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欲望のカボチャ村と古都の荒くれ観光協会  作者: 源健司
ワールドスポーツフェスティバル葦原京
104/125

採決

 西京府議会会議室の豪勢な、あるいは見ようによってはでっかいチョコレートのようにも見える、焦げ茶色にテカった分厚い扉が開くと、左右のテーブルについた四十人ほどの議員が一斉に立ち上がり、頭を下げた。升席にいた幸村朱鷺と高山紫紺もそれに倣い立ち上がる。


 ふかふかなワインレッドの絨毯の上を、副議長の猿返が小さな痩せ鼠のような体を目いっぱい、偉そうに誇張しながら胸を張って歩き、その後ろから議長たる曽我部氏が入室、立派な髭を突き出すようにして、皺ひとつないスーツに背筋の伸びた綺麗な姿勢で、まず幸村らの背後を通過し、やがて上座に着くと着席した。それに倣って他の議員も腰を下ろす。


「基本的に、本日の定例会前に、皆さまに集まって頂いたのは他でもありません」


 猿返が下品に尖らせた薄い唇から、裏返りそうな声を張り上げた。


「えー、基本的に臨時会と称するのもおこがましいのですが、緊急に採決を必要とする事案がありまして、お時間を頂戴させて頂く事と相成りました、基本的に。その事案とは、基本的に葦原京における治安維持活動を自治するという形で委託していた観光協会青年部の責務の改定に関する内容であります。葦原ワースポを目前に控え、関係各位、基本的に多忙極まる中と存じますが、こちらの事案もまた、基本的に当大会を前にして早急極まる議決、およびその結果如何では基本的に至急、対処を必要とするが為、この場をお借り致しました、基本的に」


 議員は幸村らに視線を向けようともせず、俯いている者、正面を向いて瞬きを繰り返す者、欠伸をしている者、一様に頷いている者と様々ではあるが、共通しているのは、「この糞忙しい時にどうでもいいことで呼び出すな」という態度である。


 そんな中、このふたりにとって、事は重大極まりない。


「責務の改定だと・・・!」


 幸村の首に青筋が浮き出る。その横で高山紫紺は「やはり」と目を閉じた。


「続けたまえ」


 曽我部議長が眉間を抓みながら命じると、猿返副議長が、改定案を次々に読み上げた。一同皆、その場に升席のふたりの姿など見えぬというかのように、何事もなく聞き入っている。


 やがて、項目ごとの採決が始まった。


 賛成の方は挙手を

 賛成多数で可決されました。

 賛成の方は挙手を

 賛成多数で可決されました。

 賛成の方は挙手を

 賛成多数で可決されました。

 賛成多数で可決されました。

 賛成多数で可決されました。

 賛成多数で…


 「もういい!」と、いつ、幸村が机を叩き、椅子を蹴り上げるのかと高山は黙って伺っていたが、最後まで幸村は微動だにしなかった。時折彼の「うーうー」という微かな唸り声が、聞こえてくる。高山自身もだんだんともう、何もかもがどうでもよくなってきた。


 「もう、どうしょうもない。どうでもいい。ああ、めんどくさい」という彼らしくもない思考が充満し、頭の中が真っ白になった。

 

 気が付けば、議題はいつの間にか、観光協会の責務改定の話などなかったかのように、さらりとリニアモーターカーの停車駅誘致の問題に移っていた。


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