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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
ワールドスポーツフェスティバル葦原京
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春道の夢

 春道はひどく現実的な夢を見た。夢とは普通、得体の知れないことが起こるのものである。衣類を全部はぎ取られて、市中で股間を押さえながら隠れる場所を探していたり、普段はほとんど接点のない、担国寺猫の坊をボコボコに殴りつけ、それでも相手は一向に倒れる事無く、不適な笑みともに子猫を投げつけられたり、観光協会を従えて葦原京を練り歩いていたら、落とし穴に落ちて知らない婆さんと顔を見合わせていたり、寝ているとは言えよくもまあ、そんな捻りの聞いた妄想ができるものだと思う。


 しかし、この日は寝ていながらも己の眠りの浅さを自覚し、桃龍の氏子を破門とされ、碧小夜にも袖にされた挙句、天空雨の丞に奪われるといった、何とも現実的で厭な夢を見ながら、それも海の浅瀬に沈んでいたところをゆっくりと浮上するかのように目が覚めた。体がチクチクとしながら浮き立ち、胸の辺りに鉄球をはめ込まれように重く辛い。厭でも湧き出す暗い思考。この後の人生、何の楽しみ目的もなく、この村で寝起きを繰り返すだけなのかと考えると、夢の中でいた浅い海の遥か沖に存在する海溝へ落ちて行くような気がした。


 咄嗟に枕元にあった南瓜葉巻のシケモクに火をつけて、頭の中を白い煙で充満させるよう大きく吸い込んだ。時間は想像していたよりも経過していないことに気が付いた。ほんの二十分にも満たない間によくもあれだけの妄想をしたものだ、と思った。


 南瓜の煙が脳を揺さぶる。部屋が三倍くらいに大きく見え、時計の針が更に十分ほど過去に戻ったように思えた。逆に耳は研ぎ澄まされ、小屋に面した大通りから人々の騒ぐ声がする。どこかで聞いた野太い声もする。この村で聞いたのとは違う。どこで聞いた声だったか。


 清水川での乱闘事件のあの夜か。


 春道はベッドから起き上がると、作務衣を着て飛び出した。その目の前に広がる光景は、目覚めたばかりの脳みそに悪い、実に殺伐とした光景であった。

観光協会青年部長・幸村朱鷺、副長・高山紫紺を先頭にした集団に、旦国寺猫の坊、柘植重衛といった大宮氏子が対峙し、今まさに怒りの引き金を引こうとしていた面々が一斉に、不意に飛び出して来た那智の春道に目を向けた。


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