大宮様の集団放置プレイ
「まだか、大宮様は!一体何をなさっているのだ、こんな時に」
二十畳ほどの座敷に通され、始めは青々とした畳に正座をしていた幸村朱鷺も、文字通り、痺れを切らせて足を崩した。そして女座りになったまま足が動かなくなってしまったようだ。顔をしかめて固まっている。そのシルエットが、とっても気色悪い。
「時間が無んだよ。誰か急かしに行ってくれ」
「無礼な!大宮様が下界の人間のお目通りするのだぞ」
猫の坊が「なんだ、その座り方は」と胡坐を掻く沢井宗八を軽く恫喝した。沢井は舌打ちしながら正座すると、口を開けて天井を仰いだ。一面に鶴や鹿、仏様や龍といった、「厳か」のごった煮のような装飾が彫り込まれ、黒々とした艶を放っている。
春道はその座敷の南の敷居の外、幾人かの老人と共に襖に隠れて正座していた。すでに桃龍に謁見できる立場にない。
更に暫く時間が経った。どこからか琴の音色が聞こえてくる。その音色は美しいが時折、失敗して音が止み、また始まったかと思うと同じ個所で失敗し、また音が止む。一同が黙ってその音色に耳を傾けていた。
やがていつの間にか、その音も聞こえなくなっていて、もはや部員達は、嫌という程眺めた天井をもう一度、改めて見回してみるか、畳のい草の数を数えるか、足が痛くてもじもじしている幸村の後ろ姿を観察するくらいしか、持て余した時間を潰す術がない。
「何だこの放置プレイは!ド変態どもが!」と沢井が叫ぼうと立ち上がったその時、西の障子戸の脇に鎮座していた柘植重衛が、飛び出さんばかりにギョロリとした眼光で一同を見渡した。
姿勢を正せ。大宮様の御成りだ。
柘植が目でそう言うと、不意に戸が引かれ、大玉引、極楽導師と順に宮女らが入室して来る。天竺蓮華、紅金魚、そして碧小夜が姿を現し、上座の左右に並んだ。そうして、露払いの禿がふたり、並んで入室すると、いよいよ、障子の豪奢な影が映り逆光を浴びた大宮桃龍が姿を現した。まるで結婚でもするかのような豪華絢爛な赤を基調とした和装で、黒々と下げた髪に包まれ眉、唇まで白粉を塗った白い小さな丸顔が浮かんでいる。その血の気が無いような、冷徹そうで艶めかしい表情に、幸村朱鷺は「美しい」と呟いて、姿勢を正した。
桃龍が上座の中央に立つと、柘植や猫の坊につられて、観光協会一同も平伏した。
「これは珍景じゃ。観光協会が高天の宮で頭を下げておる」
桃龍は口を緩めた。そうして、表を上げなさい、と命じた。一同、まるで躾けられた犬のようにそれに従う。
「幸村部長自らご来訪ということは、ただ事ではないと見受ける。遠路、はるばる何用だ?」
「おそれながら」と幸村が切り出した。
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