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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
ワールドスポーツフェスティバル葦原京
119/125

史上最悪の開会式

 無数のフラッシュがキラキラ輝く、群衆に包まれたスタジアムのトラックを、櫓は進む。目指す先には聖火台がある。


「世界中に恥を晒してやる!西京府議会のな!ちんちんを生中継してやるぜ!」


 そう言って作務衣を脱ぎ始めた者が天空雨の丞から「阿呆!」とげんこつを喰らう。


「そんなことをしたら映像を止められちまうだろうが!議会の恥を晒す手段はこれだ!さあ、幕を下ろせ!」


 天空雨の丞が命じると、櫓のてっぺんに刺さった松明に火がつけられ、白い横断幕が、四角柱の形をしたその四方に垂れ下げられた。何か文字が書いてある。走る櫓の風になびき、読みづらいが、確かに、三基の四方、十二枚の垂れ幕に何か書いてある。


一基目には、

国家権力による地方集落の武力制圧

 只今西京府議会により聖女無天村迫害中

 夢南瓜を専横、不法売買の独占

 観光協会青年部は壊滅寸前


 二基目には、

 高天の宮女への婦女暴行、強制連行

 神をも恐れぬ不届き千万

 葦原ワースポは賄賂献金の雨あられ

 諸悪の権化、曽我部幸之助

 

 3基目には

 莫大な血税がマッハ会長の懐に

 西京府は破綻寸前。

Please search YOU TUBE☆Dream pumpkin channel

碧小夜、愛してる。Y・O


 横断幕をなびかせ、松明の火をメラメラと燃やしながら、櫓はひた走る。このお祭りに乗じて何か権力者による、放ってはおけない事件が起きていることがわかればそれでよい。それが大山大和の作戦であった。あとはこのインターネット通信による情報伝達が光のごとく瞬時に行われるご時世だ。事件が世間によって細部まで暴いてもらえばいい。


 牛飼いの穣が大山から渡されたスマートフォンを片手に当たりを撮影している。

 大山は彼に予め指示していた。


「テレビ放映が切られても心配いらん。動画配信サービスでも、Dream pumpkin channel でライブ中継中じゃ。それからこれとは別に、アジトにいる中田君が別番組を配信しておる。横断幕の内容を詳細に暴露しまくる内容じゃ。各国の翻訳付きで有る事無い事ボロカス言わしとる。これは大炎上するぞ」


 無論、デジタル文明黎明期である聖女無天村民には意味がわからない。わからないから、指示に従う他ない。


 実際、動画配信サイトでは、「葦原ワースポの闇が深い。葦原京破綻へのカウントダウン」というタイトルの動画がアップされ、視聴数が見る見るうちに増えている。中田君を雇ったことにより、大山大和のデジタル化が進んでいるのだ。


 松明には油を染みこませた、干した夢南瓜の弦が巻き付けてある。その煙は余ったるい香を放ち、選手団をほのかに夢幻世界へ導いた。


 やがて、櫓は聖火台の麓に到着した。一基目から大きな頭陀袋を担ぎ、松明を持った天空雨の丞と牛飼いの譲、青いプラスティックのタンクを抱えた坊主頭の北野修郭斎が、聖火台への階段を駆け上がった。

 麓では残る村民が櫓を下り、追って来た警官らを迎え撃つ。


「もう少し持ち堪えるぞ!」


 江州悪太郎の号令と共に、追っ手に向かって飛びかかり、肉と肉のぶつかり合い、引っ張り合い、蹴り合い、殴り合いが世界中に中継された。その揉み合いの中から抜け出した警官数人が三人を追って聖火台を駆け上がる。


「追って来たぞー」


 牛飼いが叫ぶと天空雨の丞は、階下を見下し、手に持った松明を「ほうれい!」と先頭の警官に向かって投げた。警官はすんでのところで避けたが、バランスを崩し、後ろから来る別の警官も巻き込んで階段を転げ落ちた。


 窮地を切り抜け、ようやく聖火台にたどり着いた三人は、まず頭陀袋ごと、夢南瓜を放り込み、同時に修郭斎がタンクの蓋を空け、中身の聖火台の中に流し込んだ。ガソリンである。そうして、牛飼いが持っていた松明を放り込んだ。聖火ランナーを待たずして、夜空に火が上がった。


「さあ夢南瓜よ。スタジアムを香しき幻想の煙で包み込め!」


 天罰というものは存在するのか。


 「はっは!」と笑い叫ぶ天空雨の丞の身柄を警察が拘束しようとしたその時、会場が悲鳴に包まれた。同時に天から大きな瓦解音が鳴り響く。照明の一部が影になり、直後、スタジアムの庇を掠めるように破壊して、大きなものが落ちてきた。選手たちが四方八方へ散り散りに逃げる。


 轟音と土煙を上げて砕けたそれは、友愛の像が天に掲げていた人差し指であった。

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