン、鍋などの調理器具が無造作に置いてある。壁面にはアルミの収納棚が並べられ、薬品の入った瓶が並べられている。


「これを」


 部員が粉末を差し出した。


「何だ、これは」


「覚せい剤です」


「覚せい剤?こっちはアヘン、コカイン、LSDに強化アルコール、それにアッパー作用の強い大麻」


 佐藤果花は急に胸が締め付けられるように苦しくなり、その場にへたり込んだ。


「夢南瓜の覚醒作用は天然成分ではなく、科学的に作られたものだったのです」

「それでは困る!」


「しかし、現にこのような夢南瓜製造施設があり、現に加工中の南瓜がここに」


 指さしたところには木箱に南瓜の切り実や弦や、採取した種が詰め込まれて置いてあった。


「あの畑で取れた南瓜をここで加工して、あたかも覚醒成分を持った天然作物であるかのように売買していたのです」


「ならば、ならば!我々の計画が破たんする。いいか、貴様らは黙っておけ!この現場さえ知られなければ、夢南瓜の売買は継続できる」


「そんなの無理です!こんな禁止薬物を多用しているのがばれたら、議会が崩壊します」


「俺は夢南瓜の為に、どれだけの労を尽くして来たと思うのだ!」


「あなたの本分は金儲けですか?都の繁栄ではないのですか?夢南瓜が無くなったからとて、都の繁栄が本分なら・・・」


「馬鹿が!まずは金だろうが!金が都を潤すんだよ。その為の最高の商材が夢南瓜だというのに!」


 泣き崩れる佐藤を見て部員らはあきれ果てた。そうして、先刻、捕らえて警官に突き出した元のボスである、幸村朱鷺を裏切ったことをこの上なく恥じた。



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