常世の契り
後年、禿のひとりが、大宮桃龍と高山紫紺の契約の場について、天つ神によってこの世が創られたとすれば、国産みの儀式とはかくたるものや、と語った。官能、エロス、助平などという言葉とは相容れない、固有の異種たる崇高な行為であったと表現された。
一糸纏わぬ高山に、一糸纏わぬ桃龍が重なると、性別を超えたひとつの生体となり、部屋ごとぐにゅぐにゅうねり始めたかと思うと、壁面が生体を包み込み、離れた場所にいる禿までがその一部と化す感覚に苛まれ、まるで母の胎内で蠢く穢れなき胎児のような一個体となった。驚くべきことに、夢南瓜は一切使用していない。それは高山が契約を受ける条件であった。
「俺が夢南瓜を認めない最大の理由は不必要だということだ」
そんなものに頼らなくとも、己は堅洲の世をも越境するほどの快楽の中に身を置くことができる、と高山は嘯いた。
桃龍は彼の身体を委ねられようと、微笑みを絶やさず、優しい呼吸を繰り返しながら包み込み、受け入れたが、実際は己が彼の言う堅洲の世との境界線で抗っていた。その向こう側へ引きずり込まれれば、今度は己の身を委ねることになる。そうなれば、精神面においても彼の下僕となり果てることになる。片足のつま先だけをこの世に置いて踏ん張りながら、彼女は犬若や獏爺、馬方藤十郎らの転落や碧小夜、そして春道らを想った。
桃龍は果てしない快楽に中、制御できない喘ぎ声と共に、「夢南瓜が果てるなど無い」と囁いた。高山は無言のまま、更に彼女の身を強く求め、空間を色濃く導いた。
桜の葉が万華鏡のように吹雪く紅唐の生柔らかな世界の外では、西京府の警官隊と観光協会、聖女無天連合が睨み合っている。
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