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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
ワールドスポーツフェスティバル葦原京
116/125

開会式に櫓が乱入

 葦原京中に数多ある酒場でも、店店がワールドスポーツフェスティバルの開会に異様な盛り上がりを見せていた。普段は静観なバーでも大画面テレビが設置され、画面には上空からヘリコプターで撮影される競技場の様子が映っている。夜の世界に浮かび上がる煌びやかな会場に、無数のフラッシュが輝いている。


 歌舞伎やら相撲やら、多種多様な伝統文化にアレンジを加えた、評価に賛否が分かれそうな演目が長々と続いた後、やがて、ステージに褌姿の和太鼓集団が現れ、汗しぶきをまき散らしながら、力強い演奏が始まると、和服に身を包んだ美女が踊り、エレキギターの音が割って入る。


 清水川の河原に出っ張った川床にもテレビが置かれ、葦原京区長の楠木勝治や斗南源五郎ら観光協会本部の面々たち、十人ほどの老人たちがビールグラスを片手に映像を眺めていた。


「何とか無事に、開催にこぎつけたな」斗南老人が口を開いた。


「いやはや、しんどかった」


「楠木さんは何にもしとらんじゃろうに」


「そんなことはない。空気になっておったんじゃぞ、誰にも儂の存在に気付かせぬようにな」


「葦原京区長ともあろうものが、そんな意気込みでどうする」


「アホ言え、儂があんな外人の偉いさんをを相手にして何ができる?曽我部さん等の足を引っ張らんように、気配を消した。儂などこの世に存在せぬ。葦原京?そんなもの、ここに勝手にあるだけの街じゃ。そもそも、葦原京が大会を誘致したわけではない。議会が勝手にやったことじゃ。それに」


「わかった、わかった。何にせよ、こうやって距離を置いてここで酒が呑めている。なんと幸せなことじゃ」


「ほんにのお」


 楠木老人が言うと、場にどっと笑いが起こった。


「いよいよ、選手入場だ」


 和菓子屋の旦那がテレビを指さした。赤や青のレーザービームが広大なフィールドを縦横無尽に放たれて、黄色い光が入場ゲートを照らし出すと、ブレザーや民族衣装に身を包んだ各国の選手団が、競技場のゲートから国の頭文字でアルファベット順に入場してくる。国営放送のアナウンサーがいちいちその国の文化や有名選手の説明を入れる。


「オーストラリアか。アメリカはまだか?」


「アメリカのほうが先やろ?何でまだ入場せえへんのや?」


「かっこつけて最後に登場するつもりちゃうか?」


「あほ、あれはAと違う、Uや」


「なんでや!アメリカはAやろ」


「あれ、何ちゅうた?走るのが早い黒人さん」


「知らんわ。興味ない」


「ブラジルはまだか?べっぴんさんが仰山おるぞ」


 老人らのとぼけた会話が河原に響く。


 イニシャルAの国々が終わり、イニシャルBの国が入場して来た。ブラジル選手団が賑やかに歩いている。


「おおブラジルや。ほら、やっぱりべっぴんさん仰山おるわ」


「やっぱりサンバ踊っとるぞ。エキゾチックな国や」


 やがてイニシャルCの国になった。カンボジアが入場してくる、次にカメルーン、カナダと入場し、続いて櫓が侵入してきた。


「おい、何やあれは。けったいなもんが入ってきたぞ」


 老人たちはグラスを置き、テレビに食い入った。


 次に、隠せぬ戸惑いの表情で前後左右をキョロキョロとしながらも、とりあえず入場するチリ選手団。そして櫓。真っ赤な大集団、中国選手団のど真ん中に担がれるようにして、また櫓。その後を無数の黒いのが慌ただしく入って来る。警備員や警官であることは一目瞭然で会場は何やらただ事ではないと大声援のような騒めきに包まれていた。


「おい、何か無事ではすんどらんぞ」


 そうして皆が一斉に、楠木老人を見た。老人は目をぱちくりとさせながら、「儂は関係ないぞ」と首を左右にぶんぶん振った。


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